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合言葉
しおりを挟むわたしはノートにここまで書いてじっとカフェノートを見た。
祐介君にとって未来である二十二年後のこの世界はどんな風に映っているのだろうか。良い世の中なのかそれとも……。
わたしの生活している今のこの時代は何でも揃っている便利な世の中だ。けれど、何かが足りなくて良い時代とは言えないのかもしれないなとも思う。
わたしは、そんなことを考えながらペンをぎゅっと握りしめた。
するとその時。カフェノートに……。
ボールペンで書かれている輪郭がぼやけていて薄くなっている豪快で大きくて綺麗な文字が浮かび上がってきた。
この文字は見慣れた祐介君の文字だ。
そして、カフェノートには。
『本人だと分かる言葉っていいね』と書かれていて、
『そうだ、早乙女ちゃんの住んでいるその世界は俺から見たら二十二年後の世界だから『二十二』なんてどうかな? 祐介』と書かれていた。
わたしは、その返事を見てすぐに『二十二に良いかも。決定! 早乙女』と書いた。
そして、祐介君からもすぐに返事がきた。
『では、二十二年後のその世界で早乙女ちゃんに声をかける機会があれば『二十二』と言うね』と書かれていた。
わたしも、
『うん、二十二祐介ですと言ってね』と返事を返した。
祐介君からも、
『あはは、二十二祐介ですなんて突然言ったらめちゃくちゃ変な人だね。早乙女ちゃん絶対に笑わないでね』と書かれていた。
わたしは、
『うん、笑ったりなんてしないよ。あ、でも一瞬笑ってしまうかも。なんてね、笑いを堪えるね。早乙女』と書いた。
祐介君から、
『ちょっと、早乙女ちゃんってばめちゃくちゃ笑いそうで心配だな。絶対に笑わないでくださ~い。祐介』と書かれていた。
わたしは、西暦二千年の世界で祐介君がペンを握りしめ唇を尖らせている姿を想像して笑ってしまった。
そして、そこまで考えたところで、わたしは高校生の祐介君の姿も知らないことに今更ながら気がついた。
そうだ、そうなのだ。高校生の祐介君のその姿もふわふわぼんやりしたイメージの中で思い浮かべているだけだった。
わたしは、祐介君の顔も声もどこに住んでいるのかも何も知らない。このカフェノートを通して文章だけで繋がっているただそれだけなのだった。
それなのに祐介君はわたしにとってなくてはならない存在になっている。
知っていることより知らないことの方がずっと多いのだった。
わたしと祐介君は不思議な関係だなと思った。きっと、この出会いに何か意味があるのかもしれないなと思う。
それが何なのか今のわたしにはまるで分からない。
でも、きっと、わたしと祐介君がこのカフェノートを通してその過去と未来が繋がったことには意味があるはずだ。
わたしはしばらくの間目を閉じて思考を巡らせた。
そして、目を開けて祐介君の文字を見つめる。不思議な過去からの手紙がこのカフェノートに書かれている。
今は、その奇跡が嬉しくてわたしは微笑みを浮かべた。
それからペンを握りわたしはゆっくりと丁寧に『こうして祐介君とカフェノートを通して話ができて幸せです。でも、会って話をしてみたいなとも思います。早乙女』と文字を書いた。
祐介君は過去の時代を生きていて今もきっと元気に暮らしているとは思うけれど日々の生活が忙しくて高校時代のカフェノートのことなんて覚えていないのかもしれない。
そう思うと少し寂しいなと思う。
そんなことを考えていると、ふわふわとカフェノートに文字が浮かび上がってきた。
『俺も早乙女ちゃんとこうしてカフェノートを通して会話ができて幸せです。おっさんになった俺も早乙女ちゃんに会いたいなと思うけれど、もしも叶うなら高校生の今の俺も早乙女ちゃんに会いたいな。祐介』
と書かれていた。
わたしもそう思うよ。祐介君……。
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