ターミナル番外編、7.518話:先日、ホテルで、女同士で、淫らに乱れて

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ターミナル番外編、7.518話:先日、ホテルで、女同士で、淫らに乱れて

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ラブホテルの自動受付のやり取りを済ませ、お互い顔が見えないように配慮された小さな窓しかない受付から鍵を受け取る。この辺のやり取り、今までどういう生き方をしていたのかマリサは慣れたもので、一切戸惑うことなく一連の動作を終えた。そうして鍵を受け取ったマリサは、選んだ4階の部屋へと、リコの手を引いてエレベーターを行く。
 幸運なことにその間誰ともすれ違わなかった。誰かとすれ違ったとておそらく、二度と会うこともないだろう人たちだろうが、それでも女同士でこんなところを歩いているのを見られるのはなんだかいやだった。
マリサ「そんな恥ずかしがることないってリコちゃん。このホテル、女子会プランとかあるから、女同士で利用したりとかもできるんだし。映画とか連続ドラマもみたり、ケーキとかも頼めるし……女子会プラン最高だよ、食事運ばれてくるし、カラオケも出来るし散らかしちゃっても大丈夫。ナタママ映画を見られるし、そのままベッドでお休みしたっていい。女同士だからって、エッチなことをやると思う人ばかりじゃあないって」
リコ「そうは言っても、ね……」
 エレベーターから降りる。スタッフも他の客もおらず、会話は続行だ。
リコ「こういうところに来るのは初めてだから、もう周りの人が全員野獣に見えて……」
マリサ「何言ってるの、野獣は私だけだから大丈夫よ?」
リコ「……そう。それは安心できるんだか出来ないんだか」
マリサ「408号室、よし」
 マリサは手元のカギと、ホテルの部屋番号を指さし確認する。
リコ「デザイナーなのに指さし確認するの? それって現場作業者とかがやる奴じゃない?」
マリサ「メールの送り先は指さし確認させられるのよ。あと、送る画像も……感染症が流行っていた頃の話だけれど、エロ画像を送っちゃった人の話とかあるから気をつけろって社長から言われてるの。うちは送られた側だけれどね」
リコ「それは死にたくなるわー……時間を戻す能力に目覚めるきっかけになりそう」
マリサ「それはもうちょっとこう、恋人が死んだときとかに目覚めようよー」
 マリサは笑いながら靴を脱ぐと、背負っていたリュックサックをソファの右端に下ろす。リコもそれに倣って左端に下ろす。マリサは、ソファの傍にあるガラスのテーブルにスマホを置いた。いつもとは違うスマホだ……サブのスマホだろうか? いま、『ピ』と小さい音が鳴った。
リコ「えー、子人が死んだときに時間を戻す能力に目覚めるとか、なんかそれで何回も同じ一日を繰り返すとか、そういう物語はちょっと食傷気味というか……」
 もしかしたら撮影されているかもしれない、そう勘づいたリコだが、恥ずかしさもあるけれど、いつか見返したくなる時が来るかもしれないと思うと、どうするべきか迷う。
マリサ「でも、そんな能力に目覚めたら、一か月後には私億万長者になってそうで……恋人が死んだとか、限定的な状況でもなければ、大体自分のために使っちゃうでしょ?」
リコ「それは確かに。ギャンブルに能力は使えないとかじゃなく、そんなことに使ってる場合じゃないって状況にしないとだよね」
 マリサは言いながら、荷物をすべて下ろしたリコをベッドに連れていく。二人で肩を並べ、ベッドの縁に座る。
マリサ「そうそう。時間を戻すことで永遠にセックスしたりとか。あー、でも体は元に戻っちゃうから、感度は永遠に上がらないと考えるとちょっともったいないかも」
 マリサは早速リコをベッドに押し倒し、普段見下ろされる立場から逆転してリコを見下ろした。
リコ「あの、早い早い」
マリサ「いいじゃん、ガールズトークもいいけれど、たまには何も考えずに、本能のままに行動しましょ?」
リコ「本能のままに行動すると、いまここでマリサちゃんをぶん殴って、ひるんだところを回し蹴りでぶっ飛ばして、そのまま逃げるんですが? 草食の本能舐めないでよね?」
マリサ「うーん、生存本能ってやつね」
リコ「そうです! 生存本能って奴です!」
マリサ「じゃあ、今は生殖本能だけで」
リコ「マリサちゃんとじゃ、種族と性別、二重の問題で子供出来ないんだけれどなぁ……あぁもう、好きにしてよ」
 リコはマリサに腕を畳まれた状態で押さえつけられて、そのまま首筋に舌を這わされる。首という命に近い場所をもてあそばれていて、背筋がぞっと凍る感触も今は慣れたものだ。恐怖そのもの感じなくなっているわけではないが、体が動いてしまったり、思わず殴ってしまいそうになるのをこらえるのはずいぶんとうまくなった気がする。運動しているわけでもないのに心臓が高鳴り、息が震えるこの感覚。口の中がカラカラに乾き、胃の中の物を反芻したいという気持ちもすっかりしぼんでいく感覚。
 今までは、短時間しかできなかったこの感覚が、今日は長い時間、思う存分試せるのだ。リコの胸は恐怖に加えて、期待も含めて高鳴り始める。あぁ、密室って素晴らしい。
リコ「あの、シャワーとか浴びない?」
マリサ「今冬だし、リコちゃんは健康的な食事だからいい匂いだし、大丈夫。むしろ、これくらい匂いが濃い方が好みっていうか……血の味や肉の味を楽しめない分、匂いだけでもね」
リコ「それ怖いんだけれどー」
マリサ「怖いのが好きなんじゃなくて?」
 マリサ大口を開けてリコの視界を覆う。顎の裏の洗濯板のようなひだを見せつけられ、思わず肩がすくみ上る。
リコ「そうだけれどー……」
