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斎川さんの食堂

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「うふふ。そんな感じがしますよ。見るからにふんわりした優しそうなお嬢さんですものね。早速沖縄そばを食べてもらおうかしら」

  斎川さんは割烹着の袖をまくりなんだかやる気満々なのだ。

「斎川さんの美味しい沖縄そばを愛可さんに食べさせてあげてくださいね」

「はい。では腕によりをかけて沖縄そばを作りますよ」

  沖縄そばを食べられることは嬉しいけれどわたしの知らないうちに話がどんどん進んでいるようでなんだか不安になってくる。

「ではお好きな席に座ってくださいね。美川さんの沖縄そばも作りますからね」

「それは嬉しい。ありがとうございます。さあ、愛可さん席に座りましょう」

「……あ、はい」

  美川さんはさっさと歩き気がつくと席に座っていた。わたしも追いかけて席に着いた。果たしてどうなることやら。

「ちょっと美川さん!  ご飯を笑顔で食べる女性こと幸川愛可さんて何ですか?」

「言葉通りですよ」

  美川さんはふふんと鼻を鳴らした。

「言葉通りって……もっと他に言い方ってものがありませんか?」

  わたしは美川さんを睨んだけれど素知らぬ顔で鼻歌を歌う美川さん。この人には何を言っても無駄だと諦めわたしは溜め息をついた。

  美川さんに呆れつつわたしは店内を見渡した。店内は外の景色が見えるカウンター席が五席、二人掛けのテーブル席が五席、四人掛けのテーブルが四席に家族など大人数で座れるお座席が三席にそれから壁際にもカウンター席が四席ある。

  わたしと三川さんは二人掛けの席に向かい合って座っている。

「愛可さん沖縄そばが楽しみですよね」

「はい、楽しみです」

  楽しみですけどね。わたしの質問に答えてくださいよと心の中で抗議をする。美川さんはふんふんふんと今も眉間に皺を寄せ鼻歌を歌っているのだった。

  あ、そうですか楽しそうでいいですよね。顔は引きっていますけどねと美川さんを睨んでいると、

「お待たせしました~沖縄そばです」

  斎川さんが湯気の立つ沖縄そばをお盆に載せて運んできた。

  わあもう見るからに美味しそうなのだ。

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