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第三章 飛王の即位
第35話 即位式
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扉の外が慌ただしくなる。
「失礼します」
年配の落ち着いた男性の声がして、正装に身を包んだ宰相二人が部屋へ入って来た。
右宰相の開項と左宰相の斉覚だ。
「飛王様、よくぞご無事で。事件をお聞きして驚きました」
二人は強張った表情のまま飛王の前に跪いた。
「二人共心配をかけてすまなかった。瑠月の素早い対応でなんとか無事、禊祭を行えたので大丈夫だ」
飛王は二人の宰相を安心させるように、禊祭が滞り無く行われたと伝える。
内心の動揺を見せないように、落ち着いた声で指示を出す。
「着替え終わったら、即位の儀式に行く。少しだけ待っていてくれ」
開項と斉覚は驚いたような表情になったが、飛王の強い意志の込められた目を確認すると、静かに頭を下げた。
「御意」
そして、部屋の中をそっと見回して飛翔の姿が無い事を確認すると、複雑な表情になって顔を見合わせた。
飛翔が『知恵の泉』に飲み込まれたと言う話は、どうやら本当のことのようだ。
高い城壁に守られた聖杜国は、中央の王宮を取り囲むようにして民の家が建てられている。焼きレンガで作られた住居は人々を寒暖の差から十分に守ることができた。王宮より北側の宝燐山へ向かう森との境に大きな窯が備えられていて、日々良質な焼レンガを作り出すことも可能だった。
神殿の『知恵の泉』の水を起点として流れ出ていると言われる川は、南へ向かって流れていて、その川下の一帯には田や畑が整備されて、聖杜の人々の食生活を支えていた。
王宮の門をくぐると直ぐに美しい庭園、人々が憩える公園のような広場が作られていて、聖杜の人々が普段から自由に出入りができるようになっていた。
その右手には、子どもたちが通う学校、その隣に工房と研究施設が並んで建てられており、左手には神殿があって、中には『知恵の泉』だけが静かに護られている。
公園内の道を奥まで進むと、政務を行う議事堂があり、王が人々と謁見できる『玉座の間』もこの中に作られていた。『玉座の間』では、国の重要事項を決める会議が行われているだけでなく、人々の希望があれば、誰でも直接王と話すことが許されている。つまり、人々は、王宮の奥深くまで自由に出入りできるようになっていたのだった。
本来であれば、禊祭が終わったら王宮の門を開放して、いつものようにこの美しい庭園に人々を招きいれる予定だった。既にたくさんの人々が、門の前へ祝福に訪れていた。
だが、神殿での事件を受けて、門は閉ざされたまま。
人々は不安そうな顔をして中の様子を伺っていた。
飛王と飛翔の学校時代からの友人たちも、心配そうな顔をして中を見つめていることしかできなかった。
飛王は支度が整うと、議事堂内にある『玉座の間』へ向かった。
『玉座の間』には、国の政務を司る主だった人たちが集まっていた。
先程の騒動の顛末を聞いた政務官たちは、驚きの表情を浮かべて動揺していたが、無事な飛王の姿を見て、ほっと安堵のため息を漏らす。
そんな人々の様子に気づいた飛王は、いつものにこやかな笑顔で声をかけた。
「みんな、驚かせてすまなかった。私達は無事だからもう心配しないでくれ」
あえて、『私達』と言う。
いつもなら片時も離れず寄り添っているはずの飛翔の姿が無い事は、人々も気づいていたが、あえて口にする者はいなかった。
一番奥まったところに置かれた『玉座』。
青い絨毯が引かれた道筋を真っすぐに見据えて、飛王はゆっくりと進んでいった。
かたずを飲んで見守る政務官たち。
玉座の前で一呼吸。意を決したように腰を下ろした。
しっくりと包みこむように、玉座は飛王を受け入れてくれた。
内心ほっと胸を撫でおろす。
良かった。
俺は、宇宙の神に継承者として認められたらしい……
ウオーと言う政務官たちの喜びの声が上がった。
「新王陛下! ご即位おめでとうございます!」
歓声の中、飛王はにこやかに手を振った。
「みんなありがとう」
そして立ち上がるとみんなを見回しながら言った。
「この国は今、人々の穏やかな生活が脅かされるような事件が立て続けに起こってしまった。だが私はこの身に変えても、この国を守りたいと思っている。でも、未熟な私が一人でなしえることではない。どうか私にみんなの力を貸して欲しい」
そう言って深く頭を下げた。
年かさの政務官たちは、その謙虚な姿に一瞬言葉を失ったが、次の瞬間口々に協力の言葉を叫んでいた。
「飛王様! 万歳!」
頭を挙げて笑顔で感謝の言葉を告げながら、飛王は考えていた。
俺は、宇宙の神によって即位を認められた。
ということは、星砕剣の持ち主となれたわけだ。
だが、そうなると残る疑問は一つ。
星砕剣とは、なんのためにどんな力を秘めているのだろうか?