 そんなことを話しているうちに、リコの腕から手を離したマリサが、リコのマフラー、コートのジッパー、上着のボタン、スカートのホックを外していく。
マリサ「何このタイツ、妙にパツパツ……あ、オムツ」
 スカートの下に履いていたタイツは、妙に膨らんでいた。それをマリサに容赦なく脱がされると、その下に履いていたオムツがあらわになった。
リコ「いや、見ないでよ……マリサちゃんにキスされたとき、あんまりに怖すぎて漏らして……だもんで。今日も……」
マリサ「つまり、漏らすまでやっていいってコト?」
リコ「どうしてそこでいらん方向にポジティブシンキングするの!? ……あぁもう、オムツつけといてよかった」
 リコがひきつった笑いを浮かべながらマリサに抗議をすると、マリサはリコの腕を再び押さえつけた。リコの方が体格的に勝っているとはいえ、こうマウントポジションを取られてしまってはひっくり返すのは難しい。
マリサ「リコちゃんを、ぐちゃぐちゃにしたいから……」
リコ「うえぇぇ……」
 マリサは、大口を開けたまま、ゆっくりねっとりとリコの口を甘噛みする。彼女の湿った口臭がダイレクトに伝わってくるし、鋭い牙が唇に添えられる感触は筆舌に尽くしがたい恐怖だ。リコはアドレナリンとドーパミンが出過ぎて、そんな状況じゃないのになぜか笑いが止まらない。今自分がどんな情けない表情をしているのか、リコは鏡を見るのが怖くて仕方がない。そして今、早速オムツが役に立っている……事前にトイレに行っていたからよかったものの、それがなければたっぷたぷになっていただろう。ベッドがぬれずに済んで何よりだ。
リコ「ねえ、マリサ。今どんな顔してる……?」
マリサ「えー……いじめたくなる顔? もっと怖がらせて、もっと泣き顔にさせて、それでもっと幸せにしてあげたくなる顔……もっと、怖くなりたい?」
 言いながらマリサが首筋を甘噛みする。冬毛ごしだからそんなに痛くはないんだけれど、それでもこのまま顎に力を入れれば、鋭い牙が血管を破きかねない。リコは腕を押さえつけられているから、振りほどくのは難しい。振りほどいて、殴るまでの間にマリサの牙が首の血管を貫いたらリコはアウトだ。改めて、命を握られている状況なんだなとリコは実感する。そもそも、体重もこもらないマウントポジションの状況で殴ったところで大した威力が出ないというのも、この状況のやばさを増す要因だ。
マリサ「リコちゃん……写真撮るね」
 何を思ったか、マリサはリコにマウントを取ったままスマートフォンを取り出し、カメラを構える。
リコ「撮らなくていいから!」
 マリサがスマホを弄りだしたために両手はフリーになっているというのに、リコは腕をだらりと下げたまま言う。
マリサ「だってどんな顔してるか知りたいんでしょ?」
リコ「着衣乱れてるところを撮られるのはあんまり……もう、いじわる」
 マリサはリコの言葉なんてまるで無視して写真を撮る。いやなら顔を隠せばいいのに、そうしないあたりはリコも本心ではそこまで嫌がっていない。よく知らない相手ならばともかくだが、マリサ相手ならばこういうのも悪くないのかもしれない、と。
リコ「その代わり、あとでマリサのあられもない写真も撮らせてね」
マリサ「あら、リコちゃんいい趣味してるねぇ……そうだね、一緒に秘密を共有するのは楽しいもんね。いいよ、あとで下着になったら写真撮らせてあげる。それとも裸の方がいい?」
リコ「……どっちも」
マリサ「大胆! そういうの好きだな~」
 耳が真っ赤になりながらリコが告げると、マリサはとてもうれしそうだ。マリサは母親に見た目が似ていて、下半身がだらしないところも似ていると自称していたが、こうやって性に積極的な相手はとても嬉しいようだ。
リコ「っていうか、テーブルに置いてるスマホですでに撮影してるんでしょ?」
マリサ「うん、あとでリコちゃんにもデータあげるけれど、ネットにアップはしないでね」
リコ「するかアホたれ!」
 二人きり、仲の良い相手ということもあり、リコは砕けた態度でマリサに臨む。そんなやり取りで、肩の力が抜けているのがマリサにも伝わったようで。
マリサ「リコちゃんもだいぶ緊張がほぐれて大胆になってきたみたいだしここで一旦服をぬごっか。はだけているのもエッチだけれど、やっぱり脱いだ方がエッチだよね」
リコ「うん……だいぶ、覚悟決まってきた」
マリサ「うんうん、案ずるより産むがやすし。『心の準備がどう』とか、うじうじと言う前に、やってみれば案外何とかなるもんだよね」
 まだ口元がむずむずと形の定まっていないリコだけれど、言葉だけでも覚悟を決めたと聞いてマリサは嬉しそうだ。
マリサ「そういえば、リコちゃんがどんな下着を履いているか、興味あったんだよね」
 マリサは立ち上がり、ソファの傍で服を脱いでいく。
リコ「……そうなの? ごめんね、オムツで」
マリサ「いやいや、いいのよ、実用性第一」
リコ「一応、変えのオムツと普段の下着も持ってるから……希望があるなら、マリサちゃんになら……」
 もじもじとしつつリコは言う。マリサは微笑んで上機嫌そうだ。
マリサ「あら、じゃ後で見せてね、楽しみにしている。私の場合、父親と弟と、マイちゃんはどんな下着を履いているか知っているけれどね。お父さんは、ボロボロになるまで使いつくすタイプで、ハルトも同じだったんだけれど……ある時からハルトは全部パンツを新品にしてきたんだよね。恋人が出来てから半年くらいたった時だったかなぁ……」
リコ「男でも勝負下着とかあるんだ……うちはそんなことはなかったなぁ……父さんのも母さんのも大体ボロボロで。いい歳だしね。でも、何だったかな? むかし、一度タンスの中身をひっくりかえしたことがあったんだよね、確か……私が高校生になってバイトを始める前だったかな?
