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紅芋アイス
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紅イモアイスを両手に持ち戻るときらりちゃんは大人しくイスに座っていたのでホッとした。
「紅イモアイスを買ってきたよ」
「あ、うん。愛可ありがとう」
わたしが渡した紅イモアイスをきらりちゃんはじっと眺めている。
「さあ、食べようか」
わたしは笑顔を作りながら言った。
「……うん」
きらりちゃんのその浮かない表情はアイスを食べる時の顔じゃないよ。
わたしは、きらりちゃんのことが気にしながら、紅イモアイスを口に運んだ。うん、素朴な優しい味がして美味しい。
やっぱり暑い日はアイスだよねと笑顔になる。
一方きらりちゃんは浮かない表情で紅イモアイスを口に運んだ。
「……愛可、紅イモアイス美味しいね」
「えっ! あ、うん。美味しいね」
ちょっと美味しいねと言われてびっくりしてしまった。だってきらりちゃんの表情は冴えないのだから。
「あのね……この紅イモアイスに思い出があるんだ」
きらりちゃんは紅イモアイスをペロペロ舐めながら言った。
「思い出があるの?」
「うん、お母さんと一度だけこの動物園に来たことがあるんだ。その時にわたしこの紅イモアイスを食べたんだよ」
遠くを見つめるような目つきになっている。きらりちゃんはきっと、幼い日のことを思い出しているのだろう。
「そっか、お母さんと一緒に食べたんだね」
「うん、その時のわたしはまだ子供で幼稚園ぐらいだったんだけどね。それはもう嬉しくて紅イモアイスをペロペロ食べたんだよ。外で食べると本当に美味しかったな」
きらりちゃんは唇をぎゅっと噛みながら言った。
「でもね、お母さんと動物園に行ったのはその時一度きりだったんだよ」
そう言ったきらりちゃんは口を尖らせた。
わたしはなんて声をかけたらいいのか困ってしまった。きらりちゃんはペロペロと紅イモアイスを食べている。
「えっと、お母さんもきっと忙しかったんだよ。うん、そうだよ」
と声をかけてみたけれど……。きっと納得しないだろうなと思った。
「そんなこと分かっているよ。お母さんは食堂の仕事で忙しいってことなんてね。でもわたしと約束したのに……」
きらりちゃんはぷくっと膨れ紅イモアイスにかぶりついた。
そして、「来月も動物園に行こうと約束したのに、それなのにお母さんはころっと忘れたんだよ。わたしはお母さんがいつ動物園に行こうと言ってくれるか待っていたんだけど……待っても待っても動物園の話は出てこなかった」
と言ってきらりちゃんはがぶりがぶりとアイスを食べきった。
「きらりちゃん、見てみて新作料理よ。なんて話ばかりだったんだから嫌になる」
わたしは、きらりちゃんの話に相槌を打ちながら聞いた。きらりちゃんの寂しかった気持ちがよく分かる。
だけど、わたしと比べるときらりちゃんはそれでも充分幸せなのではと思った。
だって、きらりちゃんはお母さんに料理の話をしてもらえたのだから。そんなきらりちゃんのことが少しだけ羨ましかったのだ。
わたしのお母さんは何も話してくれなくて寂しかったな。
「わたし、愛可に話を聞いてもらってちょっとスッキリしたよ」
そう言ったきらりちゃんの表情は晴れやかになり白い歯をのぞかせた。
「うん。それは良かった」
わたしもにっこりと微笑み返した。うふふ、またまたきらりちゃんの笑顔をゲットしたよ。
「愛可、ありがとう。紅イモアイス美味しかったよ」
「あ、どういたしまして」
素直なきらりちゃんにわたしは戸惑ってしまった。だって、きらりちゃんといえば生意気っていう感じなのだから。
「ねえ、愛可」
「なあにきらりちゃん?」
「紅イモアイス食べないの?」
「え? あっ!」
わたしは自分の手に目を落とした。すると、わたしの手は溶けかけた紅イモアイスを握っていたのだった。
「あはは、紅イモアイス食べるの忘れていたんだ。愛可はやっぱり面白いよ」
「ふん、きらりちゃんのせいなんだからね」
わたしは溶けかけた紅イモアイスにかぶりついた。
うん、やっぱり沖縄のアイスは紅イモだね、美味しい。わたしはにっこりと笑顔を浮かべながら紅イモアイスを食べきった。
