2 / 111
第一話 沖縄ちゃんぽん
しおりを挟む美味しい料理が食べられる食堂やゆったりと寛げて香りの良い紅茶が飲めるカフェなどを見つけるとわたしは幸せな気持ちになれる。
今日も気がつくとわたしは美味しい匂いに誘われて食堂のこの席に座っている。目の前には平たいお皿に盛り付けられた大好きな沖縄ちゃんぽんが置かれている。
わたしはこの麺ではない沖縄独特の野菜やお肉などを炒め玉子でとじたご飯ものであるちゃんぽんが大好きなのだ。
「いただきま~す!」
スプーンで食べる。このスプーンで食べるのが沖縄ちゃんぽんならではなのだ。
うん、美味しい。ご飯に染み込んだ野菜の出汁がたまらない。
沖縄ちゃんぽんを食べていると幼いあの日を思い出す。お母さんが帰って来なくて公園のベンチで泣いていたわたしに優しい手を差し伸べてくれたあのおばさんのことを。
おばさん元気かな? わたしは元気だよ。
そんなことを考えながら沖縄ちゃんぽんを食べていると、
「君をスカウトします」と言う声が聞こえてきた。
「だから、君をスカウトしますって言ってるんだよ」
その声に顔を上げると、鼻筋が通り肌が綺麗な男性がわたしの顔を覗き込んでいた。
だけどこの人、眉目秀麗なんだけどなんだかわたしの顔を睨んでいて怖いよ。
「はい? スカウトですか?」
「そうだよ。君をスカウトします。何度言わせるんだ」
眉目秀麗な男性はわたしの顔をギロリと睨みつけながらとんでもないことを言うではないか。
「スカウトって……まさかアイドルとかにですか?
わたし二十歳過ぎてますけど」
だけど、わたしは果たしてアイドル顔なのかなと首を傾げていると、
「君は鏡を持っていないのかい?」
なんて真面目な顔で聞いてくるのではないか。なんだか失礼な人なのだ。
「はい? 鏡ですか……」
「そうだ鏡だ。まあ、美味しそうにご飯を食べているから声をかけたんだがね」
そう言って眉目秀麗な男性はわたしの顔をじっと見てくる。まさか新手の勧誘とかではないよねと心配になってくる。
「用件は何ですか?」
「君の美味しそうにご飯を食べるその姿に感動しました。その笑顔を仕事にしませんか?」
「ご遠慮します」
「なんだ即答だね。俺がせっかく君をスカウトしたというのにさ……」
眉目秀麗な男性は如何にも残念だという顔で溜め息つく。
「すみませんがわたしはこの沖縄ちゃんぽんを食べているので邪魔しないでください」
そうだこんな変な人を相手にしている場合ではない。大好きな沖縄ちゃんぽんが冷めてしまう。わたしは男性を無視して沖縄ちゃんぽんを食べた。うん、やっぱり美味しい。わたしは食べている時がやっぱり一番幸せかな。
「やっぱりその幸せそうにご飯を食べている姿は素晴らしい」
なんて言いながら眉目秀麗な男性はわたしの目の前の席に座る。この人は変だ。誰か助けて。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる