33 / 62
Step3 胡蝶蘭男子の恋人役を務めることになりました
ヒメツルソバ④
しおりを挟む
「すっかり遅くなってしまってすまなかったね」
私の家のアパートの前に辿り着いたのは、もう日付を大きく超えた時間。
おんぼろアパートの前にピカピカの黒い車が停まっている光景はアンバランスだったけれど、でもそれも今日だけのこと。
「この服は君にあげるよ」
「そんないただけません」
「でも、俺が着ることはできないよ」
真顔でそう返されて、思わず笑ってしまった。
確かに! でも、そんな風に笑わせてくれる室長って、本当はウィットに富んだ方なのかもしれないな。
「でも、私じゃ着ていくところなんてないですよ」
「家でファッションショーしたら」
「なんですか、それ」
もう、人を何だと思っているよの。でも、いただく罪悪感みたいなのは消え去って、手当の一部と考えればいいかと、軽く考えることができるようになったの。
「じゃあ、お言葉に甘えて。特別手当の一部としていただいておきますね」
「そうそう。あ、明日振込先教えて。特別手当振込から」
「はい。よろしくお願いします。では、おやす……」
その時、ふいに高梨室長に抱きしめられた。
頭の中真っ白になって、全身が心臓になったみたいに響く鼓動。
唯一感じたのは―――
高梨室長って温かい。
「俺のシンデレラ。十二時はとっくに過ぎているけど、もう少しだけこうさせて欲しい」
抱きしめる腕に、更に力がこもってきた。室長の胸の音が、私にも聞こえるくらい。
ああ、やっぱりリズムが速いのね。
急に、この瞬間が永遠に続けばいいのにって思ってしまったの。
そんなことはあり得ないってわかっているのに。
室長とは世界が違う。何もかも。だから私が代役に選ばれた。
後一か月ちょっとでバイバイだから。だからこの役に最適だった。
それなのに、この温もりは手放し難くて、両親が亡くなってから耐え続けてきた心細さを包んでくれたようで。
思わず、私も室長のシャツを握り締めていた。
今だけだから。これっきりだから。
甘えさせて……
私の家のアパートの前に辿り着いたのは、もう日付を大きく超えた時間。
おんぼろアパートの前にピカピカの黒い車が停まっている光景はアンバランスだったけれど、でもそれも今日だけのこと。
「この服は君にあげるよ」
「そんないただけません」
「でも、俺が着ることはできないよ」
真顔でそう返されて、思わず笑ってしまった。
確かに! でも、そんな風に笑わせてくれる室長って、本当はウィットに富んだ方なのかもしれないな。
「でも、私じゃ着ていくところなんてないですよ」
「家でファッションショーしたら」
「なんですか、それ」
もう、人を何だと思っているよの。でも、いただく罪悪感みたいなのは消え去って、手当の一部と考えればいいかと、軽く考えることができるようになったの。
「じゃあ、お言葉に甘えて。特別手当の一部としていただいておきますね」
「そうそう。あ、明日振込先教えて。特別手当振込から」
「はい。よろしくお願いします。では、おやす……」
その時、ふいに高梨室長に抱きしめられた。
頭の中真っ白になって、全身が心臓になったみたいに響く鼓動。
唯一感じたのは―――
高梨室長って温かい。
「俺のシンデレラ。十二時はとっくに過ぎているけど、もう少しだけこうさせて欲しい」
抱きしめる腕に、更に力がこもってきた。室長の胸の音が、私にも聞こえるくらい。
ああ、やっぱりリズムが速いのね。
急に、この瞬間が永遠に続けばいいのにって思ってしまったの。
そんなことはあり得ないってわかっているのに。
室長とは世界が違う。何もかも。だから私が代役に選ばれた。
後一か月ちょっとでバイバイだから。だからこの役に最適だった。
それなのに、この温もりは手放し難くて、両親が亡くなってから耐え続けてきた心細さを包んでくれたようで。
思わず、私も室長のシャツを握り締めていた。
今だけだから。これっきりだから。
甘えさせて……
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる