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バスは来ない

約束したよね……助けて

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『未央ちゃん……』

嫌だ、里美の声だ。

『わかるでしょう、未央ちゃん……』

まただ。もう聞きたくないよ。

『ねえ、未央ちゃん、わたしは貴方が好きだった。わかるよね、未央ちゃん』

やめて、もうやめて!  わたしは布団を頭の上まですっぽりとかぶった。だけど、声は止まらずに、

『未央ちゃん、ねえ、そうでしょう。未央ちゃん……』

やめて!

『未央ちゃん、約束したよね』

里美、言った。

  
やめて、やめて、やめてよ。里美。

『未央ちゃん……』

やめてと布団を被って耳を塞いでも聞こえる里美の声。

『未央ちゃん……。ねえ、わたしよ。わたし』

『未央ちゃん、未央ちゃん、未央ちゃん……』

もう嫌だ。そんな未央ちゃんって繰り返さないでよ。布団を被り耳を塞ぎ続けるわたし。願いが叶ったのか、声が止んだ。

ああ良かった。肩の力が抜けた。そして、恐る恐る布団の隙間から顔を半分出す。薄暗い部屋の中を見渡す。良かった何も居ないようだ。

ああ、恐ろしかった。でもこんなことがいつまで続くのだろうか?

と、考えたところで、ギーギーギーギーッと音がした。え、何?

  
ギーギーギーギーッ。ギーギーッ。

え、何?  何なの?  これは扉の音?

ギーギーギーギーッ……。

嘘、嘘、嘘、嘘、嘘でしょう。まさか、そんな馬鹿な。だって確か、部屋の鍵は閉めたはずだ。絶対に閉めたよ。

ギーギーギーギーギーギーッ!!

だがこれは部屋の扉の音のようだ。

ミシミシミシミシギーギーッギーギーギーギー。

音が鳴り止まない。あまりにも恐ろしいけれど、確かめたくないけれど、わたしは布団の隙間から扉の方へと視線を向けた。

すると!

  
閉めたはずの扉が……。

鍵を閉めたはずの扉が、そんな、そんな……。

僅か開いている!!!

どうして、何故?  どうしてなの?

恐ろしすぎて歯がガクガク鳴り声も出ない。声に出すことも出来ない恐怖があるなんて。

ギーギーギーギーッ!

ギーギーギーギーッ!

誰かがいるの? 里美なの?

ギーギーギーギーッ!!

嫌だ嫌だ。誰か助けてーーーーー!!


  
助けてー助けてー!!

本当に誰か助けてーー!!

ギーギーギーギーギーギーッとまだ音が鳴る。そして、扉が少しずつ少しずつ開く。一センチずつ、ううん、違う。一ミリ単位かもしれない。ほんの少しずつ少しずつ開いていく、ギーギーギーギーギーギーッ!

あまりに恐怖で、わたしは寝ていることなんてできない。体を起こして、布団を頭まで被り顔だけ出す。

ギーギーギーギーッ。でも、どうして、どうして、何故? 足が震える。心臓の鼓動も、ドキドキドキドキドキドキと激しく鳴る。
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