 お母さんが私の銀行の通帳と印鑑をタンスの奥の方にしまってるとかで。その時に、私の印鑑と通帳を出すはずみで、お母さんの真っ赤な下着がポロリと出てきてね……もしかしたら、あの時でもたまに使ってたのかなぁ? 夫婦で、あの真っ赤で品質のいい下着で、仲良ししてたのかなぁって。高校卒業したのが三年前だから、六年くらい前の話ね。
 そうそう、そのときにさ、通帳と一緒に若いころのお父さんの角で作ったハンコももらってさぁ……『父親の角なんて』って嫌がる人もいるみたいなんだけれど、お母さん視点で見れば愛する夫の角で作ったハンコなわけで。そういうの、いいよね……角は毎年生え変わるから結婚した年は自分と妻のハンコ。私が生まれた年には私、妹が生まれた年には妹のハンコもそうやって作ったんだって」
マリサ「ロマンチックねぇ……リコも、将来旦那さんが出来たら旦那さんの角でハンコ作る?」
リコ「それめっちゃエモいかも! 鹿人って成人にならないと、ハンコに適した角が取れないからさ、なんでも、鹿人の角って角の先端以外は小さな穴がぽつぽつ開いているからハンコに適さないらしくてね……だから、男の子なら成人したときに立派になった角でハンコを作るんだって。コウイチ君とかはハンコとか作ったのかなぁ……? 結構立派な角が生える年ごろのはずだけれど、でも最近の子は伸びきる前に邪魔だから切っちゃうって子も多いしなぁ」
マリサ「いいねー、エモいねー……でも、話がめっちゃずれてる……話題を戻そう?」
リコ「あぁ、うん、下着の話だっけ……ハルト君と父親の話は聞いたね、うん。それで?」
マリサ「マイちゃんはボロボロだから、買ってあげたんだよね。そしたら、もう私そんな子供じゃないってって言われちゃった……さすがに女児向けのキャラ物はあかんかったかぁ。ま、新しい下着を喜んではいたけれどね」
リコ「どんなデザインを買ったんだか……小学生高学年ともなると、大人ぶりたい年頃だからそういう反応になっちゃうよね」
 マイが何かかわいらしいキャラクターの柄が描かれたパンツをはいていることを想像していたところ、それをかき消すようにあらわになってゆく、目の前のマリサの地肌。一枚一枚、服を脱ぐごとに体の線があらわになり、露出度も大幅に増えた。
リコ「へー、マリサちゃんはそういう……」
 コートを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、帽子も脱ぎ上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ、ヒートテックのストッキングを脱ぎ……あらわになったマリサのシンプルなターコイズブルーの下着。シンプルではあるけれど似合っている。。
 対するリコの下着だが、ブラの方は、上品な黒を着用したが、下半身は……
リコ「オムツなんてはいてくるんじゃなかった……」
マリサ「いやぁ、可愛いと思うけれどなぁ? いじめたくなるよ? 漏らさせるのも楽しいかも」
リコ「それは特殊性癖なのでは……? あ、とりあえず、さっきの仕返しということで、写真撮るね」
 ともあれ、二人で下着姿になったところで、リコは脱いだ服からスマホを回収する。
マリサ「可愛く撮ってね。一応、勝負下着なんだから……でも、リコちゃん、普段はどんな下着なの?」
リコ「地味な安物……勝負下着は普通に上下黒だよ」
マリサ「地味なのもちょっと見てみたいかも」
リコ「恥ずかしいよー……ほら、撮るよ」
マリサ「どうぞー」
 二人は写真を撮りあう。
リコ「はいはい……こんな姿もしばらくたてば笑い話かな」
マリサ「だといいねぇ」
 まさか写真を撮られるだなんて、デートの前は考えもしなかったリコだが、マリサの強引さに、リコはすっかり彼女のぺーずにはまってしまった。
マリサ「うん……オムツ……結構いいかもなぁ」
リコ「いいのぉ? 一体どこら辺が?」
マリサ「うーん、寝かせたままでも脱がせられるところ。パンツだとそうもいかないじゃん? 寝たまま脱がすならふんどしとか、オムツじゃないとね。あー、でも安物のパンツをハサミで切って脱がせるとかも憧れるかも?」
リコ「それかぁ……それなのかぁ……脱がせる方法まで考えなきゃなのかぁ」
 今ここで脱がせるつもりはない、リコに脱いでもらうつもりもない。マリサは自分の手で、私のオムツを脱がしたいのだとリコは理解する。
マリサ「じゃ、ベッドに行こ」
リコ「あ、はいぃぃ……」
 今までは分厚いコート越しに触れられるだけだったマリサの体に、今日はその障壁がすべて取っ払われる。ベッドに押し倒されると、その肌の感触がダイレクトに伝わってくる。
 リコはレズビアンではない。肉食獣の匂いが怖いから、その恐怖が原因で分泌されるエンドルフィンやアドレナリンの中毒になっているだけだ。本質的には、ヘテロセクシャルだし、マリサに対して性欲はあまり抱いてない、ついでのようなものである。
 だけれど、下着姿で抱き合うことで、こうやって直接アドレナリンとドーパミンによる興奮とは別の興奮も湧き上がってくる。女性相手に性的な欲情をすることなんてないと思っていたけれど。そうでもないようだ。怖くて逃げだしたいという焦燥感の反面で、むしろマリサに触れてもらいたくなるような欲求も出てくる。
