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2話

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 次々と自己報告していく三年六組の生徒達。
 出席番号順に並んでいるので、そろそろ悠理の番だ。
 要らない情報だが悠理の出席番号は十六番である。

「次の方~」

 メイド服姿のお姉さんに呼ばれ、悠理は身体をカチコチにさせながらお姉さんの前に立つ。

「では、職業を教えてください」

「せい……じゃなくて魔法使いです」

 思わず「聖女」と言いそうになりながらも、なんとか「魔法使い」と言う。
 危ない危ない。

「魔法使いですね。分かりました。では、次の方~」

 とくに怪しまれもせず、無事に魔法使い認定された。
 内心ホッとしていると、どこからともなく強い視線を感じ、その視線の先を辿っていくと、まさかのルイ王子に辿り着く。
 自分の身体に穴が空いてしまうのではないかと思うぐらい、ルイ王子がこちらをガン見していたので、悠理は必然的にルイ王子と目が合ってしまう。

 途端悠理の脳内に火花が飛び散る。

 この人は危険だ、そう野生の勘がいっている……気がしないでもない。

 取り敢えず他の生徒達に紛れつつ、ルイ王子の出方を伺っていると、後方から先ほどのメイド服のお姉さんの驚きの声が聞こえてくる。

「職業が、せ、聖職者なのですか!? し、しかも聖属性の中位魔法持ち! 凄いですわ!!」

 どうやらクラス一の美少女──姫川ひめかわ麻里まりの職業が聖職者だったらしい。お姉さんの驚きようからして、かなり凄いことのようだ。

「中位魔法ってなんだろう?」

 不思議そうに首を傾げていると、悠理の耳元近くでルイ王子がそっと呟いてくる。

「……魔法はランクによって下位・中位・上位に分けられているんだよ」

「ッ!?」

 反射的に自分の耳を押さえ、即座に後ろに後ずさる悠理にルイ王子がどこか申し訳なさそうにする。

「ごめん、驚かすつもりはなかったんだ」

「そ、そうにゃんですか。ふ、普通に教えて欲しかったでしゅ……」

 悠理がカミカミになりながらも言うと、ルイ王子の口元が緩む。

「ふふ、あなたは可愛い」

 彫刻のようにおそろしく整った顔が、僅かに人間味を帯びる。それがとても素敵な笑みで思わず見惚れそうになるが、すぐに我にかえる。
 こんな地味でブスな自分に好意を持たれても、優しいルイ王子が困るだけだからである。

「……あ、ありがとうございます。私はこれで……

「え、あ、うん。また後でね?」

 どこか名残惜しそうな顔をするルイ王子にお辞儀をして、三年六組の生徒たちがいるところに悠理は合流した。

 自惚れるな、自分。ルイ王子は見目だけがいい加賀美浩介と違って、優しい人だからこんな地味でブスな自分にも優しくしてくれているのだ。だから、決して悠理に好意を持っているわけではない。

 でも……友達ぐらいにはなってくれるだろうか?

 そう思った瞬間、あの光景が頭に思い浮かぶ。

『自分の容姿を見てから言えよ』

 ズキンと悠理の心が痛み出す。もうあんな思いをするのは嫌だ。

「……どうして、私はこんなにも臆病者なのだろうか……」

 その声はガヤガヤと騒ぐクラスメイト達によってすぐに掻き消されていくのであった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


「ねえ、地味子。さっきルイ王子と何を話していたの?」

 浩介の取り巻き達が悠理の前に立ちはだかる。
 来ると思っていたが……本当にこの人達って期待を裏切りませんよね?
 悠理は思わず溜め息をつきたくなった。

「え、えーと、分からないことがあったので、それをルイ王子に教えてもらったんです」

 悠理は正直に事実のみを告げる……が、どうやら取り巻きの彼女達はルイ王子と話をしたということ自体が面白くないようだ。

「嘘言ってじゃないわよ! てか、自分の身の程を弁えなさい! あんたみたいな地味でブスな女が、ルイ王子や浩介の視界に入れるなんて一生有り得ないんだから!!」

 取り巻きのリーダー格がキーキーと声を荒げながら、悠里に言う。
 ……唾が飛んできた。汚い。
 ここで反抗でもしたら、彼女達に何をされることやら……多分罵声だけでは済まなくなる。
 入学当初、一度だけ悠理は彼女達に反抗したことがある。そのときはせっかく腰まで伸ばしていた髪をハサミで肩につくかつかないかぐらいまで切られてしまった。それもかなりガタガタに……。
 二年経った今では、無事に腰まで伸びているが、自分の髪を見るたびにあのときの光景が頭に思い浮かぶ。

「……分かって、います」

「ふん、分かっていればいいのよ。くれぐれも気をつけることね」

 取り巻き達がぞろぞろと悠理の前から退散していく。
 それを悠理はただ見送ることしかできなかった。

『自分の容姿を見てから言えよ』

 加賀美浩介の言葉が頭の中で鳴り響く。

 あのときから何度も鏡の前に立とうした……が、いざ鏡を前にすると足がすくんでしまう。
 それにわざわざ鏡で、自分の容姿を確認しなくても周囲の反応を見れば、自ずと分かることだ。

「今全ての方の職業を確認することができましたので、担当の者が各お部屋に案内させていただきます」

 ルイ王子の声が聞こえると同時に、たくさんの人が部屋に入室してくる。
 どうやら一人の生徒につき、一人のお世話係がつくようで、どんどんと名前を呼ばれて、部屋に案内されていく。

「ユウリ様~~」

 自分の名前が呼ばれた方向に向かうと、一人の女性がニコニコと笑みを浮かべながら待っていた。

「ユウリ様ですね? 私はノーラと申します。ユウリ様のお世話係に任じられました」

「よ、よろしくお願いします。それと、その、敬語じゃなくてタメ口で接してもらえませんか? 年上の人に敬意を払われるとなんかこそばゆいので」

「え、でも……」

「ダメですか?」

「う……分かりましたよ、ユウリ様」

「やった! ノーラさん、これからよろしくお願いします!」

 悠理は勢いよくお辞儀をした。

「……ユウリ様ってなんか可愛い」

 ノーラがボソッと呟く、それが悠理の耳に届くことはなかった。

「ではユウリ様、今から部屋に案内しますね」

「はい! ノーラさん!」

 それから悠理はノーラに案内され、無事に自分の部屋に辿り着くことができた。 




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