バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら

なかじまあゆこ

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今日から無職

派遣会社から驚きの

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「うふふ、そうなんですよ。お手伝いさんがちょうど辞められたらしいのですよ」

  電話口から聞こえてくる長崎さんの声は弾んでいるけれど、なんだか不思議な言葉が発せられたように思うのだけど気のせいであってほしい。

「もしも~し成田さ~ん、聞いてますか?」

「はい、聞いていますけど……長崎さん、今、お手伝いさんが辞められたって言いましたか?」

  わたしは強く耳にスマホをくっつけながら恐る恐る聞いた。

「はい、そうですよ。今がチャンスですよ。だって、解雇になった直後に即仕事が見つかるなんてラッキーですからね」

  どうやらわたしの聞き間違いではなかったようだ。

「その仕事内容なんですがお手伝いさんなんでしょうか?」

「はい、お手伝いさんのお仕事ですよ」

  長崎さんのその声は当たり前でしょうと言っているかのように聞こえた。

「詳しい詳細はメールしますので検討してくださいね」

「……はい、分かりました」

  わたしは溜め息をつき通話終了ボタンを押した。

  
  七階建てのマンションの三階の角部屋がわたしの住いだ。お手伝いさんの仕事って一体どんな仕事なのよと考えながらエレベーターのボタンを押し部屋に向かう。

  三階のわたしの部屋の前に着くとスマホがブルルと振動した。画面を確認すると派遣会社うるなかとある。

  長崎さんが早速仕事のメールを送ってきたんだなと思うと内容が気になり急いで鞄から鍵を出してドアを開けて部屋に入る。

  ベッドの上でわたしの帰りを待っているぬいぐるみの猫ぴーちゃんに、「ただいま」と挨拶をして頭を撫でた。

  服を着替えるよりも先にわたしはスマホの受信BOXをタップして中身を確認する。

  気になる仕事の内容は……

『成田葉月さん。お疲れ様です。

   派遣会社うるなかの長崎です。

  先程電話でお話させて頂いた仕事の詳しいご案内でございます。とても、とって~も貴重な超レアなお仕事なので是非成田さんに就業して頂けたらなと思っています。下記の内容をよ~く、読んでくださいませ』

  この続きを読むのは怖いようなけれど読みたいようななんとも言えない気持ちになる。

  わたしは勇気を出し、えいやと画面をスクロールして続きを読んだ。

  『お仕事内容で御座います。

  中川家のお手伝いさん絶賛募集中。

  給料  時給千六百円

  就業時間  七時~二十一時の間シフト勤務

  仕事内容  中川家の庭掃除、洗い物、料理等々。

  応募条件は特に御座いません。明るく元気にお仕事をして頂けたらと思っています。以上。

  就業ご希望でしたら採用担当長崎まで、もしくは下記URLから応募してくださいませ』と書いてあった。

  わたしは応募条件を眺めながらうーんと首を捻った。やはりお手伝いさんの仕事だよね。これだけの内容で応募を決めても良いものかなと考える。

  だけど、わたしの目は時給千六百円の文字に釘付けになったのだ。

  頭の中のそろばんを思わずパチーンと弾いてしまった。一日八時間勤務だとすると日額一万二千八百円。月二十日勤務だとして月給二十五万円にはなる。(本当は計算機を使ったけどね)

  欲しい服も買えるしあのアパレル店で見かけた桜色のスカートだって余裕で買えるじゃないと思うと笑顔になる。

  「うふふっ、わーい、これはいいかも」と声を出して喜ぶわたしだったけれど、でも待てよと考える。
 
  わたしは料理も得意ではないしそれに偏見かもしれないけれどお手伝いさんといえばわたしよりずっと年上の人がやるものかなと思う。

  それに、主婦として料理や掃除などの腕を磨いてきた人が適しているのではとも考えてしまうのだった。

「ダメだ、わたしには勤まらないよ~」

  わたしは机の上にスマホをぽーいと投げた。それから財布の中身を確認する。入っているのはレシートばかりだ。

「わ~お金がないよ~」

  来月の給料を期待して散財してしまったではないか。わたしは馬鹿だ。

  机の上に投げ捨て転がしたスマホを手に取りもう一度長崎さんが送ってきたメールの画面を確認する。

  時給千六百円がキラキラ輝く宝石のように見えてくる。

  今のわたしにとって時給千六百円は魅力的だ。でもだけどと、うーんと唸っているとスマホがブルブルと振動した。

「わっ、何?」わたしは、びっくりしてスマホを落っことしそうになった。手に持つスマホの画面を確認すると長崎さんからの着信通知だった。

「はい、成田です」わたしは電話に出た。
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