 見下ろしながら首筋、胸、鎖骨、腹、腰……今まで親以外に触らせなかった部分を、マリサが無遠慮に触れても、感じるのは嫌悪感どころか悦びだ。怖いのに愉しい。愉しいから触れられたい。触れられると嬉しい。目を閉じてマリサの愛撫の感覚を享受するだけで幸せがあふれ出る。
 やがて、リコは腕を抑え込まれ、気を付けの姿勢にされて、抵抗を封じられ。今まで噛みつかれることのなかった場所まで牙の感触が触れるようになる。マズルだったり、首筋だったりも興奮するが、肩、乳房に牙を突き付けられ、そしてへそ回りを舐めまわされ、ちょっとだけ痛い。ちょっとだけ痛いから、牙が離れても感触は尾を引く。そうすることで、全身がマリサを感じてしまう。
マリサ「ねぇ、リコ……リコは怖いのが好きなんだよね?」
リコ「えぇ、まぁ……押さえつけられた方が、ちょっと危機感が煽られていい感じになるし」
マリサ「怖がってるときさ、リコはお祈りのポーズになるんだよね。胸の前で手を組むような……本能的に、首や心臓を守ってるのかな? その様子がすごくかわいくて……でも、そんなんじゃなくて、もっとこう、無防備な姿の方が気分上がるんじゃないかなって」
リコ「これ以上無防備になれって言うの?」
マリサ「うん。何のために私が、あんなでかいリュックサックを背負って今日一日遊んでいたと思う? それはね、リコと私がたくさん楽しめるように、色々と持ってきたからで……それがなければもうちょい小さなバッグで良かったんだけれどね」
リコ「へー……」
 リコはベッドからマリサの荷物をちらりと見る。
マリサ「じゃあ、まずは第一の道具、使うね」
リコ「またそんな勝手な……」
マリサ「経験者ですもの、初心者がより楽しめるような配慮はばっちりですわぁ。で、どうする? 怪我とかはさせないつもりだけれど……」
リコ「もう、好きにしてよ。おすすめのフルコース堪能してみるからさ。こういうのは上級者の指示に従うのが一番いいって、相場は決まってる」
 マリサが口を開き、白い牙が並んだ様子を見せつける。前歯に乗っかるように長い舌が飛び出て、プラプラと揺れている。
マリサ「いいね、リコちゃん、大好き」
リコ「藪から棒に何言ってるんだか……」
マリサ「それじゃ、木の字に手脚広げて」
リコ「木の字になるほど私の尻尾長くないんだけれど?」
マリサ「まぁまぁ、いいからいいから」
リコ「真ん中に寝ころべばいいんだね?」
 マリサが後ずさり、リコはベッドの中心に寝転んで、木の字になって裸体を晒す。オムツを見せつけるような格好になってものすごく恥ずかしい。
マリサ「ここのホテルねー、ベッドの下に隙間があるんだよね。だから、ベッドの下にロープを通すためのこの拘束具を使いやすくって。
リコ「だから安くもないし新しくもないし、かといって駅から近いわけでもない中途半端なホテルを選んだんだね?」
マリサ「あらー、リコちゃんも周辺のホテル調べてくれてたの?」
リコ「まぁ、ね……こんな中途半端だから、いつでも客室が空いているとかそういう感じだと思ったけれど、まさか拘束具が使いやすいからこのホテルを選んだだなんて……」
マリサ「素敵でしょ? はい、これでもう動けない」
 リコは布製の拘束具で腕を広げたまま、腕を上げることも曲げることも出来なくなってしまう。ベッドの下に通されたロープが、どうあがいても腕を広げたままの体勢を強要する。
リコ「っていうか、『立たせなくても脱がせられる』って、こういうこと?」
マリサ「そうそう、オムツっていいチョイスだよ。縛られたまま外せる……」
 マリサは言いながら、脚の拘束具も嵌めていく。そうして、完全に抵抗を封じられて、まな板の上の鯉となったリコを見下ろして、マリサはうっとりとした表情を見せた。
マリサ「これでもう、リコちゃんは私が何をしても、抵抗できないのか……なんでも私の思い通り」
リコ「怖っ……」
マリサ「怖くないよー。ただ、今日を忘れられない日にしたいだけで……あーあ、テーブルからの固定カメラだけじゃ物足りないなぁ……カメラ付きの眼鏡でも買っておけばよかった。安芸葉原にも売ってるし」
リコ「そんなものもあるの?」
マリサ「二万ちょっとでね。あんまり画質はよくないけれど、どんな表情をしているのか、それがわかるくらいにはね……はぁ……かわいい」
 マリサはリコの胸の中心から、くすぐるように体を撫でて、オムツの上からリコの股間を弄る。赤ん坊の頃を除けば間違いなく、正真正銘初めて自分以外の誰かに触られた場所だ。高校生の頃は毎日15㎞の距離を走る帰宅部のエースだったため、満員電車に乗ったこともなく。おかげで痴漢とも無縁だったので、物心ついて初めて尻に触られたの反応をマリサに見せられたのは感慨深い。
 そのおかげで、初の彼氏が出来ても初めてを見せることはかなわなくなったわけだけれど、マリサが一番ならまあいいか……と思えるくらいにはマリサの事が好きな自分を自覚した。
 そのマリサだが、見せつけるように大口を開き、洗濯板のような凸凹になっている上あごの裏側をこれでもかと見せつけながら、桃色の舌から唾液を流してリコにマーキングしている。糸を引く唾液が胸の上に垂らされ、リコは拭うことも許されず。木の字の体勢を崩すことも出来ず、本当に一切抵抗が出来ない。
 オムツの中に手をやられ、直接割れ目を弄られて、リコは初めて声をあげた。
