笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

プロローグ

  わたしは公園のベンチに座り泣いていた。

  そんなわたしに見知らぬおばさんが手を差し伸べてくれた。

「お嬢さんお腹が空いているのかな？」

  優しいその声にわたしは顔を上げた。すると、柔らかな笑みを浮かべたおばさんがわたしの顔を覗き込んでいた。

「あ、うん。お母さんが帰ってこなくてお腹が空いちゃったよ」

  わたしが手の甲で涙を拭いながら答えるとそのおばさんは、

「あらあら、それは困ったわね。じゃあ、おばさんの食堂にいらっしゃい」

「え？  いいの？」

「うふふ、もちろんよ。ご馳走しちゃうわよ」

    おばさんはニコニコと笑いながら手を差し出した。わたしは差し出されたその手をぎゅっと掴んだ。手の温もりがじわりと伝わってきてこのおばさんはいい人だなと感じた。

  食堂に着くと、そのおばさんが「沖縄ちゃんぽんよ。食べてね」と言って食べさせてくれた。

「おばさん、この沖縄ちゃんぽん美味しいね。だけど、ちゃんぽんなのに麺じゃないんだね」

「うふふ、沖縄のちゃんぽんは麺じゃなくてご飯なのよ。野菜やお肉などを炒め合わせて卵でとじたものをご飯に載せた料理なのよ」

  そう言ってニコニコと笑うおばさんの顔は優しくてなんだか癒された。

  こんな人がお母さんだったら良かったのになと思った。
そのおばさんはテーブルに頬杖をつきながらわたしの沖縄ちゃんぽんを食べる姿を見守ってくれた。

  わたしはその優しいおばさんの視線にホッとして笑顔で沖縄ちゃんぽんを食べることができた。

「お嬢さんは幸せそうな顔でご飯を食べるのね。おばさん嬉しいわ」

  わたしはスプーンをお皿の上に置き振り返った。すると、おばさんは目を細めて幸せそうに笑っていた。

「うん、だって、おばさんの作ってくれた沖縄ちゃんぽん美味しいんだもん。あ、わたしの名前は愛可ね。野菜がシャキシャキしていて美味しいよ」

 わたしはスプーンで野菜の具とご飯をすくって食べた。

「うん、やっぱり美味しいよ」

「愛可ちゃんありがとう。最後に愛可ちゃんに食べてもらえて嬉しいわ」

  おばさんはそう言って泣き笑いみたいな表情を顔に浮かべた。

「え？  最後にって……おばさんそれはどういうこと？」

  わたしはおばさんの言葉が気になり食べていた手が止まった。

「うん、おばさんね、この食堂を今日閉めるのよ」

「え～どうして～おばさんの料理はこんなに美味しいのに……」

  わたしは笑顔を作り沖縄ちゃんぽんを口に運んだ。玉ねぎの味なのか甘くて美味しくて優しい味がした。


おばさんのお母さんが田舎で食堂をやっているのよ。そのお店を継いでほしいっておばさん頼まれて跡を継ぐことにしたのよ」

「そっか、残念……。あ、でもおばさんのお母さんは喜んでいるのかな？」

「喜んでいる？  それはどうしてかな？」

「うん、だって、その食堂におばさんの美味しい料理が並ぶんだよ。きっと人気の食堂になるはずだもん。だからおばさんのお母さんは嬉しくて笑顔になっているんじゃない？」

  わたしはおばさんの顔をもっとしわくちゃにしたおばあさんを想像してみた。するとなぜだか頭の中にブルドッグが浮かんだ。

  愛嬌があるくしゃくしゃの顔に垂れ下がった頬それからくるりんと大きな目におでこに皺があるおばあさんが笑っている。あれちょっと可愛いかもってこれはフレンチブルドッグだよね。

  なんて想像をしてしまいわたしはクスクスと笑ってしまった。

「愛可ちゃんどうしたの？」

  おばさんが不思議そうにわたしの顔を覗き込んだ。

「ううん、ちょっとフレンチブルドッグを想像しちゃっただけだよ」

「フレンチブルドッグ？」

  おばさんは大きな目をぱちくりとさせている。

「あ、ううん気にしないでね」

  わたしはにっこりと笑いながら沖縄ちゃんぽんをもう一口食べた。

  口の中にほんのり甘くて優しい味が広がった。うん、やっぱり美味しいな。