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わたし道也君がいるこの世界にいたいのに異世界へトリップしてしまいそうです

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「砂織ちゃん、どうしたの?  大丈夫かい」

  道也君の心配そうな声が聞こえてくるのだけど、わたしはサーバルから目を離すことが出来ずにその場に立ち尽くしてしまった。

  サーバルがシロリンちゃんに見えてきてそして、『砂織ちゃん、遊ぼうにゃん』と言っているような気がする。

「道也君、わたし……」

「砂織ちゃん、しっかりして!」

  道也君はわたしの名前を呼び肩を揺する。

「道也君……シロリンが」

  わたしは、道也君の澄んだ目を見た。その目はマルコーリさんの目と良く似ていた。

「シロリン?  砂織ちゃん何を言っているの?  俺の小説に出てくるシロリンのことを言っているのかな?」

「ううん、そうじゃないの。道也君の小説に出てくるシロリンじゃないんだよ」

「じゃあ、誰のことなの?」

「……ルーピー村の食いしん坊な猫のことだよ」

「ルーピー村?  砂織ちゃんやっぱり事故の後遺症で疲れているのかもしれないね」

  道也君は不安げな表情を浮かべている。

  心配させてごめんね。わたしは、道也君と一緒にいるこの時間がとても大切なのにどうしてなのだろうか?  わたしの体はこの地球とは別の世界に旅立とうとしている。

  そして、その時、空がピカッと光ったかと思うと雷に打たれたような感覚に陥る。

  わたしの体は何かに吸い込まれた。

「み、道也く~ん!」

  わたしは、大声で叫んだ。だけど、わたしの体は別の世界に吸い込まれていくようだ。

「砂織ちゃん」とわたしを呼ぶ道也君の声が聞こえてきたけれど、その瞬間わたしの意識は遠退いた。
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