リコ「んんっ……」
 無意識のうちに口をつぐんでいた。鼻息を荒くして見上げるマリサの顔が迫ってくる。優しい口づけをされ、リコの口の中にマリサの舌がねじ込まれ、唾液を混ぜ合わされる。草の匂いが染みついた唾液をマリサがどう思っているかはわからない。臭くなければいいなぁと思いつつも、リコに抗う術はなく。肉の匂いがするマリサの唾液を飲み込むと、全身の毛が逆立つ感覚がした。
マリサ「ねえ、リコちゃん。楽しい?」
リコ「ど、どうかな……なんかすごく、怖いんだよ。怖いんだけれど、すごく心地よくて……命を握られて、女の子の大事なところまで触られて……自分の意思なんてお構いなしなのに、それが無理やり好きにさせられているようで。嫌なことが、嫌になれない……
 すごく変な感覚。理性が拒んでいるのに、マリサちゃんが理性を塗りつぶしてくるの……ごめん、なんか泣きたくなってきた」
マリサ「……大丈夫?」
 リコはすでに涙を浮かべていて、体も震えが止まらないようだ。そんな様子を見てマリサも心配するのだが、リコは唯一自由な首を横に振っていた。
リコ「多分、今までで一番キマッてる……エンドルフィン出てる気がする……マジで私、中毒になってるだけなんだと思う……こんなんだけれど……すごく楽しい気分で」
マリサ「はぁ……なるほど。ぐちゃぐちゃにしてあげたいって思っていたけれど、すでにもうぐちゃぐちゃってこと……じゃあ、体の方も、ぐちゃぐちゃにしちゃおうかな……」
リコ「う、う、うん……お願い」
 リコは涙目になりながらマリサに告げる。怖いのか楽しいのか、本当に訳が分からなくなっているらしい。マリサは一度ブラを外すために、リコの腕の戒めを解き、ブラを外して胸をあらわにしたところで、またリコを括り付けた。そして、最後にオムツも外し、リコの裸体はすべて露になった。
 そこで、マリサは一度写真撮影。自分の体も、ガラステーブルの上に置いてあるスマホに存分に見せつけ、手持ちのスマホに自撮りをして、最後にリコと自分の裸体を並べて自撮りする。
 
マリサ「お互いの秘密を共有するってドキドキするよねー……リコちゃん、ホテル出る前に写真交換しようねぇ」
 マリサはリコの耳に息を吹きかけながらささやく。
リコ「う、うん……」
 そのまま耳を甘噛みされてぞわぞわしながらリコは頷いた。
マリサ「カメラに聞こえるように今の気持ち、言ってみて」
リコ「えっと、縮こまってお祈りのポーズを取りたいのに、それすらできなくて……今からなにされるのか怖くて……マリサの顔も怖い」
マリサ「うんうん、それでそれで?」
リコ「なのに、それを楽しんでいる自分がいるのがわけわからなくて……でも、幸せなの」
マリサ「いい感じだね……」
 マリサはリコの答えに満足して、指サックをはめる。爪などでリコの体を傷つけないように、爪を封じ込めるためのものなのだが、それを見たリコは自分がこれから何をされるか、理解してしまって、いよいよ息をのんだ。
 マリサはベッドからまたも道具を取ってくる。コンビニなどでもらえるビニール袋ごと色々なものを持ってきてベッドに置くと、その中からローションを取り出した。外気で冷やされた冷たいローションをリコの股間にぽたりと落とし、それを割れ目に沿って指でなぞり伸ばしていく。体温よりも冷たいそれが広がっていく感触、しかも大股開きで体温が拡散される体勢だから、ちょっと寒い。
 突然、マリサの指が体内に入り込んだ。リコは自慰の経験がないわけじゃないし、一人暮らしになってからは大人のおもちゃを買いそろえたりもした。特に、マリサに誘われてからは、毎日のようにそれに備えて準備してきた。だから、指ぐらいの太さの物が入ったくらいじゃなんともない。
 とはいえ、それはあくまで体の話であって。他人の指が入ってくるとなると、心は一大事だ。股を閉じてその侵入を拒みたいのだが、戒めが解かれない限りは当然そんなことは無理である。
 いつもは内またになりながら、控えめに指やらおもちゃやらを入れるのに、今は大股開きで、異物を受け入れる以外の選択肢は与えられていない。そんなリコの膣に、マリサの指は容赦なく入り込んでいく。何が恥ずかしいって、マリサはその間、隠すことが出来るはずもないリコの顔を遠慮なく覗き、晒すしかないリコの股の匂いを嗅ぎ。どこまで屈辱的にリコを品定めするのやら。でも、エンドルフィンという脳内麻薬に魅入ってしまったリコは、嫌悪感を抱くことすら許されない。
 麻薬は、不快という気分を圧倒的な幸せで塗りつぶしてしまうのだ。それは好み、趣味嗜好すら塗りつぶし、通常だったら泣いて嫌がりそうなこの行為ですら、リコは受け入れてしまう。幸せな気分なので、これはすごく好きなことだと脳が勘違いしてしまう。
 マリサの指がリコの体内でのたうち回る。傷つけることのないよう、ゆっくりと前後に出し入れされ、時折内壁をえぐるように、体の中から腹側にぎゅっと力が入る。膣をつまんで持ち上げられるような感触、ちょっと苦しいような気もするけれど、強く押し付けられた部分にじんわりと快感が残る。
 自然と足が持ち上がりそうになったり、腰がぴくんと跳ねるのだけれど、体は木の字のまま動くことを許してはもらえない。
マリサ「リコちゃん、足が動いてるけれど、痛くは無いんだよね?」
リコ「ふえ……平気」
