バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら

なかじまあゆこ

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お姉ちゃんと英美利

懐かしい日々

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  野菜を洗いじゃがいもの皮をむきそれから野菜をトントントンと切る。人参をイチョウ切りに玉ねぎは薄切りにした。

  冷蔵庫の中にお肉はなかったので肉無しカレーだ。まぁいいか仕方がない。

  厚手の鍋にサラダ油を入れて野菜を炒めた。お姉ちゃんが部屋で何をしているのか気になる。これじゃあまるで、子猫や子犬を飼っているような気分だ。

  水を入れて野菜をグツグツ煮込む。美味しいカレーライスになるといいな。

  子供の頃、わたしとお姉ちゃんはカレーライスが好きでお母さんによく作ってもらった。

  わたしがカレーライスを二杯目おかわりするとお姉ちゃんは三杯目のおかわりした。わたしもお姉ちゃんに負けずに三杯目をおかわりした。なんだか大食い競争でもしているような感じになったけれど楽しかったし美味しかった。

  あの頃は幸せだったのにな……。幸せだったあの頃に戻りたいな。

  
  そんなことを考えながらわたしはカレーを作った。

  お玉でアクを取り野菜をグツグツ煮込んでいると、わたしの背後にぬわーっとした気配を感じた。何だろうと思い振り返ると背後にバナナを食べているお姉ちゃんが立っていた。

「お姉ちゃん、びっくりするじゃない。って、もうすぐ食事なのにバナナなんて食べているのよ?  お腹が一杯になってしまうでしょ」

「だって、バナナ美味しいんだもん。それに、バナナは別腹よ」

「……そうかな?  バナナってお腹が一杯になるけどね」

「別腹だよ。あ、カレー美味しそうだね。葉月ちゃんのカレーなんて食べるのはじめてかな?」

  お姉ちゃんはそう言ってにっこり笑った。

「昔、一度作って一緒に食べたよ。お姉ちゃん喜んでくれたじゃない。葉月ちゃんの作ったカレーライスも美味しいねって」

  そうだった。思い出した。あの時のお姉ちゃんの表情は幸せそうだった。

「ふーん、そうだったっけ」

  お姉ちゃんはバナナの皮をぽーいとごみ箱に捨てた。

  「そうだったよ。あ、もう少しでカレーライスが出来上がるから待っててね」

  わたしは、お姉ちゃんの顔とごみ箱に捨てられたバナナの皮をちらりと見て言った。

「うん、分かった。大人しく待ってるよ」

  お姉ちゃんはにっこりと笑い居間に戻った。本当に分かっているのか不安になるけれど、きっと、いつか昔の大好きだった頃のお姉ちゃんに戻ってくれると信じよう。

  わたしはカレールウを溶けやすくするためいったん火を止め、箱からカレールウを取り出し割った。そして割ったカレールウを入れて弱火でぐつぐつ煮込んだ。

「お姉ちゃ~ん、カレーライスだよ」

  わたしは、コトンとお姉ちゃんの目の前に美味しそうに出来上がった肉無しのカレーライスを置いた。

「あっ、美味しそうだね」

    お姉ちゃんの頬が緩んだのをわたしは見逃さなかった。

「さあ、食べよう。いただきます」

  わたしはにっこりと笑いスプーンでカレーライスを食べた。

  お姉ちゃんも「いただきます」と言ってスプーンでカレーライスを食べた。

   カレーライスを頬張っているお姉ちゃんの表情は懐かしいあの頃を思い出させた。


  「お姉ちゃん、カレーライス美味しいかな?」

「うん、美味しいよ。なんだか昔を思い出すね。わたしも葉月ちゃんもカレーライスが好きでお母さんに作ってよってお願いしたね。懐かしいな」

  お姉ちゃんは、目の前のカレーをスプーンですくって食べた。

  嬉しそうにカレーライスを食べるお姉ちゃんのその表情を眺めているとわたしは嬉しくなった。

  美味しい食べ物は人を幸せにする。久しぶりにお姉ちゃんと一緒にご飯を食べることができて良かった。実家に帰ってお母さんの手料理も食べたくなった。

  そうだ、今度の休みに実家に帰ろうかな。そんなことを考えていると懐かしさが込み上げてきて涙が出そうになった。

  目の前でカレーライスをパクパクと食べているお姉ちゃんは、あの頃のわたしが大好きだったお姉ちゃんだ。

   わたしの大好きだったお姉ちゃんの笑顔を壊す人はそれが誰であろうと許せないと思った。
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