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Step5 胡蝶蘭男子の秘密を知りました
ナズナ①
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私はそうっとベッドから降りると、怜さんのところへ向かった。
ソファ横に膝をつく。
今も眉間に皺を寄せた苦しそうな顔をしている。
ごめんなさい。ありがとう。
心の中でそうつぶやいて、今度は私からそっとキスをした。
怜さんの唇がピクリと反応する。
構わずにもう一度。滑らかな唇に添うように吸う。
その動きに合わせるように、怜さんの口元もリズミカルになっていく。
「花……乃ちゃん」
ぱちりと目を開けた玲さん。瞳が驚きの色を隠せていない。
「怜さん、私、怜さんのこと、好きです」
「な……」
「私は何も持っていないし、怜さんの足手まといにばかりなってしまうけれど、せめて、その眉間の皺だけは無くしてあげたいです」
「花乃ちゃん、何を言って……」
起き上がろうとする怜さんをやんわりと押さえつける。上から見下ろせば苦し気な顔に見上げられた。
「怜さん、何が代償だったんですか? 私の命ですか?」
「そんなことあるわけ……」
「じゃあ、社会的抹殺ですか?」
「……」
「雑草を甘く見ないでください。雑草は何にも持っていないから、失うのなんか怖くないんです。それに、どんなに小さな隙間でも生きていかれるしぶとさも持っているんですからね」
「花乃ちゃん」
両手で頬を挟み、もう一度キスしようとすると、怜さんが必死に抵抗してくる。
「だからそんな簡単な話では無いんだ」
「いいえ、簡単な話です!」
思いのほか大きな声が出て、怜さんが動きを止めた。
自分の声に勇気をもらう。
真っ直ぐに怜さんの瞳を見つめて、微笑んだ。
「怜さん、私だって傷つくのは怖いです。怜さんに拒絶されるのも怖いです。でも、一番嫌なのは、あなたに自分の気持ちを正直に伝えないことです。絶対後悔するのがわかっているから。今、この瞬間を大切にしたいんです」
怜さんの体から力が抜けた。
「私、仕事に一生懸命な怜さんが好きです。周りの人のこと、良く見ている怜さんが好きです。意地悪を言って悪役になる怜さんが好きです。愛がわからないと苦しむ怜さんが好きです。愛することをあきらめきれない怜さんが好きです。そうやってのたうち回っている怜さんが好きなんです」
すっかり日の落ちた部屋の中。
薄暗い光の中で、煌めくのは涙の膜。
ゆっくりと私を押しのけた怜さんがソファから足を降ろす。足元に座り込んだ私の腕を取り、今度は自分の膝の上へと誘った。
「花乃ちゃんを強引に引き寄せたのは俺だ。でもやっぱり巻き添えにしたくないんだ」
「巻き添えになんかなりません。私があなたにすべてを捧げたいんです。受け取ってもらえませんか?」
怜さんの瞳が信じられないものを見るように私を見つめてくる。
「キミがそんなに大胆な人だったなんて……」
「私も初めて知りました」
クスリと笑った私を見て、怜さんもクシャリと笑った。
「花乃ちゃん、君って人は」
一瞬苦し気に顔をゆがませた怜さん。次の瞬間、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺も花乃ちゃんが好きだよ。でも、俺は君にすべてを捧げることはできない」
「いいんです。もらって嬉しいプレゼントの中身は、人それぞれなんですよ。だから私はこれで十分なんです」
私を抱きしめた怜さんの体が小刻みに揺れている。
初めて彼が……泣いた―――
ソファ横に膝をつく。
今も眉間に皺を寄せた苦しそうな顔をしている。
ごめんなさい。ありがとう。
心の中でそうつぶやいて、今度は私からそっとキスをした。
怜さんの唇がピクリと反応する。
構わずにもう一度。滑らかな唇に添うように吸う。
その動きに合わせるように、怜さんの口元もリズミカルになっていく。
「花……乃ちゃん」
ぱちりと目を開けた玲さん。瞳が驚きの色を隠せていない。
「怜さん、私、怜さんのこと、好きです」
「な……」
「私は何も持っていないし、怜さんの足手まといにばかりなってしまうけれど、せめて、その眉間の皺だけは無くしてあげたいです」
「花乃ちゃん、何を言って……」
起き上がろうとする怜さんをやんわりと押さえつける。上から見下ろせば苦し気な顔に見上げられた。
「怜さん、何が代償だったんですか? 私の命ですか?」
「そんなことあるわけ……」
「じゃあ、社会的抹殺ですか?」
「……」
「雑草を甘く見ないでください。雑草は何にも持っていないから、失うのなんか怖くないんです。それに、どんなに小さな隙間でも生きていかれるしぶとさも持っているんですからね」
「花乃ちゃん」
両手で頬を挟み、もう一度キスしようとすると、怜さんが必死に抵抗してくる。
「だからそんな簡単な話では無いんだ」
「いいえ、簡単な話です!」
思いのほか大きな声が出て、怜さんが動きを止めた。
自分の声に勇気をもらう。
真っ直ぐに怜さんの瞳を見つめて、微笑んだ。
「怜さん、私だって傷つくのは怖いです。怜さんに拒絶されるのも怖いです。でも、一番嫌なのは、あなたに自分の気持ちを正直に伝えないことです。絶対後悔するのがわかっているから。今、この瞬間を大切にしたいんです」
怜さんの体から力が抜けた。
「私、仕事に一生懸命な怜さんが好きです。周りの人のこと、良く見ている怜さんが好きです。意地悪を言って悪役になる怜さんが好きです。愛がわからないと苦しむ怜さんが好きです。愛することをあきらめきれない怜さんが好きです。そうやってのたうち回っている怜さんが好きなんです」
すっかり日の落ちた部屋の中。
薄暗い光の中で、煌めくのは涙の膜。
ゆっくりと私を押しのけた怜さんがソファから足を降ろす。足元に座り込んだ私の腕を取り、今度は自分の膝の上へと誘った。
「花乃ちゃんを強引に引き寄せたのは俺だ。でもやっぱり巻き添えにしたくないんだ」
「巻き添えになんかなりません。私があなたにすべてを捧げたいんです。受け取ってもらえませんか?」
怜さんの瞳が信じられないものを見るように私を見つめてくる。
「キミがそんなに大胆な人だったなんて……」
「私も初めて知りました」
クスリと笑った私を見て、怜さんもクシャリと笑った。
「花乃ちゃん、君って人は」
一瞬苦し気に顔をゆがませた怜さん。次の瞬間、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺も花乃ちゃんが好きだよ。でも、俺は君にすべてを捧げることはできない」
「いいんです。もらって嬉しいプレゼントの中身は、人それぞれなんですよ。だから私はこれで十分なんです」
私を抱きしめた怜さんの体が小刻みに揺れている。
初めて彼が……泣いた―――
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