 震える声での返事がマリサの嗜虐心をそそる。
マリサ「じゃ、もっともっと行くよー」
 そのあと、リコは膣を弄られながら、口づけをされ、首筋に牙をあてられた。無言で互いの息遣いしか聞こえない状況で、リコの感覚は鋭敏になっている。暖房の利いた室内で、無抵抗のまま膣を弄られ、受け入れることしか出来ることがないリコは、マリサの指の感触だけに意識を集中していた。
 目を閉じ、その指を堪能していると、無視できない快感が丹田に沸き上がり、忘れたころに牙を突き立てられると、自分が今生殺与奪の権利を握られていることを自覚する。時に乳房をかまれ、乳首を舐められ、耳を噛まれ、口の中に舌を突っ込まれ。まるでおもちゃのようにリコは体を弄られる。
 挙句の果てに股間に噛みつかれたときは、リコもあんまりに驚き過ぎてマリサの口の中に小便をぶちまけてしまった。
マリサ「うげっ……」
 さすがのマリサも小便を飲むような真似は出来ず、嫌そうな声をあげて口を洗いに行ったが、帰ってきたころには、まな板の上の鯉に対して、どんな料理をしてやろうかとでも言いたげな表情をしていた。
マリサ「ねぇ、リコ……」
リコ「なに……?」
マリサ「リコは、イッたことある?」
リコ「えー、まぁ……大人のおもちゃを使って何回か……ほら、安芸葉原の駅前に、おっきな大人のおもちゃのお店あるじゃん?」
マリサ「あるねー、エムズだっけ?」
リコ「あそこで買った商品で、一人遊びの経験くらいならあるよ……いやさ、ガールズトークの最中に、男のおちんちんが入らなくって、彼氏に我慢させたっていう経験談とか聞かされたこともあるし? 私はそんなことがないようにって、いつの日にかに備えてそれなりの大きさのもの、入れて備えてたんだよね……
 まさかそれが今日役立つとは思わなかったけれど。それに、普段から弄っておかないと、いざというときに気持ちよくなれないっていうし……エロ漫画みたいに、彼のテクニックと情熱がすごすぎて、初めてなのに夢中になってしまった……みたいなのは幻想だってさ。高校の同級生とエッチなガールズトークもしたことがあって……そのガールズトークをぶちかましてきた友達も、初めての時は痛いばっかりで、『気持ちがいい』とかはよくわからなかったって……」
マリサ「ふんふん、それで、実際やってみてどうかな、リコちゃんは?」
リコ「……その……恥ずかしながら気持ちいいよ。今まで練習してきたおかげで、どうすれば気持ちよくなるか、体が知ってるし……マリサが、どうすれば相手が気持ちよくなるかも知ってて……それに、んあ……」
 言葉の途中で、マリサはリコの膣に二本の指を入れ、おまけに親指でクリトリスまで弄り始めた。さっきまでの責めよりも数倍は苛烈な責めだ。
リコ「それに、お互い好きな相手同士だからさ、恐怖で凍り付きそうなのに、でもワクワクドキドキが止まらなくて、心が喜んじゃってるんだ。心が喜んでいるせいで、体が喜ぶ準備も出来ちゃって……セックスって、気持ちが乗ってなきゃ一人でやるときも全然気持ちよくないんだけれど、気持ちが乗ってると……こんな弱い刺激でも幸せなんだなって……ま、マリサちゃん、今までものすごく手加減してるでしょ? 少しだけ激しくなったけれど、まだ全然本気出していないでしょ?
 マリサちゃんが本気を出してね、その、私を気持ちよくするのが、すごく、怖くて仕方ないけれど、楽しみで仕方ないの。なにこれ、わけわかんないんだけれど……」
マリサ「リコちゃんさぁ、AV女優の才能あるよ……プレイ中にそれだけ喋れるとか、まじ貴重だし……生で接してるからっていうのもあるだろうけれどさぁ……喘ぎ声をアンアン言うしか能のないAV女優よりよっぽど抜けるんだけれど?」
リコ「女の子が抜くとかいうんじゃありません……何をどう抜くの……そもそも男の抜くって何のことだかわからないけれど」
マリサ「いいじゃん、私悪い子だもん……抜いちゃったっていいじゃない?」
 マリサはそう言って、リコのクリトリスを押しつぶすように撫でながら、膣内をゆっくりかき回した。
リコ「あっちょ……待って……」
 太ももが震える……閉じたい、もじもじと内またをこすりたい、お祈りポーズを取りたい、背中をのけぞらせたい。強い快感が湧き出して、それなりの体勢を取りたいリコだが、木の字の拘束はどこまでも無慈悲だ。
 内またになろうと動く体の身じろぎを許してくれない。ハッハッハッハと呼吸が短くなる、あんまりにエンドルフィンとアドレナリンを出し過ぎたせいか、天井がぐるぐる回っているような感覚がしてくる。
マリサ「それじゃあ、指もすんなりと入るようになってきたし……そろそろ大丈夫かな?」
 不意に、感触が途絶えた。
リコ「なにするの? ってか、何入れるの?」
 マリサがベッドの上に置いてあったビニール袋から、吸引バイブと呼ばれる。『J』の字のおもちゃを取り出した。書き終わりの部分でクリトリスを吸引して愛撫しつつ、書き始めの部分を膣内に入れ、振動して刺激する、そういう器具だ。リコももちろん使ったことがあるが、いま、この状況で使われて大丈夫なのだろうか。

マリサ「これ、大丈夫?」
リコ「いつも使ってるのとサイズそんなに変わらないと思うから大丈夫……だと思う、けれど……でも、こんな状態で使われたら、その……はは」