「あのね、愛可……」
「きらりちゃんどうしたの?」
わたしは、紙ナプキンで口の周りを拭きながら聞いた。
「紅イモアイスを買ってきたよ」
「あ、うん。愛可ありがとう」
わたしが渡した紅イモアイスをきらりちゃんはじっと眺めている。
「さあ、食べようか」
わたしは笑顔を作りながら言った。
「……うん」
きらりちゃんのその浮かない表情はアイスを食べる時の顔じゃないよ。
わたしは、きらりちゃんのことが気にしながら、紅イモアイスを口に運んだ。うん、素朴な優しい味がして美味しい。
やっぱり暑い日はアイスだよねと笑顔になる。
一方きらりちゃんは浮かない表情で紅イモアイスを口に運んだ。
「……愛可、紅イモアイス美味しいね」
「えっ! あ、うん。美味しいね」
ちょっと美味しいねと言われてびっくりしてしまった。だってきらりちゃんの表情は冴えないのだから。
「あのね……この紅イモアイスに思い出があるんだ」
きらりちゃんは紅イモアイスをペロペロ舐めながら言った。
「思い出があるの?」
「うん、お母さんと一度だけこの動物園に来たことがあるんだ。その時にわたしこの紅イモアイスを食べたんだよ」
遠くを見つめるような目つきになっている。きらりちゃんはきっと、幼い日のことを思い出しているのだろう。
「そっか、お母さんと一緒に食べたんだね」
「うん、その時のわたしはまだ子供で幼稚園ぐらいだったんだけどね。それはもう嬉しくて紅イモアイスをペロペロ食べたんだよ。外で食べると本当に美味しかったな」
きらりちゃんは唇をぎゅっと噛みながら言った。
「でもね、お母さんと動物園に行ったのはその時一度きりだったんだよ」
そう言ったきらりちゃんは口を尖らせた。
わたしはなんて声をかけたらいいのか困ってしまった。きらりちゃんはペロペロと紅イモアイスを食べている。
「えっと、お母さんもきっと忙しかったんだよ。うん、そうだよ」
と声をかけてみたけれど……。きっと納得しないだろうなと思った。
「そんなこと分かっているよ。お母さんは食堂の仕事で忙しいってことなんてね。でもわたしと約束したのに……」
きらりちゃんはぷくっと膨れ紅イモアイスにかぶりついた。
そして、「来月も動物園に行こうと約束したのに、それなのにお母さんはころっと忘れたんだよ。わたしはお母さんがいつ動物園に行こうと言ってくれるか待っていたんだけど……待っても待っても動物園の話は出てこなかった」
と言ってきらりちゃんはがぶりがぶりとアイスを食べきった。
「きらりちゃん、見てみて新作料理よ。なんて話ばかりだったんだから嫌になる」
わたしは、きらりちゃんの話に相槌を打ちながら聞いた。きらりちゃんの寂しかった気持ちがよく分かる。
だけど、わたしと比べるときらりちゃんはそれでも充分幸せなのではと思った。
だって、きらりちゃんはお母さんに料理の話をしてもらえたのだから。そんなきらりちゃんのことが少しだけ羨ましかったのだ。
わたしのお母さんは何も話してくれなくて寂しかったな。
「わたし、愛可に話を聞いてもらってちょっとスッキリしたよ」
そう言ったきらりちゃんの表情は晴れやかになり白い歯をのぞかせた。
「うん。それは良かった」
わたしもにっこりと微笑み返した。うふふ、またまたきらりちゃんの笑顔をゲットしたよ。
「愛可、ありがとう。紅イモアイス美味しかったよ」
「あ、どういたしまして」
素直なきらりちゃんにわたしは戸惑ってしまった。だって、きらりちゃんといえば生意気っていう感じなのだから。
「ねえ、愛可」
「なあにきらりちゃん?」
「紅イモアイス食べないの?」
「え? あっ!」
わたしは自分の手に目を落とした。すると、わたしの手は溶けかけた紅イモアイスを握っていたのだった。
「あはは、紅イモアイス食べるの忘れていたんだ。愛可はやっぱり面白いよ」
「ふん、きらりちゃんのせいなんだからね」
わたしは溶けかけた紅イモアイスにかぶりついた。
うん、やっぱり沖縄のアイスは紅イモだね、美味しい。わたしはにっこりと笑顔を浮かべながら紅イモアイスを食べきった。
「あのね、愛可……」
「きらりちゃんどうしたの?」
わたしは、紙ナプキンで口の周りを拭きながら聞いた。
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