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わたしの中の英美利
わたしは成田葉月
しおりを挟むわたしは成田葉月どこにでもいるような二十三歳の女性だ。
二十歳になった時は大人になったのかなと思ったけれど全然そんなことはなくて未だに子供のままだ。なんて情けない自分なんだと溜め息が出るけれど、これがわたしなのだから仕方ない。
夢や希望さえも上手に見つけられなくて、これから先の人生に迷っている。
大人になった途端夢が湧いてくるわけもないし、また逆に大人になったから夢を諦めなきゃいけないなんてこともないのだ。
そんなことをなぜだかぼんやりと考えピンク色に染まった頬に両手を当てた。
生きていくのはなんだか難しい、青春だって高校生の時に終わったと思ってしまったけれどまだまだこれから色々探していきたいなと思う。
あの頃の弾けるようなパワーはないかもしれない。だけど、人生諦めない限りいつまでも青春。わたしは人よりゆっくりと人生を歩んでいるのかもしれない。
桜色のスカートと英美利ちゃんのチークでいろんな考えや感情がぽわぽわと浮かんできた。
さあ、中華丼を食べて元気もりもりになろう。幕の内弁当じゃなくても良いのさ。わたしは服を着替え、中華丼を食べた。
翌朝、目を覚ますと中華丼の容器が床にゴロンと転がっていた。わたしは知らないうちに眠っていたのだ。慌ててスマホの時計で時間を確認すると朝の六時だった。
わたしは良かったと胸を撫で下ろす。英美利ちゃん宅の仕事に間に合う。
昨日人生について真面目に考えすぎたものだから疲れたのかもしれない。わたしはむくりと立ち上がり中華丼の容器を拾いごみ箱に捨てた。それからシャワーを浴びて出かける準備をした。
お風呂から上がると髪の毛を乾かしいつものように薄化粧をした。そして、今日は英美利ちゃんのチークを頬にポンポンとつけた。
ただピンク色のチークをつけただけでいつもより可愛らしいわたしになれるのだから不思議だ。
今日も頑張って働くぞとわたしは気合いを入れ、昨日買った桜色のスカートを穿こうかなと一瞬考えたけれど、それはやめジーンズを穿いた。
朝食は時間がないので机の上にあるバナナをパクパクと食べた。忙しい朝にバナナはぴったりだ。この自然の甘さも良いなと思う今日一日が元気に過ごせそうだ。
英美利ちゃん宅の掃除は体力を使うのだからね。わたしはパクパク食べたバナナの皮をごみ箱にぽいと捨て、「いってきまーす」と元気よく玄関の扉を開けた。
英美利ちゃんの豪邸の前に立つと今でも見上げてしまう。そして、深呼吸をしてからわたしは英美利宅に入るのだった。
「おはようございます」
わたしは元気よく挨拶をして玄関の扉を開けた。
「あ、葉月ちゃんおはよう~」
英美利ちゃんの元気な声が部屋の奥から聞こえてきた。
今日はまだ仕事に出かけていないようだ。わたしは広い玄関で靴を脱ぎ揃えて置いた。
そして、部屋に入ると英美利ちゃんがいた。
「英美利ちゃんおはよう」とわたしはもう一度挨拶をした。
「葉月ちゃん今日もよろしくね」
英美利ちゃんはくるりと振り返りわたしの顔を見た。その表情は今日も薔薇のようにキラキラと輝いていた。
「あら、葉月ちゃん?」
「えっ、何?」
英美利ちゃんは首を傾げ不思議そうにわたしの顔を見ている。
「そのほっぺた」
「うん? わたしのほっぺたに何かついてるかな?」
「そのほっぺたよ~わたしとお揃いでしょ? わたし英美利と綺麗な時間を過ごしましょう」
今、天使のような声がふわりと舞い降りてきた。そんな錯覚に陥る。
「あ、えっとその……」
わたしは、はっと気づきほっぺたに手を当てた。
「わ~嬉しい。わたしとお揃いのチークをつけてくれたんだね」
英美利ちゃんはそれはもう嬉しそうに微笑んだ。その英美利ちゃんのほっぺたはピンク色に染まっていた。
今、気がついた。あのテレビコマーシャルのチークだ。
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