 マリサにこねくり回され、恐怖で生殖本能が刺激され、感覚も鋭敏になっている今この時に。普段一人で使うときでさえ、たやすく気持ちよくさせられてしまう器具など使われたら、どれだけ正気を保てるか、わかったものじゃあない。
マリサ「痛かったら、言ってね」
リコ「怖いって言ったら?」
マリサ「怖くなりたいんでしょ? やめない」
リコ「ごもっともで……」
 マリサが再び股間に牙をあてた。今度はもう、漏らすものすら残っていなかった。ちょっとだけ痛くて、全身が冷えるようで……今度は乳房に牙があてられる。体をよじっても、牙は離れてくれなくて、怖くって……。吸引バイブは音を立てているけれど、それは放っておかれたままリコはわき腹をくすぐられ、マリサにディープキスを強要された。
 大きく開いた口を眺めながら、あの牙に噛みつかれたらどれだけ痛いのだろうと考えているろ、忘れたころに膣へ異物がずぶりと入り込む。
リコ「ん……!?」
 痛くはなかったが、衝撃はあった。ゆっくり、ずぶずぶと沈められていく間にも心臓が膣内を焦がしていく。吸引バイブの振動する柄の部分がすべて沈み込むと、同時に吸引部分がクリトリスに引っ付いて、押したり撫でたりではできないタイプの刺激がリコの下半身に走り出す。
 機械特有の、ノンストップかつ規則正しい刺激……一秒に数回のペースでクリトリスを軽くめくりあげるような刺激が、リコの体を何度も浮かせる。腰を突き出し、ブリッジのような姿勢になり、足は閉じたいのにそれは許されない。快感を逃がすことも抵抗することも出来ない。
リコ「ね、マリサ……これ、そろそろ、イッちゃいそうで……」
マリサ「イクのは嫌い?」
リコ「違う……せっかくなら、動画に収めてみたら?」
マリサ「いいの? さすがに悪いかなって思ったけれど?」
リコ「今日じゃなくていいから、お返しをくれるなら……どうせ、なら、本気で、楽しんでみたいじゃん? 毒を食らわば皿までっていうし……二人の秘密に、さ」
マリサ「リコ、脳内麻薬のせいで思考がバグってない?」
リコ「かも、ね」
マリサ「病気で高熱を出すと、幻覚を見て奇行に走ったりすることがあるらしいし、麻薬の中毒者が自分は映画の主人公になったと思い込んで馬鹿をやってりする話は聞くけれど……こういう。アドレナリンやエンドルフィンのキメ過ぎで、脳内でAV女優にでもなっちゃったかな?」
 リコは余裕がなさそうだ。マリサは一度、時間にしてほんの15秒ほど、リコの膣内から吸引バイブを引き抜く。
リコ「私、そんなにおかしい?」
マリサ「はは、おかしいねぇ……でも、好きだよ、リコちゃん」
 まだ脈動している吸引バイブを掴みながら、片手で器用にカメラを起動し、マリサは片手でリコの膣内に吸引バイブを沈みこませていく。
リコ「ん……はぁ……私も楽しいよ、マリサちゃん。私がイクところ、じっくり見てね……」
マリサ「うん、あとで一緒に鑑賞会しよっかぁ」
リコ「人はそれを公開処刑というのでは?」
 マリサが立ち上がり、リコの全身が映るように撮影した。リコの目が泳いでいる。目を開けているが、どこも見ていないし、口も開けっ放しで呆けている。短い尻尾がパタパタ動き、言葉を紡ぐ余裕もなくなった。マリサは片足で立ちながら、足で吸引バイブを軽く踏みつけ、クリトリスと膣内への感覚にメリハリをつけ、同じ刺激に飽きさせないようにする。リコの口が完全に閉じられて、手は固く握られた。
 これが限界の瞬間のリコ。
マリサ「すごい……」
 マリサは目を輝かせながらその光景を目に焼き付ける。リコは暴れながら四肢を畳もうとしているが、拘束のおかげで四肢は開かれたまま。拘束を引きちぎらんばかりに力が入っていて、手首には毛皮の上からでも、腱の動きが見えるほど。木の枝もかみちぎりそうなほど歯を食いしばり、言葉にならないうめき声が漏れて、苦しんでいるのか愉しんでいるのか、一見して間違えそうなほど。背中がのけぞり、背骨がおれないかちょっと心配になってしまった。呼吸も止まり、しばらくの痙攣の後、目が虚ろ、唾液が漏れ出すのを気にする余裕もなく、荒い息を漏らすリコ。
 先ほどまでとは打って変わって、全身の力が抜けていて、糸の切れた操り人形のよう。
 その光景があまりに可愛らしいので、マリサは男性がそうするように覆いかぶさり、リコの首筋に牙をあてる。跡が残るくらいに強く噛みついてしまいたい欲求をこらえ、優しく、優しく。リコの匂いを鼻腔から肺に取り込むだけにとどめる。
リコ「あの、マリサちゃん……ちょっとこう、疲れたのと、すごく、くすぐったくて……怖い……怖くて……バイブ、抜いて」
 息も絶え絶えな様子でリコが訴えると、マリサは覆いかぶさったまま優しく抱きしめる。
マリサ「こんなにかわいい姿なのに、もう終わりにしちゃうの? もったいないよ……」
リコ「いや、いや、でも……」
マリサ「リコちゃんの一番かわいい姿、もっと知りたい……見ていたいな」
リコ「うあー……」
 リコはマリサにキスで口をふさがれた。
マリサ「ごめんね、命乞いしかできないリコちゃん見てると、苛めるのを止められなくなる……暴れて苦しむリコちゃんをずっとこうして抱きしめていたくなって……楽しい?」
 口では謝るマリサが、今のリコには本気で怖かった。これは、マリサが満足するまで解放されない奴じゃないかと。
