バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら

なかじまあゆこ

文字の大きさ
9 / 86
運命が動く

平凡なわたしの毎日

しおりを挟む

  春のオレンジ色に輝く夕焼け空がキラキラと輝きとても綺麗だった。

「では、明日から頑張ってくださいね」と浜本さんが挨拶をし、「はい、頑張ります」とわたしは答え、各々の電車に乗り家路に着いた。

  わたしは駅前のスーパーに寄りおばさん達に混ざり安い食材の争奪戦に加わる。

「ちょっと、それはわたしのお刺身よ」

  振り返るとブルドッグみたいな顔をしたおばさんが眉間に深い皺を寄せてわたしを睨みわたしが掴んだ半額シールの貼られたお刺身のパックを引っ張ってくる。

「えっ、でも……わたしが先に取りましたよ」

「いいえ、そのお刺身はわたしが一度カゴに入れたのよ」

「はい?  でも、今ここに置かれてましたけど……」

「半額になるのを待ってたのよ。で、半額セールが始まったから一度そこに置いたのよ」

  おばさんは納得のいかない屁理屈をこねる。

「そんなの屁理屈です!」

「何ですって?  あなたこのわたしの言ってることが間違っていると言うの」

  おばさんは大きな声を上げた。

「……おばさんにこのお刺身譲りますよ」

  
  買い物を終え食材のたくさん入った重たい袋を抱え川沿いの道をてくてく歩く。桜の花びらが春の風に吹かれてさらさらと舞う。

  おばさんの迫力に負けたわたしはお刺身を譲り納豆を買った。

 七階建てのマンション前に立つ。英美利ちゃんの立派な豪邸からこの家に帰って来るとなんだか惨めな気持ちになった。

  英美利ちゃんはみんなから愛されて幸せな人生を送っている。欲しい物はきっとなんだって手に入る。羨ましいな。半額シールの貼られたお刺身の取り合いなんてすることもないだろう。

  それにしてもどうしてお刺身を食べるつもりが納豆になってしまったのだろうか。自分が惨めに思えてくる。

「あ~嫌になる~おばさんにお刺身も奪われた~」

  わたしは扉の前で思わず叫んでしまった。

  
  いけない扉の前で叫んでいると苦情を言われてしまうかもしれない。わたしは慌てて鞄から猫のキャラクターが付いた部屋の鍵を取り出して扉を開けた。

  誰も居ない真っ暗な部屋に向かって「ただいま」と声を掛ける。もちろん返事はなくてシーンとしたままだ。

  いつものようにベッドの上でわたしの帰りを待っているぬいぐるみの猫ぴーちゃんに、「ただいま」と挨拶をして頭を撫でた。

  台所のテーブルの上に買ってきた食材の入っているスーパーの袋をドサッと置く。今日の夕飯は納豆ご飯と冷蔵庫の中にある野菜を使い炒め物でも作ろう。

  次の給料日まで節約しないと。

  キッチンに立ち炒め物を作る。キャベツともやしの炒め物だ。

「いただきます」と手を合わせてテーブルに並べたキャベツともやしの炒め物とマヨネーズをたっぷりかけた納豆を食べる。お米だけはたくさんあったのでお茶碗にご飯をてんこ盛りに盛った。

  今頃英美利ちゃんは贅沢な食事をしているのだろうなと想像する。優雅に微笑みを浮かべる英美利ちゃんの笑顔がぱっと頭に浮かんだ。


  「悔しい~ううん、悔しくなんてないもんね。マヨネーズをたっぷりかけた納豆は美味しいんだもん」

  わたしは、お箸でマヨネーズをかけた納豆をぐるぐるぐるーと何回も混ぜた。熱々のご飯と納豆は良く合う。納豆にマヨネーズをかけるとまろやかになり美味しい。質素な食事ではあるけれどなんだか幸せな気持ちになった。

  ご飯を三杯食べたわたしはお腹が一杯になり満足した。緑茶をごくりと飲んでごちそうさまでした。

  明日の英美利ちゃん宅の仕事に備えて今日は早く寝ようかな。

  布団に入り見た夢は美しい英美利ちゃんと浜本さんが楽しそうに会話をしている夢だった。夢の中のわたしはそんな二人のやり取りを眺めてクスクス笑っていた。

 そう、笑っていたんだけど……

  突然、お姉ちゃんが夢の中に現れてゾクリとして嫌な気持ちになった。お姉ちゃんなんて見たくもない思い出したくもないと思ったところで目が覚めた。

  良い天気の朝だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...