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あの子の影に怯えて

元同級生と朝食

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わたしは、慌ててパジャマから洋服に着替え、八時少し前に朝食を食べに階下に降りて食堂に向かう。

食堂の中に入るとすでに、桜川春花が席に着き優雅にホットケーキを食べていた。彼女は学生時代から美人で優雅で可憐な少女だった。今は、更に磨きがかかり本物の美女になっていた。

「おはよう、未央ちゃん」

わたしに気がつき、春花ちゃんは挨拶をした。

「おはよう、春花ちゃん」

久しぶりに会う元同級生におはようってなんだか少し照れくさい。

「朝食美味しいわよ」

春花ちゃんは、屈託のない笑顔で微笑んだ。


  
本日の朝食は洋食だった。食パン、はちみつがたっぷり染み込んだホットケーキ、野菜たっぷりのサラダ、スープ、スクランブルエッグ、ウインナー、果物、コーヒー、紅茶、ココア等々だった。

食パンに塗るジャムの種類も色々あり、テーブルの上にずらりと並んでいた。

サラダやスクランブルエッグは、テーブルの上に人数分用意されていた。

その他、飲み物など好きな物を自分で取れるバイキング形式になっていた。わたしはココアをマグカップに注ぎ、食パンをトースターでチンして春花ちゃんの正面の席に座った。



  わたしが、ココアを何口か飲んだところで春花ちゃんが、話しかけてきた。

「うふふっ。久しぶりだよね。懐かしいな」

「本当だね。確か、高校生の時に偶然道端で会ってドーナツ屋さんでお茶して以来じゃない?」

「だよね。あの頃が懐かしいな。わたし達大人になったよね。気づけば二十五歳だよ。あっという間に三十歳になってしまいそうだよね」

春花ちゃんは過去を懐かしむように遠い目をする。そんな春花ちゃんの睫毛は長くてくるりんとカールされている。


  
「春花ちゃんは、今どんな仕事をしているの?」

今現在の春花ちゃんがどんな人生を生きているのか気になり尋ねた。

「女優さんの卵だよ」

「え、女優さん!  凄いじゃない。やっぱり春花ちゃんは美人だもんね」

聞いて少し後悔をした。春花ちゃんは自分の長所を活かす仕事をしているのに、それなのにわたしといえば……。

「凄くなんてないよ。あのね、顔が美人でもただ綺麗なだけでは簡単に仕事は来ないのよ。だから仕事も殆どないからアルバイトもしてるんだ。努力の毎日だよ」

春花ちゃんは、そう言って複雑な表情で微笑んだ。


 「そうだったんだ。ごめんね、そうだよね。なんでも努力しないといけないんだよね」

「なんで、謝るの?  未央ちゃんってば変なの。で、未央ちゃんはどんな仕事をしているの?」

ああ、やっぱり聞き返されるよね。

「事務員の仕事だよ……」

「わ、事務員さん。いいなぁ羨ましいな。わたしもやってみたいな、でも、わたしはパソコン得意じゃないから駄目かな」

なんて瞳をキラキラさせて言う春花ちゃん。

事務員さんが羨ましいなんて言われるなんて思ってもいなかった。
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