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マルコーリさんと道也君

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「え?  道也君ってどなたですか?」

  マルコーリさんは目をぱちくりさせている。 びっくりするよね。突然道也くんと呼ばれたのだから。

「マルコーリさんは道也君ですよね?」

  わたしは、マルコーリさんの澄んだ綺麗な目を見つめて言った。

「砂織の言っていることが分からないんですけど……僕はマルコーリですよ」

「そ、そうですよね。ごめんなさい」

  わたしは謝ったけれど、マルコーリさんが道也君に見えてしまうのだった。

  確かあの時、わたしは道也君と……そうあの時、ダメだ、思い出そうとすると頭に霧がかかったようになり思い出せない。

  どうして?  どうしてなのだろうか?

  わたしは……。

「砂織、聞いてもいいですか?」

「あ、はい」

  マルコーリさんの声で我に返る。

「道也君と砂織はどんな関係だったんですか?」

「……それは」

  と言ったところで、

「マルコーリさ~ん、おはよう」

  ユーアーナの元気な声が聞こえてきた。

  
  「あ、ユーアーナおはよう」

「うふふ、マルコーリさん、今日はぶどうを持ってきたよ。きっと、美味しいわよ」

  若草色のワンピースに白いエプロン姿のユーアーナが無邪気に笑う。

「ありがとう。助かるよ」

「わたしもカフェの仕事を手伝おうかな」

  ユーアーナは、そう言ったかと思うと、布巾を手に取り木製のテーブルを拭き始めた。

  ふんふんと鼻歌を歌いながらユーアーナはテーブルを布巾で縦に横にと拭いている。

  そんなユーアーナを見ていると複雑な気持ちになるけれど、今は道也君のことをマルコーリさんに上手く話すことができそうにないのでユーアーナの登場に助かったかなと思うのだった。

  わたしがこの世界に存在する理由を考えようとするとなぜだか胸がドキドキしてきた。

  ドキドキドキドキしてきた。

  
  どうしてわたしはここにいるのだろうか?

  道也君はわたしの顔を優しいその笑顔でじっと見た。

  わたしは、この世界に来てから道也君の柔らかくて優しい笑顔を忘れていた。けれど、マルコーリさんの爽やかで癒される笑顔を見ると懐かしい思いが溢れてきた。

  ずっと、どうしてかなと思っていた。

  その答えはまだはっきりと分からない。ざわざわと嫌な気持ちが広がる。

  わたしがこの世界に来た理由を考えると心配でたまらなくなる。どんどんどんどん暗闇の底から得体のしれないものが這い上がってくるような奇妙感覚に陥る。

「砂織ちゃん、砂織ちゃん」

  道也君がわたしを呼んでいる。

  道也君と返事をしようとするけれど、声が出ない。

「砂織、砂織、どうしたんですか?」

  この声は。

「あ、マルコーリさん」

「砂織、顔が真っ青ですよ。体調が優れないのでしたら休んでも大丈夫ですよ」

「……いえ、大丈夫です。考え事をしていただけです。ごめんなさい」

「本当に大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「だったらいいんですけど、りんごジュースでも飲んで元気を出してくださいね」

  マルコーリさんはりんごジュースの注がれたグラスをわたしに差し出した。

「ありがとうございます」

  りんごジュースを飲むとその酸味と甘さでホッとした。

「あ、りんごジュースだ~」

  布巾でテーブルを拭いているユーアーナがこちらを見て言った。
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