虐げられた仮面の姫は破滅王の秘密を知る

涼月

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仮面(ティアナside)

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 あの日以来、エクレール様の執務室では仮面を外しておしゃべりできるようになったの。
 まだまだ目を合わせてのおしゃべりはギクシャクしてしまうけれど、とても朗らかな笑顔を見せてくださる時もあって嬉しい。

 そんなある日のこと、エクレール様が後ろ手に何かを持ちながらおっしゃった。

「ティアナ。実は……渡したい物があるんだが」
「エクレール様。嬉しいです」

 躊躇なくそう答えたら、ほっとしたような表情になる。
 何とも言えず切なげなお顔が美しくて、私の胸はまたどきりと波打った。

 頬を赤らめながら差し出された手の中には、美しいレースや宝石の花々に飾られた純白の仮面が。
 私がナジュム国でつけられたような鉄製のものでは無くて、軽くてしなやかな布製。

「綺麗」

 うっとりと見つめれば、小さな声でこう付け加えてくださったの。

「私とお揃いなのだが」
「! わたしのためにわざわざ作らせてくださったのですか?」
「まあ、これから一緒に公の場に出る機会も増えるだろうし……」

 言葉の後半はゴニョゴニョと尻つぼみだったけれど、確かに『一緒に公の場に』っておっしゃったわ。

 感激で胸が熱くなって、私は言葉も無くエクレール様を見上げた。
 ドキマギとされたエクレール様。慌てて自分用の仮面も取り出して「ほらね」と言って身に着けてしまわれたの。

 でも……この仮面なら目の前を真っ直ぐに見ることができる。
 仮面を付けていても、エクレール様の目を見てお話できるわ。

「つけてみるか?」

 ぽそりと呟くようにおっしゃるから、ついつい、いじめたくなっちゃった。

「つけていただけますか?」
「あ、ああ」

 我ながら大胆なお願い。エクレール様もちょっと驚いたようなお顔をなさったけれど、静かに私の顔へ仮面を取り付けてくださった。
 耳に掛ける指先の震え。息を殺している気配。

 伝わってくる。エクレール様の緊張が。

 仮面越しに引き寄せられる視線。

 ああ、なんて美しいアイスブル―の瞳。

 エクレール様の心を映しとったような清らかな水面。

「良く似合う」
「ありがとうございます。エクレール様とお揃いなのが嬉しいです」

 耳から下へと辿るように、指先が私の顎を捉えた。

 沈黙の中、それがあるべき姿だとでもいうかのように、私たちの距離が近づいていく。


 エクレール様の唇は―――とても優しい味がした。


 
 けれど、幸せで穏やかな日々は、アッと言う間に崩れ去った―――

 次の日。私が喜々として新しい仮面をつけてエクレール様のところへ行っている間に、事件は起きた。

 私の鉄仮面を、興味本位に身に着けて部屋の片づけをしていた侍女のエミリアが窓からの侵入者に襲われたのだ。
 護衛の兵のお陰で事なきをえたけれど、舌を噛み切って死んだ刺客は、紛れもなくナジュム国の隠密員だった。
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