バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら

なかじまあゆこ

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わたしの中の英美利

この声は

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  英美利ちゃんのキラキラ輝くひまわりの花のような笑顔がみるみるうちに曇っていった。

  お姉ちゃんの馬鹿とわたしは思わず声に出してしまいそうになる。

「あら、英美利ちゃん怖い顔して、今のは褒め言葉だよ」

  お姉ちゃんはそう言ってふふんと鼻で笑った。

「あらそうなんだね。褒め言葉には聞こえなかったけどね」

  英美利ちゃんはお姉ちゃんの顔をキッと睨んだ。

  睨み合う英美利ちゃんとお姉ちゃん。その場の空気が凍りついた。せっかく和やかな雰囲気が漂っていたのにお姉ちゃんの余計な一言で台無しではないか。

  わたしは睨み合う二人を眺めることしかできない。どうしたらいいのよと泣きたくなる。

  その時、「英美利ちゃんどうしたの?  葉月ちゃんと順子ちゃんが来たのかな~」

  キラキラ天使が舞うような優しい声が聞こえてきた。

  この声は。


  
  そう、この天使が舞い降りたような透き通る声は奈美ちゃんなのだ。

  奈美ちゃんの笑顔は今日も愛らしくて可愛い。そして、奈美ちゃんの頬にもふんわりとピンク色のチークがつけられていた。

  優しいふんわりとしたイメージの奈美ちゃんにピンク色のチークはよく似合っている。愛らしさが倍増して女の子らしさが溢れていた。

   そんな奈美ちゃんが、「喧嘩はしちゃ駄目だよ。皆で楽しい時間を過ごそうよ」と言ってにっこりと笑った。

  その表情は天使のようにやわらかくて可愛らしかった。

「別に喧嘩なんてしてないわよ。ねっ、順子ちゃん」

「あらどうかしらね。そうね、喧嘩なんてしてないよ。わたしは英美利ちゃんのゴージャスな部屋を褒めただけだもんね」

  お姉ちゃんはニヤリと笑った。

「あら、褒めてくれたんだね。それはありがとう」

  英美利ちゃんはそう言って、お姉ちゃんをギロリと睨んだけれど、すぐに笑顔になった。

「さあ、今日はわたし英美利と楽しく笑って綺麗な時間を過ごすんでしょう」

  英美利ちゃんは奈美ちゃんに負けず劣らず可愛らしい輝く笑顔を浮かべた。

  この二人が並ぶと映画のワンシーンを観ているような錯覚に陥る。

  そんな二人と友達でいられることが不思議に思えてくるけれどこれは現実なのだ。

  キラキラと輝く二人に囲まれて自分がちっぽけな存在に感じてしまったりするけれど、いいじゃない。

  輝く二人と友達でいられることを誇りに思えば良いではないか。今日は、わたし達四人で楽しい時間を過ごすのだ。

  「適当に好きな席に座ってね。わたしはお茶を淹れてくるね」

  英美利ちゃんはそう言ってパタパタと台所に行った。

「ふーん、綺麗な部屋だね。お金持ちの家は違うよね」

  お姉ちゃんはそう言いながらドスンと椅子に腰を下ろした。

 そんなお姉ちゃんの言葉にわたしは思わず笑いそうになってしまった。だって、英美利ちゃんの普段の部屋は汚部屋なのだから。

「葉月ちゃん、どうしたの?  笑っているみたいだけど」

  お姉ちゃんは首を傾げてわたしの顔を見た。

「ううん、なんでもないよ」

  わたしも椅子に腰を下ろした。

  英美利ちゃんの部屋は高級感が溢れるインテリアに囲まれているけれど、本当は汚部屋なんだよ。

  そんなことは口が裂けても言えない。だって、お姉ちゃんに教えると余計なことを言うことが目に見えているのだから。

「あ、そっ。なんだか怪しいけど、まあいいか」

  お姉ちゃんは部屋の中をキョロキョロと見渡した。

「うふふ、皆で英美利ちゃんの家に集まることができて嬉しいな」

  奈美ちゃんがわたし達の顔を見て天使の笑顔を浮かべた。

「うん、そうだね」

  わたしもにっこりと微笑んだ。


  
  暫くすると英美利ちゃんがお盆に紅茶のカップとケーキを載せて戻ってきた。

「お茶を淹れてきたわよ。アップルティーだよ」

  わたし達の目の前にふんわりとリンゴの甘い香りがする紅茶のカップが置かれた。

「英美利ちゃん、ありがとう」

  わたしは英美利ちゃんにお礼を言ってティーカップを口に近づけアップルティーを飲んだ。リンゴの甘い香りが心を落ち着かせる。

「ケーキもどうぞ」

「わっ、アップルパイだ~」とわたし達三人はほぼ同時に言った。

「アップルティーにアップルパイだね。リンゴ尽くしのティータイムだね」

  奈美ちゃんがそう言って嬉しそうな笑みを浮かべた。

「本当だね。美味しそう」

  わたしも笑顔になる。

「リンゴ尽くしなんてなかなかじゃない」

  お姉ちゃんも笑顔を浮かべた。

「ふふっ、ありがとう。リンゴのお祭りね」

  英美利ちゃんはそう言いながら椅子に腰を下ろし、優雅にアップルティーを飲んだ。

  そんな英美利ちゃんをちらっと眺めわたしは「いただきます」と言ってアップルパイを食べた。

  アップルパイはサクサクの生地にやわらかいリンゴがぎっしり詰まっていて美味しかった。

「さあ、わたしのコメディドラマを観ましょうか」

  わたしはシナモンの効いた甘酸っぱいアップルパイを食べ幸せ気分に浸っていたのだけど、今日は英美利ちゃんのコメディドラマを観に来たという目的を思い出した。

「さあ、わたしのコメディドラマを思う存分楽しんでね」

  英美利ちゃんはテレビを点けた。

  わたし達はテレビ画面に目を向けた。英美利ちゃんのコメディドラマを四人で観る日がやって来たんだなと思うとわたしは嬉しくなった。

  奈美ちゃんがお姉ちゃんに英美利ちゃんの泥まみれになるコメディドラマを順子ちゃんと一緒に観たいなと公園で言ったあの日。

  気が向いたら連絡するよと言っていたお姉ちゃん。

  あの日の約束が果たされる。なんて嬉しいことなんだろう。

  わたしはチラリと隣に座るお姉ちゃんの横顔を見た。お姉ちゃんは「あはは、楽しみ~今回はどんな英美利ちゃんの馬鹿らしくて笑えるコメディな姿が観られるのかな?」

  お姉ちゃんは手を叩いて笑っている。

「ちょっと順子ちゃん。笑うのはドラマが始まってからにしてよね」

  英美利ちゃんは手を叩いて笑っているお姉ちゃんをキッと睨んだ。

  今日のわたしは二人のこんなやり取りも微笑ましく見えた。

  そして、奈美ちゃんも二人を眺め微笑みを浮かべていた。

  チャララーンと音楽が流れ中川英美利が画面に映し出された。

『わたしは泥にまみれても雨に打たれても負けないわよ!』

  いつもの英美利ちゃんの名台詞がテレビの画面から流れてきた。

「めちゃくちゃウケる~」

  お姉ちゃんはまたまた手を叩いて笑った。

「順子ちゃん」

  英美利ちゃんはお姉ちゃんをキッと睨んだけれどその目はいつもより優しく感じられた。
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