バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら

英美利ちゃんは好きだけど嫌い

1 楽しいお茶会

  雪本さんは、真っ赤な薔薇柄のお皿にケーキを並べた。

  イチゴのショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、フルーツケーキ、レアチーズケーキ、アップルパイ、バナナケーキが色鮮やかに並んでいる。

「美味しそうですね」

「うふふ、そうね。美味しそうね」

  わたしと雪本さんはうふふと顔を見合わせて笑い合った。

  ケーキの甘い香りとアールグレイティーのベルガモットの爽やかな香りがふわふわと室内に漂い幸せだ。

  わたしと雪本さんがうふふと笑い続けていると、

「お待たせ～」

  と、薔薇のような鮮やかな微笑みを浮かべた英美利ちゃんがやって来た。

「英美利様、紅茶とケーキの用意ができましたよ」

「ありがとう。では、さっそく食べましょう」

  英美利ちゃんは優雅に椅子に腰を下ろした。

  「雪本さん、葉月ちゃん。好きなケーキを選んでね」

  英美利ちゃんは、薔薇柄のティーカップを口に近づけ紅茶を飲んだ。紅茶を飲むその姿は、女優中川英美利だなと思う。

  間近で中川英美利の映画を見ているような錯覚に陥ってしまう。なんて美しい姿なんだろうか。部屋は汚部屋なのに……。

「英美利様、とんでもございません。わたしからケーキを選ぶことなんて……英美利様からどうぞ、ケーキを選んでください」

  雪本さんは恐れ多いと言って手を振った。

「好きなケーキを選べばいいのにね。じゃあ先に選ぶよ～」

  英美利ちゃんは、そう言ってチョコレートケーキのお皿に手を伸ばした。

  そして、フォークで優雅に英美利ちゃんはチョコレートケーキを食べた。やはりその姿も女優中川英美利だったのだ。

  
  恐れ多いと言っていた雪本さんは、モンブランを選んだ。

「葉月ちゃんも好きなケーキを選んでね」

  英美利ちゃんは薔薇のような笑顔を浮かべながら言った。

  テーブルには色鮮やかな美味しそうなケーキが並んでいる。全部美味しそうで迷ってしまう。

  フルーツケーキもレアチーズケーキも食べたいな。けれど、やっぱりここはシンプルにイチゴのショートケーキしようかな。

「じゃあ、わたしはイチゴのショートケーキにするね。いただきます」

  これは美味しそうだ。思わず頬が緩んでしまう。

「では、改めていただきま～す」と英美利ちゃんが言った。

  その声に続き、わたしと雪本さんも元気よく、「いただきま～す」と言った。

  わたしは、たっぷりな生クリームの上にのっている大きなイチゴを先に食べるかどうしようかなと悩んだ。

  悩んだ末、フォークでイチゴを刺し口に運んだ。イチゴは甘酸っぱくて美味しい。うん、幸せだ。

   美味しいケーキを食べているとお姉ちゃんのことも忘れられる。