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第一章 伝説の始まり

第2話 伝説の民

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 宝燐山の麓に、聖杜セイトと呼ばれる小さな王国があった。

 こんな奥深い森の中に、一体どこからこれほどの石を運んで来たのか不思議であったが、四方を高い石の城壁に囲まれた中に、全ての国民が住居を構え、自給自足の生活でひっそりと暮らしていた。

 中心にある王宮の門内には神殿が建てられていたが、宗教による統治が行われているわけでは無く、滾々と湧き出る小さなが祭られていた。
 神殿の隣には王立学校と工房や研究施設があって、国の全ての子どもはこの学校にて無料で学ぶことが出来た。そして十八歳を迎えると、それぞれの特性や興味に合わせて工房や研究施設で学び、いずれ人々の生活を助ける仕事につくことになる。

 城壁内には、神殿の泉から通ずるように小さな川が流れていた。
 河畔には、聖杜にだけ育つアマルの並木道が整備され、その水流によって人々は様々な作物を作り、魚を釣り、日々の生活の糧を得ていた。

 人々の生活はつつましいものだったが、民と国王との関係は良好だった。

 なぜなら、聖杜の民には大きな使命があったから。

 ここは伝説の地。

 彼らは始まりの民であり、エストレアの祖。

 そして、彼ら民の使命は、『ティアル・ナ・エストレア』を守ることだった。

 それは、他国に知られてはならない秘密の使命。
 もし誰かに知られれば、剣と指輪は略奪され、王国の未来は無いだろう。
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