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良い未来に繋がりますように

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「うん、美味しいな。ちんすこうは素朴な味が美味しいですよね」

  美川さんはペーパーナプキンで口元についたちんすこうのくずを拭いた。

「そうですね。同感ですよ」

  わたしはパイナップル味のちんすこうを手に取りながら答えた。

「愛可さんこれから笑顔でお仕事を頑張ってくださいね」

  ちんすこうを食べて柔らかくなった表情から真剣な表情に変わった。眉間にも皺が寄っている。

「……お仕事は頑張りますけど、きらりちゃんを笑顔にさせるんですよね……」

  ちょっときらりちゃんを笑顔にさせる仕事は荷が重いのだ。

「はい、きらりちゃんを笑顔にさせてくださいね。愛可さんあなたならきっと出来ますよ」

  美川さんは真顔でガッツポーズを作りわたしを応援した。

「……はい」

  返事はしたけれどあなたなら出来ますよと言われても困ってしまう。だけど、きらりちゃんも何か悩みを抱えているのであればわたしがほぐしてあげられたら嬉しいなとも思う。

  わたしも幼い頃に手を差し伸べられたことがあるのだから。

この後もわたしと美川さんはちんすこうを食べ続けた。パイナップル味も黒糖味も美味しくて満足した。

  たくさんあったちんすこうを食べ終え「ごちそうさまでした」とわたしと美川さんは手を合わせる。

  美味しい食べ物を食べることができて幸せな気持ちになれた。だけど、これからのことを考えると不安になる。

「さてと、愛可さんは笑顔でご飯を食べましたね。ここからが重要なお仕事ですよ」

  美川さんはそう言ってしたり顔になる。

「が、頑張ります……」

  一度引き受けた仕事なので簡単に断ることもできない。それにただご飯を笑顔で食べるだけだとは思っていなかったのだから。

「良かった。あの食堂で愛可さんを見つけることができた俺は幸運な男だ」

「そうですか……幸運な男だなんてなんだか大袈裟な……」

「いいえ、あの食堂で沖縄ちゃんぽんを食べている愛可さんを見かけた俺はこの子だと思いましたからね。だから、君をスカウトしますって言ったんですよ」

「なんだかめちゃくちゃ怪しかったですけどね。俺がせっかく君をスカウトしたというのにさとか言って俺様みたいでしたもんね」

  わたしは、美川さんの怪しげな姿を思い出してクスクスと笑ってしまった。

  人生は何が起こるか分からない。この出会いがどうか良い未来に繋がりますように。
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