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あの子の影に怯えて

あれは夢なんかじゃない

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朝になった。カーテンの隙間から僅かな朝の光りが入ってきた。枕元にある時計で時刻を確認すると、朝の七時三十分だった。

朝食の時間は八時からと昨夜に聞いている。起きないと。だけど、体がコチコチに固まっていて中々いうことをきいてくれない。

わたしはのそのそと体を起こした。

そして、改めて昨夜の恐怖を思い出した。

恐ろしかった。恐かった。

それにしてもいつの間に寝てしまったのだろうか。

あれは夢なんかじゃない。


  それにしても、あんな恐い思いをしてよく眠れたものだ。『未央ちゃん……』あの声。思い出すだけで、ぞくぞくしたものが込み上げてくる。

ダメだ。枕に顔をうずめて足をバタバタさせる。

『未央ちゃん……』

ねっとりと、わたしの耳にこびりついたあの声。暗闇の中で延々に続いた『未央ちゃん』と囁く声。声、声、声。

思い出すと、背筋が寒くなりゾクゾクとして身震いする。

そして、『忘れていないよね』

忘れていないよね……。

忘れてなんていない。

忘れられるわけがない。

体の奥からじわりじわりと込み上げてくる恐怖の欠片。『忘れていないよね?』、『未央ちゃん……』頭の中から離れない。

耳にこぶりつき、わたしを恐怖に陥れたあの声は……。

そうだ、間違いない。間違いないーーーーー。

あの子の声だ。

だけど、あの子は。

里美さとみは。

どうしたんだっけ。

嫌だ。思い出したくない。忘れていないのに、忘れている何かがある。

わたしは頭を振り、今は考えない。朝食を食べに行こう。あの子の恐怖から逃れたい。
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