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~元に戻った美桜の生活編 Chapter2~

~込められた想い~

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美桜と峰岸君はテラスガーデンから会場の扉前まで戻ってきた。

会場に入る時に繋いでた手を名残惜しそうに離し、扉を開け会場内に入り、周りを見渡し、家族を探すと一ノ瀬家と峰岸家が一緒にいたので美桜達も合流する。


「おかえりなさい、美桜。外は寒くなかった?いい気分転換になった?」
外から戻った美桜に母は心配そうな表現で問う。

「大丈夫……ありがとう。」
母の問いに恥ずかしくも微笑みながら返事をする美桜。
その様子に安堵する母や父だったが、兄だけは素っ気なかった。

以前のように冷たい態度では無いのだが、兄の態度に美桜が疑問に思っていると視線を感じ、視線の感じた方を見ると峰岸君と目が合い峰岸君は困った表情で美桜に微笑んだ。


閉会式の時間きて鳴宮さんが挨拶のスピーチを始める。
「皆様、この度はお忙しい中パーティへの参加ありがとうございます。パーティは楽しめましたでしょうか。……終わりのスピーチで一つ訂正事項がございます。今回我が社が受け持つショッピングモールのデザイン画のご案内を訂正させて頂きたいのです。」

鳴宮さんは会場内を見渡しゆっくりと話し出す。
鳴宮さんの合図で布で被せられたパネルが会場のステージ上に運び込まれ、被せていた布を鳴宮さんは取り去った。
デザイン画が顔を出し会場内に「見事な」や「おぉ…」等の声が漏れ少しざわつく。

「このデザイン画ですが…。先ほど担当の方に詳しく聞いたところ、それぞれのご令嬢やご子息が考案し手掛けたものと判明しました。若き才能がここで埋まってしまうのはもったいないと思いここで伝えさせて頂きました。」

鳴宮さんの言葉に会場中が再びざわつき、「デザイン画の方は一ノ瀬家の…」「ならば文字は峰岸家のご子息が…」と所々で聞こえる。

「私…思うのです。才能は大人も子どもも関係ないと…。子どもの考案をそのまま採用したとして共同作業として恥ずかしい事ではないのだと。
そういう家族関係…少し羨ましくも思います……。……ここに描かれているアルストロメリアの花の花言葉をご存知でしょうか。持続、または未来への憧れ…エキゾチック…。花の色によって細かく意味が違うようですが、おおまかな意味合いはこの3つです。」

会場内をまた見渡し言葉を続ける鳴宮さん。
「そしてこの花の下に書かれている文字…。『咲き誇る未来』。一見しなやかで細い線に見えますが、所々芯が強く書かれています。このデザイン…私は生涯大事にする事をここで皆さんに誓います。急に何を言っているのだと思われるかもしれませんが…。こうも思うのです。このデザイン画そのものが『私達』だと。」

デザイン画のパネルに近づき優しくパネルをなでながら話す鳴宮さんの言葉に会場内の皆が静かに耳を傾ける。
「私はこのデザイン画を見た時花言葉を調べ、文字の形から個人的な解釈ではありますが、まるで私達の人生のような…
これからのショッピングモールの事を指しているような…そう感じました。
未来への憧れから行動しそれを持続する…。たとえ他国や他者の考えを交えようとも受け入れる心を持ち…そして芯はあれどしなやかさも持ち合わせている…。」

「失敗もあり一筋縄ではいかない時もあるとは思います…。人は成功より失敗の方が多いとも思います。時には逃げて…目を逸らしてもいいのです。ですが…失敗や目を逸らしたい事に向き合う勇気がある事を忘れないで…己が出来る事を出来る範囲で、一歩ずつ前に進むことが大切だと思うのです…。そうすればこの花のように綺麗に咲き誇っている未来が待っているのではないでしょうか。願わくば、会場内にいる方々やショッピングモールに来てくださった方々の未来が咲き誇っていますように………長々と失礼しました。ご清聴ありがとうございます。」

鳴宮さんはパネルに向けていた体を次第に会場内の皆に向け真っ直ぐな瞳で伝え言葉の最後を締めくくりお辞儀をした。

美桜は最後の方は自分達家族を表しているようなどこかそんな印象を受けた。
鳴宮さんの言葉は皆どこか素直に受け入れる事が出来たようで感心の眼差しを向けられ会場内の至る所から拍手が沸き起こった。

鳴宮さんのスピーチに対する拍手とともにデザイン画を考案し手掛けた美桜と峰岸君を讃える声までも聞こえ始め、二人は顔を赤くしながら俯いた。


そうして閉会式が無事に終え、各々帰る支度を始め解散しだし、一ノ瀬家も峰岸家や鳴宮さんに挨拶をして帰宅していった。
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