リリアの鑑定備忘録 国一番と評判の魔法石鑑定士は何故か二十一歳を繰り返している

涼月

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願いが叶う時

第43話 謁見

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『このユーラティオンを半分にするんです。一つはレギウスにそのまま。もう一つの欠片はエリウス様に献上する』

『それって……もしかして』

 アムネリアの顔が喜びに輝く。震える口元が弧を描いた。

『エリウス様に会えるの!』

『はい! 私の少ない経験上なんですけれど、強い思念もその願いが成就されると、魔力が消滅したり安定したりするんです。だから、エリウス様の元に戻れたらアムネリアさんの願いは叶うから……繰り返しの魔力はなくなるはずです。これでも私、宮廷でだいぶ信用されていますから、きっと受け取っていただけると思います。任せてください』

 胸の前で拳にぐっと力を固めて信頼をアピールする。

『あ、でも、珍しい癒しの石があるとだけ言ってお渡ししますね』

『そんな方法があるのね。嬉しいわ。ありがとう。もう一度だけ、あの人を癒して差し上げられたら、それ以上は望まないの。そうしたら、私は二人の傍で静かに眠りにつくわ』

『あの、その代わりに私のお願いも聞いていただけますか?』
『え! いいわよ。なんでも言って』

『また、こうやって時々おしゃべりしてもいいですか?』

 その言葉に、感謝と安堵と喜びと、様々な光を宿すアムネリアの瞳。

『リリアさん……ありがとう。そう言ってもらえて凄く嬉しいわ。いつでも声をかけてね。ああ、レギウスは本当に幸せ者ね。安心したわ』  

『だから言ってるだろ。俺は幸せだって』

 そう言って、糸の向こうのレギウスが胸を張った。



 数日後、リリアの願い事は直ぐに聞き届けられ、エリウス王への謁見が認められた。
 エールリック総隊長直々の迎えの馬車にリリアとレギウス。

 二人を出迎えたのはユリウス皇太子だった。そのまま案内されたのは、公式な客人をもてなす謁見の間では無く、ユリウス皇太子の私室だった。

「これは一体、どういうことなのでしょうか?」

 戸惑うリリアに、ユリウス皇太子が部屋で待つ人に視線を向ける。
 座っていたのは、エリウス王だった。

 経年の皺は刻まれているが、そこにあるのはアムネリアが見せた記憶の中のエリウス皇太子と同じ顔。のしかかる責務に苦悩の色は濃いが、それでも瞳はあの頃と同じ高潔な率直さを無くしていなかった。

 リリアの手の中のユーラティオンがきらりと光る。そして、レギウスの首に掛けられた片割れも。

 正式な礼を取るリリアとレギウスを見つめるエリウス王。
 その瞳が、じいっとレギウスに注がれた。

 やがて切なげに揺れ、目を閉じた。

「アムネリアにそっくりだな」

 その一言に、全てが語りつくされていた。

 やはりエリウス王は知っていたのだ。レギウスがアムネリアと自らの子であることを。
 ユリウスも知っているのだろうかと視線を向ければ、穏やかな眼差しをレギウスに向けている。驚いた色も無く。

 やっぱり、ユリウス様も気づいていらしたのね。

「この度のアズライルムの件では、双方とも多大なる貢献を見せてくれた。感謝する。その上、私への贈り物を持参してくれたとは。有難く頂こう」

 恭しく差し出したリリアからユーラティオンを受け取ると、何の迷いも無く両の手で包み込んだ。

「……歌が聞こえる」

 ぽつりとそう零すと、瞳が驚きに包まれた。

「これは極上の癒し。流石だな。この一品を贈り物として選ぶとは。リリア、そなたはこの国一番の魔法石鑑定士で間違いないな」
「恐れ多いお言葉、もったいないお言葉をありがとうございます」

「その相棒であるレギウスよ。そなたも大儀であった。今まで、よく生きて……」

 その先は言葉にならなかった。

「この魔法石はそなたにとっても大切なモノであろう。私が持っていても良いのかな?」
「はい。私もここに」

 胸元から出してユーラティオンの半身を見せれば、エリウス王の目元にきらりと光る雫。

「良い物をもらったからな。少しばかり昔語りをしてもいいかな?」
「「「はい」」」

 ユリウスも共に頷いた。

「あれは、わたしがまだユリウスと同じように皇太子の立場に居た時のことだ。ユリウスの母とは政略結婚で、この国一番の権力者の娘だった。だが、決して私は彼女を蔑ろに思っていたわけではない。真面目で優しい女性だ。今も、私を陰で支えてくれている。感謝しているよ」

 そう言って、ユリウス皇太子に目を向けた。頷くユリウス。

「ユリウスが生まれてまだ一年ほどの頃だったか。イザベラは子育てに一生懸命だった。立派な後継者に育てようと赤子のそたなにも厳しかったであろう? そのため、私としばしば喧嘩のようなことになってな。私はもっと大らかに育てたかった。王宮の窮屈さは一番知っていたから、赤子の時から厳しく育てたいとは思わなかった。思わぬことで隙間風が吹いていた夫婦を見て、周囲はチャンスとばかりに側妃候補を押し付けてきたんだ。あの頃はまだ自由な恋愛など言語同断。皇太子は国力と血筋を守るための道具にしか見られていなかったようで、国内外の有力者から、娘をと申し込みが殺到していたんだ。私はそれに辟易して逃げまどっていた。そんな時だった。アムネリアに出会ったのは」

 その瞳が、もう一度レギウスに注がれる。アムネリアの面影を重ねているようだった。

「彼女は優しかった。ただただ、私を、私としてだけ愛してくれた。だから救われたんだ。でも、それを快く思わない人はたくさんいて、きっと辛い思いをしていたと思う。私はそんな彼女一人も守れなかった力無き皇太子だった。だから、彼女が去ると言った時、引き止めることができなかった。大丈夫だ。私がお前たちを守ると、胸を張って言うことができなかったんだ」

 今度は悲し気な視線をユーラテォオンに向ける。トクリと石が波打ったようだった。

「どれほどの苦労をしたことか。身内からも離れて、女手一つで子どもを育て上げるなんて。苦難の連続だったと思う。こんなに思いを残すほど……レギウス、そなたも苦労したのだろうな。すまない。全ては至らない私のせいだ」

 エリウス王が深々と頭を下げた。 

「顔を上げてください。エリウス王」

 思いがけない事態にレギウスが慌てて声をあげる。そして真っ直ぐにエリウス王を見つめると、アムネリアのことを伝え始めた。

「確かに、私を育てるのは大変だったと思います。でも、母はいつも明るくて、針子として生計をたてながら毎日のように歌を歌っていました」

「おお、アムネリアの歌声は最高だった。あれほど心を和らげてくれる歌声にはいまだかつて会ったことが無い」

「母は父親が誰なのかは語りませんでした。でも、私の父と過ごした日々がどんなに幸せだったかをひたすらに語ってくれました。どれほど愛されていたのか。どれほど母が父を愛していたのかを。だから、私は寂しいと思ったことはありませんでしたし、愛されて生まれてきたと信じることができました。母は決して、不幸せでも苦労を厭うてもいませんでした」

「アムネリアらしいな。あの子は、そう言う子だった」

 エリウス王もそう言って微笑む。

「……だから惹かれたんだ」

 絞り出すような小さな声だった。

「でも、こんな形で再会できるとは……運命も時には粋な計らいをしてくれるものだな」

 そう呟くと、愛おしそうにユーラティオンに視線を落とした。
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