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きらりちゃんを追いかけて

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  そんなことを考えていると、きらりちゃんが厨房の隣の扉から出てきた。

「おっ、きらりちゃんの登場ですよ」

  美川さんが小声で言った。

「あ、はい」

  わたしは返事をしながらきらりちゃんをちらりと見た。あんまりじろじろ見ると怒られるので控え目に。

  出かけるのかきらりちゃんの肩にはピンク色の手提げカバンがかけられている。

  そして、きらりちゃんは食堂のドアを開けて外に出た。

「俺達も帰りましょうか」

  美川さんはそう言ったのとほぼ同時に立ち上がっていた。

「え?  はい」

  わたしも答えながら立ち上がる。

「斎川さん、ごちそうさまでした~美味しかったです」

  わたしも慌てて「ごちそうさまでした~美味しかったです」と挨拶をした。

「は~い。ありがとうございました」

  美川さんは厨房で料理を作っている斎川さんに一声かけただけで出口に向かう。

「あの、お会計はしないんですか?」

  わたしは美川さんの後を追いかけながら聞いた。

「はい。笑顔でご飯を食べるお仕事なので料理は無料ですよ」

そう答えながら美川さんは食堂のドアを開けた。そして、外に出ると綺麗な沖縄の夏空が広がっていた。

夏空の下によく似合うブーゲンビリアがキラキラと咲き誇る道を少し歩くときらりちゃんの後ろ姿が目に入った。

  美川さんが、「行きましょう」と言ってきらりちゃんの後を追いかけようとするではないか。

「美川さん、ちょっと待ってくださいよ」

  わたしは慌てて美川さんの後を追いかけそして、美川さんのTシャツの裾を引っ張った。

「あ、ちょっと愛可さんってば何をするんですか?  俺のお気に入りのTシャツが伸びてしまうじゃないですか」

  美川さんはこちらに振り向きギロリとわたしを睨んだ。

「だって、人の後をつけるなんて!」

  わたしはギロリと睨んでくる美川さんを睨み返した。

「おいおい、そんな怖い目で睨まないでくださいよ」

「……それは美川さんにだけには言われたくありません」

「俺だけには言われたくない。それは何故?」

  美川さんは不思議そうに首を傾げる。

「言葉通りですよ。それよりどうしてきらりちゃんの後をつけているんですか?」

「それはあとで説明するので今はきらりちゃんを追いかけますよ。見失ってしまいますから」

  美川さんは前に向き直りさっさと歩き出した。

わたしは仕方がないのでそんな美川さんの後を追いかけた。
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