「失礼します」
年配の落ち着いた男性の声がして、正装に身を包んだ宰相二人が部屋へ入って来た。
右宰相の開項と左宰相の斉覚だ。
「飛王様、よくぞご無事で。事件をお聞きして驚きました」
二人は強張った表情のまま飛王の前に跪いた。
「二人共心配をかけてすまなかった。瑠月の素早い対応でなんとか無事、禊祭を行えたので大丈夫だ」
飛王は二人の宰相を安心させるように、禊祭が滞り無く行われたと伝える。
内心の動揺を見せないように、落ち着いた声で指示を出す。
「着替え終わったら、即位の儀式に行く。少しだけ待っていてくれ」
開項と斉覚は驚いたような表情になったが、飛王の強い意志の込められた目を確認すると、静かに頭を下げた。
「御意」
そして、部屋の中をそっと見回して飛翔の姿が無い事を確認すると、複雑な表情になって顔を見合わせた。
飛翔が『知恵の泉』に飲み込まれたと言う話は、どうやら本当のことのようだ。
高い城壁に守られた聖杜国は、中央の王宮を取り囲むようにして民の家が建てられている。焼きレンガで作られた住居は人々を寒暖の差から十分に守ることができた。王宮より北側の宝燐山へ向かう森との境に大きな窯が備えられていて、日々良質な焼レンガを作り出すことも可能だった。
神殿の『知恵の泉』の水を起点として流れ出ていると言われる川は、南へ向かって流れていて、その川下の一帯には田や畑が整備されて、聖杜の人々の食生活を支えていた。
王宮の門をくぐると直ぐに美しい庭園、人々が憩える公園のような広場が作られていて、聖杜の人々が普段から自由に出入りができるようになっていた。
その右手には、子どもたちが通う学校、その隣に工房と研究施設が並んで建てられており、左手には神殿があって、中には『知恵の泉』だけが静かに護られている。
公園内の道を奥まで進むと、政務を行う議事堂があり、王が人々と謁見できる『玉座の間』もこの中に作られていた。『玉座の間』では、国の重要事項を決める会議が行われているだけでなく、人々の希望があれば、誰でも直接王と話すことが許されている。つまり、人々は、王宮の奥深くまで自由に出入りできるようになっていたのだった。
本来であれば、禊祭が終わったら王宮の門を開放して、いつものようにこの美しい庭園に人々を招きいれる予定だった。既にたくさんの人々が、門の前へ祝福に訪れていた。
だが、神殿での事件を受けて、門は閉ざされたまま。
人々は不安そうな顔をして中の様子を伺っていた。
飛王と飛翔の学校時代からの友人たちも、心配そうな顔をして中を見つめていることしかできなかった。
飛王は支度が整うと、議事堂内にある『玉座の間』へ向かった。
『玉座の間』には、国の政務を司る主だった人たちが集まっていた。
先程の騒動の顛末を聞いた政務官たちは、驚きの表情を浮かべて動揺していたが、無事な飛王の姿を見て、ほっと安堵のため息を漏らす。
そんな人々の様子に気づいた飛王は、いつものにこやかな笑顔で声をかけた。
「みんな、驚かせてすまなかった。私達は無事だからもう心配しないでくれ」
あえて、『私達』と言う。
いつもなら片時も離れず寄り添っているはずの飛翔の姿が無い事は、人々も気づいていたが、あえて口にする者はいなかった。
一番奥まったところに置かれた『玉座』。
青い絨毯が引かれた道筋を真っすぐに見据えて、飛王はゆっくりと進んでいった。
かたずを飲んで見守る政務官たち。
玉座の前で一呼吸。意を決したように腰を下ろした。
しっくりと包みこむように、玉座は飛王を受け入れてくれた。
内心ほっと胸を撫でおろす。
良かった。
俺は、宇宙の神に継承者として認められたらしい……
ウオーと言う政務官たちの喜びの声が上がった。
「新王陛下! ご即位おめでとうございます!」
歓声の中、飛王はにこやかに手を振った。
「みんなありがとう」
そして立ち上がるとみんなを見回しながら言った。
「この国は今、人々の穏やかな生活が脅かされるような事件が立て続けに起こってしまった。だが私はこの身に変えても、この国を守りたいと思っている。でも、未熟な私が一人でなしえることではない。どうか私にみんなの力を貸して欲しい」
そう言って深く頭を下げた。
年かさの政務官たちは、その謙虚な姿に一瞬言葉を失ったが、次の瞬間口々に協力の言葉を叫んでいた。
「飛王様! 万歳!」
頭を挙げて笑顔で感謝の言葉を告げながら、飛王は考えていた。
俺は、宇宙の神によって即位を認められた。
ということは、星砕剣の持ち主となれたわけだ。
だが、そうなると残る疑問は一つ。
星砕剣とは、なんのためにどんな力を秘めているのだろうか?
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