私の推しは雑草男子

涼月

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Step3 胡蝶蘭男子の恋人役を務めることになりました

ヒメツルソバ④

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「すっかり遅くなってしまってすまなかったね」
 
 私の家のアパートの前に辿り着いたのは、もう日付を大きく超えた時間。
 おんぼろアパートの前にピカピカの黒い車が停まっている光景はアンバランスだったけれど、でもそれも今日だけのこと。

「この服は君にあげるよ」
「そんないただけません」
「でも、俺が着ることはできないよ」

 真顔でそう返されて、思わず笑ってしまった。
 確かに! でも、そんな風に笑わせてくれる室長って、本当はウィットに富んだ方なのかもしれないな。

「でも、私じゃ着ていくところなんてないですよ」
「家でファッションショーしたら」
「なんですか、それ」

 もう、人を何だと思っているよの。でも、いただく罪悪感みたいなのは消え去って、手当の一部と考えればいいかと、軽く考えることができるようになったの。
「じゃあ、お言葉に甘えて。特別手当の一部としていただいておきますね」
「そうそう。あ、明日振込先教えて。特別手当振込から」
「はい。よろしくお願いします。では、おやす……」

 その時、ふいに高梨室長に抱きしめられた。

 頭の中真っ白になって、全身が心臓になったみたいに響く鼓動。

 唯一感じたのは―――

 高梨室長って温かい。

「俺のシンデレラ。十二時はとっくに過ぎているけど、もう少しだけこうさせて欲しい」

 抱きしめる腕に、更に力がこもってきた。室長の胸の音が、私にも聞こえるくらい。
 ああ、やっぱりリズムが速いのね。

 急に、この瞬間が永遠に続けばいいのにって思ってしまったの。
 そんなことはあり得ないってわかっているのに。
 室長とは世界が違う。何もかも。だから私が代役に選ばれた。
 後一か月ちょっとでバイバイだから。だからこの役に最適だった。

 それなのに、この温もりは手放し難くて、両親が亡くなってから耐え続けてきた心細さを包んでくれたようで。
 思わず、私も室長のシャツを握り締めていた。


 今だけだから。これっきりだから。

 甘えさせて……

 
 
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