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さあ、食べよう

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「うふふ、ゆっくり召し上がってくださいね」

「はい、いただきます」

  わたしは豆腐チャンプルーを目の前にしてにっこりと微笑みを浮かべた。

  さあ、食べるぞ。食べる前からワクワクしていてどんな味何だろうと想像するこの瞬間もわたしは幸せなのだった。

  きっと、この豆腐チャンプルーは美味しいだろうな。うふふ、美味しいに決まっている。

「幸川さんの笑顔はやっぱり素敵ですね」

「えっ!」

  わたしは、斎川さんが傍にいることも忘れて自分の世界に入っていたではないか。ちょっと恥ずかしい。

「美川さんの仰る通り笑顔の似合うお嬢さんですね」

「美川さんがそんなことを言っていたんですか?」

「はい、仰っていましたよ。愛可さんのご飯を食べる時の笑顔は本物だってね」

  斎川さんはそう言ってうふふと笑った。その斎川さんの笑顔こそ素敵なんだけどなとわたしは思った。

「本物の笑顔ですか」

「はい、本物の笑顔と仰っていました。だからきらりのことも笑顔にできると、あ、すみません……きらりのことは気にしないでくださいね」

「……はい」

  斎川さんは一瞬気まずそうな顔を見せそれから、「豆腐チャンプルー冷めないうちに食べてくださいね。では、ごゆっくり」と言って笑顔になりパタパタと厨房に戻った。

  気にしないでと言われてもちょっとプレッシャーになるなと思いながら紫色の割烹着を着た斎川さんの背中を見送った。

  だけど、今は豆腐チャンプルーを食べることに集中しよう。だって、目の前にある豆腐チャンプルーはとても美味しそうなのだから。

  わたしは、豆腐チャンプルーに箸を伸ばした。大きく切られた島豆腐水分が少ないので炒めても崩れにくくてしっかりとした食べごたえがある。

「うん、美味しい~」

  わたしは思わず声に出してしまった。

  もやしはシャキシャキしているしニラの香りも良い。なんだか田舎のおばあちゃんの豆腐チャンプルーと似ているな。

  豆腐チャンプルーは美味しくてご飯とも良く合い箸がどんどん進む。

  わたしは、豆腐チャンプルーとご飯をパクパクと食べた。
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