リコ「こわひよ……マ…サ。早く、抜い……」
 口が回らなくなる。本格的に余裕がない。なのに、マリサはマイペースにリコの胸に噛みつき、ひたすらマーキングをしている。ひどいと感じているのに、これを望んでいたと感じてしまう自分もいる。全身がくすぐったくて、すべての刺激から解放されたいのに、苛めるマリサに身をゆだねていたい。
 だけれど、体は本当につらかった。下半身にいまだに与え続けられる吸引バイブの刺激が、無限にくすぐったさを与えてくる。体が疲れ果てているのに、暴れてでもこの苦痛から逃れたい。血管内部で無限の寄生虫が暴れているんじゃないかと思うほど全身がくすぐったいのに、気持ちよさがあるからこの状況も悪くないと考えてしまう。
 苦痛の方が大きいのに、わずかな快感とエンドルフィンにすがってしまう。涙が出て、震えて、もしここに正義感の強い男がいたら、マリサをぶん殴ってでも止めそうな状況で。リコは苦痛に耐え、恐怖に耐え、代わりに与えられる快感で脳を焦がし続ける。
 胸を舐められながら、大きく開かれた割れ目に、吸引バイブを押し付けられ続け。クリトリスの吸引と膣への振動による刺激で快感を強引に与えられている。叫び声ともうめき声ともつかない声をあげながら、マリサは腰を浮かせ、体をねじり、四肢をばたつかせ、歯を食いしばり。リコが息も絶え絶えににマリサへ『怖い』と告げてから、十数回ほどそうやって、絶頂に達したであろうか。
 拘束具をつけられた部分の毛皮が大きく乱れ、うつろに開かれた目からは光が消えている。
リコ「あぅー……えー……まいさ……あー……ダメ……もうやえて……むり」
 およそ知性を感じさせないリコの狂乱を眺めていると、次第に彼女の反応が薄くなっていることにマリサは気付く。さすがに疲れすぎて、体も脳も神経も疲弊しているのだろう。マリサはようやく吸引バイブを引き抜き、リコを楽にしてあげた。
マリサ「リコ、お疲れ……」
 耳元でそうやってささやくと、リコは安心したように目を閉じる。もう何かを言う気力も残っていないようだった。
リコ「はぁ……へぁ……」
 全身が脱力し、激しく呼吸する胸以外の部分はピクリとも動いていない。瞼は重く閉じられたまま、口もぽっかり空いたまま。拘束を外してあげると、内またになり、赤ん坊のように丸まったポーズにってそのまま気絶するように眠ってしまった。
 マリサはリコを一度優しく抱きしめると、股間をひと舐め、疲れ切った無防備な寝顔を写真に収めてから、彼女の寝息の匂いを嗅いでいた。
マリサ「今度遊ぶときは、リコちゃんに責めてもらおうかなぁ」
 そんな不穏な言葉にも、リコは当然反応を示すことはなく。泥のように重くなった体を一刻も早く癒すため、リコはただマリサに包まれていた。

 目が覚めると、リコの目の前にはマリサがいた。息が詰まりそうになったが、何とかこらえてベッドから這い降りる。
リコ「はぁ、死ぬかと思った……人間、もう限界と思っても案外持つものなんだな……」
 言葉通りの無茶をしたせいか、体がくたくただ。一時間ぶっ続けでサンドバッグをたたいていてもこうはなるまい。それに、拘束具がつながれていた手首と足首がジンジンと痛む。股間にも少し違和感がある。
 この女、散々いたぶってくれやがったなと、マリサの穏やかな寝顔が恨めしい。
リコ「こんな顔で寝るんだ、マリサ」
 リコは自分の脱がれた服からスマホを取り出し、マリサの寝顔を写真に収めた。
リコ「これじゃ仕返しにならないな……」
 リコがぽつりとつぶやくと、マリサの黒い鼻と耳がピクリと動いたが、寝たふりなのか本当に寝ているのかはわからない。だるくて重い体を引きずってべとべとになった体を洗い流すと、植野から甘草まで大した距離じゃないのに、歩いて帰るというのがひどく面倒に感じるほど疲れていることを実感する。

 そして、リコはシャワーを浴び終え、マリサの顔を再び見たときに、今までにない感覚を覚えてしまった。
リコ「うぅ……」
 マリサの事を見ていると、抱いて欲しくなる。あの鋭い牙で噛みついてほしくなる。また、見下ろされながら徹底的に攻めて欲しくなる。今まで感じていた気持ちがさらに大きくなっただけなのだろうけれど、今までと違って、マリサに対する感情が『してほしいなー』から、『されたい』にランクアップしてしまったような。
 マリサを見ているだけで下半身がうずいてしまう。                                             
 聞いたことがある。人は、初めて精通したり、オーガズムを経た時の経験が脳裏に焼き付いて、ソレが快感を与えてくれるものだと認識してしまう。梅干を見ると唾液が漏れるように、毎日19時のニュース番組を見るとお腹が減る(リコの家族限定)ように、条件反射でソレが性癖になってしまう。
 リコにとってオーガズムそのものは初めてではなくても、エンドルフィンとオーガズムのダブルパンチをされたのはきっと、今日のコレが初めてだ。完全にエンドルフィン中毒になってしまい、その原因であるマリサが脳に刻み込まれてしまった自分を自覚して、リコは自分の情緒がぐちゃぐちゃにされてしまったことを理解させられたのであった。

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