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~元に戻った美桜の生活編 Chapter2~

~新学期~

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月日は4月。高校3年生1学期の始業式当日の朝。

美桜は半月ぶりに制服に袖を通し、制服のリボンを付け、髪をポニーテールにして準備を整える。
美桜は学校に行く準備が整い、朝ご飯を食べるべくダイニングテーブルに向かう。

ダイニングテーブルにはすでに家族が集まっており、テーブルの上には朝食の用意がほとんど出来ていた。今日の朝食は和食で父が作ったようだ。
母や兄はすでに食べ始めており、父や美桜も足りていない自分の分を用意して席に着く。

「今日から3年生ね。クラス替え、今年もあるんでしょう?何組かしらね。」
母がワクワクしている様子で美桜に問いかける。

「ん~…何組でもいいけど…出来たらいのりちゃん達と同じクラスになれたらいいな…。」
手を動かしながら母の問いに答える美桜。

「……『達』ってあいつも入ってんの?」
母と美桜の会話を聞いていた兄がご飯を食べながら美桜に問いかける。
美桜は兄の問いに疑問で返した。

「あいつって?」
「あいつは…あいつだ…。」
「誰の事よ…。」
「あいつ」としか言わない兄に呆れながら本当に誰の事と疑問に思っていると母が察して目を輝かせながら美桜と兄の話に入ってきた。

「きっと峰岸君の事よ!去年は同じクラスだったのでしょう?今年も同じクラスだといいわね。」
「よくねぇよ…ったく…」
「あら、いいじゃない、峰岸君。かっこかわいいし、優しそうで礼儀正しくて。あのデザイン画の文字を彼が書いたと聞いた時はすごく腑にふに落ちたもの。」
「…峰岸さんの…。たしかによさそうな雰囲気だったな…。その子が何か問題あるのかい?」
「……。」
「……はぁ…もういい。」
母と兄の会話にパーティで会った峰岸家の事を思い出した父。
その中で美桜の同級生の子がいたという事も思い出したが、母や兄のように美桜と峰岸君の関係を察していない為母と兄に疑問を投げかける。

父の言葉に鈍感すぎると呆れ、母は無言になり兄はため息をつきながら会話を終わらせた。
父はいまだに疑問を顔に浮かべているが、母や兄は何事もなかったかのように食事を再開した。
三人の話を聞いていた美桜は今の家族の雰囲気に安心を抱いていた。
疑問を顔に出していた父も仕事があるので朝食を済ませるため再び手を動かし始めた。


皆が朝食も食べ終わり母や兄はコーヒーを飲みながら時間までゆっくりするようで、父は仕事に行く準備を始めている。
美桜も朝食を済ませ、食器を台所のシンクに置きカバンを持って行ってきますと家族に声を掛け家を出た。


学校に着き校門を抜けて校舎の入り口の右横に大きなパネルがあり人混みでにぎわっている。そこには用紙が張り出されており、クラス分けの表のようだ。

すでに確認が終わっている生徒は喜び合っている者もいればクラスが離れて残念がる人もいる。
美桜が人混みの間をうまくかわしながらパネルの前にたどり着き学年とクラスを確認して自分の名前を探す。

自分の名前を見つけ、さらに知っている人がいないか名前を探すと原さんやその下の方に峰岸君の名前があった。
今年も同じクラスだと知り内心嬉しさで感極まり、軽い足取りで自分の教室に向かった。

美桜が教室に向かう途中で下駄箱や廊下から女生徒の何人かが「あんなかっこいい人いた?」「すっごいイケメン見ちゃった」など会話しているのが所々聞こえた。

美桜は転校生か誰かかなと特に気にせず教室にたどり着き、黒板に貼り出されている紙を確認して自分の席が廊下側とは反対の窓際にあるのを確認して自分の席であろう机に近づきカバンを置くと廊下から走ってきて教室に慌てて入ってきた女の子がいた。

その子は原さんですごく息を切らしながら教室内を見渡し美桜の姿を見つけると勢いよく美桜に近づきながら慌てた様子で声を掛ける。
「美桜ちゃん!!!!!」
「いのりちゃん、おはようございます。どうかしたのですか?」
「のんきにしてる場合じゃないの!ちょっと来て!!!峰岸君が大変なの!!!」

峰岸君が大変だと慌てる原さんは美桜の手を引き廊下に向かう。
美桜は状況が呑み込めずに原さんに手をひかれるままだったが、状況の掴めていない美桜の遅い足取りにしびれを切らし、美桜の背中に回り「本当に大変なの~」と美桜を早歩きで押しながら廊下に連れ出そうとする。
「い、いのりちゃん、そんなに早く押されたら誰かにぶつかってしまいます。」

軽く後ろに振り向きながら原さんの行動をやめさせようと声を掛けた刹那、美桜もよそ見をしていたので案の定教室の入り口まで来たところで勢いはないが誰かにぶつかった。
「す、すみません…。よそ見して…て……。……雅…君?」
「おはよう、一ノ瀬さん。ぶつかったの大丈夫?どこか痛いとこない?」

美桜がぶつかったのは教室に入ろうとしていた峰岸君だった。
美桜はすぐに謝りぶつかった相手の顔を確認したのだが、美桜と同じ目線にあったはずの峰岸君の顔が少し高い所にあり、美桜は自分より少し背が伸びた峰岸君の顔を驚いた顔で見る。


「………。」
「一ノ瀬さん?どうかしたの?僕…なんか変かな?」
背が伸びた峰岸君の姿に驚きと見惚れてみとれて黙り込んでしまった美桜に峰岸君は苦笑いで声を掛ける。

「……ぁ…えっと…見惚れてみとれてしまってごめんなさい…。その…背が伸びてより一段とかっこいいです。」
「あ…ありがとう…。」
美桜は頬を赤く染め俯きうつむきながら黙り込んでた理由と峰岸君に対する感想を伝えた。
峰岸君も率直そっちょくな感想に頬を赤く染めお礼を言う。

二人の会話で甘い空気が流れ始めたが、先生を含むクラスの皆の咳ばらいが重なった。
いつの間にかホームルームの時間がきていたようで教室にはすでに全員がそろい席に着いて二人を温かい目で見ていた。
美桜の後ろで大騒ぎだった原さんまでも席について楽しそうに笑顔でこちらを見ている。
先生やクラスの皆の視線を集めていた二人は恥ずかしさでさらに顔を赤くし、急いで自分の席に着く。

ホームルームが終わった後、原さんに結局何が大変だったのか聞いてみると、身長が伸びた峰岸君を見る女の子達の目が変わったと教えてくれた。
美桜ちゃんもスタイルよくなってさらに可愛さに磨きがかかって峰岸君も大変だなぁと他人事のように呟いていた。


―――放課後の武道館。空手部。
美桜は峰岸君や原さんと挨拶を交わした後、部活に参加するべく武道館に来ていた。
道着に着替え終え、部の皆と分担して部活を始める為の必要な準備を行った。
各々が準備を終え、集まった所で部活始めの軽いミーティングが行われる。
主に当日の取り組む目標や連絡事項を主将を通して伝えられる。

この日聞いた連絡事項の中にインターハイの事が含まれ、大会運営委員の関係により今年は県予選がだいぶ早く行われる事になったそうだ。
期日は5月のゴールデンウイークに開催するとの事で、時間があまりない事を知った美桜は今までより一層力を入れなければと意気込みミーティングを聞いていた。
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