86 / 86
バナナとりんご同時に机の上から滑り落ちたら
バナナとりんごが同時に机の上から滑り落ちたら
しおりを挟む数日後。今日はよく晴れていて、空を見上げると綺麗な夏の青空が広がっていた。
わたしは緑が溢れる川沿いを歩いている。
英美利ちゃんの家でお揃いのチークを頬につけて四人で中川英美利のコメディドラマを観たあの日、わたしの心の中にある嫉妬心やどうしようもない思いが少しは解消された気がする。
お姉ちゃんも少しずつ笑顔が増えてきた。それが何よりも嬉しくてわたしも笑顔になれた。
うふふと笑顔を浮かべ歩いていると目の前にころころとボールが転がってきた。
「すみません~」
女の子の声が聞こえた。
わたしは転がってきたボールを拾った。すると、髪の毛の長い学生服を着た女の子がこちらに向かって走ってきた。
わたしは拾ったボールをその女の子に投げてあげようと思い近づいてきた女の子の顔を見た。
すると、ニコニコ微笑みを浮かべている女の子は学生時代の英美利ちゃんによく似ていた。思わず英美利ちゃんと言ってしまいそうになった。
「ボールすみません」
わたしは女の子顔をじっと眺め拾ったボールを握りしめていた。
「あ、ごめんなさい」
わたしは、女の子にボールを渡した。
「ありがとうございます」
女の子はキラキラ輝く夏のひまわりの花のような笑顔を浮かべた。
わたしからボールを受け取った女の子は綺麗な髪の毛を風になびかせ歩き去った。
女の子の綺麗な後ろ姿をわたしはぼんやりと眺めた。
高校生か……。
わたしもあの頃は、はち切れんばかりの若さが満ち溢れていた。また高校生に戻りたいとは思わないけれど、懐かしくて眩しくてわたしは目を細めた。
英美利ちゃんも落ち落ちしていられないよ。可愛くて綺麗な女の子がどんどん出てくるのだから。
わたしが中学生の頃は高校生が大人に見えた。川沿いのこの道を高校の制服で歩いている高校生とすれ違うといいなと憧れたものだ。
その高校生の中に英美利ちゃんや奈美ちゃんにそれからお姉ちゃんもいたことを思い出した。だけど実際わたしが高校生になると、なんだ子供だよねと思った。
今の二十三歳のわたしは高校生がちょっと子供みたいに見える。けれど、あの頃の気持ちもまだ忘れてはいない。
これから先の人生はまだまだ続いていく。きっと、たくさん後悔したり悩んだりしながら生きていくのかなと思う。だけど、それがきっと人生なんだよね。
わたしはわたし以外の人間にはなれない。平凡な毎日が続いていくのかもしれないけれど、そんな毎日の中から幸せを見つけていければいいなと思う。
バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたその時、また違ったわたしに会えるかな。
わたしは澄み渡る夏の青空を見上げた。夏も本番だなと感じた。
「完」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる