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美川さんのお弁当
しおりを挟むそれからしばらくの間わたし達三人は黙ってポークたまごおにぎりを食べた。
ゴーヤ入りのポークたまごおにぎりはゴーヤが天ぷらになっているので独特の苦みはさほどしなくて美味しかった。
美川さんもきらりちゃんも口を大きく開けポークたまごおにぎりを食べている。
わたしの幸せな時間はこうして海を眺めながらご飯を食べている時間とそれから美川さんときらりちゃんと一緒にいる時間も加わったかな。
なんて考えながらポークたまごおにぎりを食べていると。
「だけど……」と美川さんがぽつりと呟いた。
わたしは言葉の続きを待った。じっと言葉の続きを待ったけれど美川さんは何も言わずにポークたまおにぎりと一緒に買ったさんぴん茶をごくりと飲んだ。
「ねえ、だけど、どうしたの?」
それまで黙っていたきらりちゃんが口を開いた。
「あ、いや独り言だったんだけどね」
「そうなんだ。だけど、声に出してしまったんだから続きを言わなきゃダメだよ~」
「えっ! そんな決まりはないだろう」
「決まりはなくても気になりますよ」
わたしも気になるのできらりちゃんの意見に賛成だ。
「なんだよ二人して」
美川さんは参ったなって顔になった。そして、「そんなに気になるなら言うけどさ」と言った。
そして。
「ポークたまごおにぎりは思い出の味だったなと思い出したんだよ」
そう言った美川さんは過去に思いを馳せているのか遠い目をした。
「思い出の味?」
「思い出の味とは何だろう?」
わたしときらりちゃんはほぼ同時に言った。
「うん、それは俺が自分の為に作った学校ヘ持っていくお弁当がポークたまごだったんですよ。自分で言うのもあれだけど美味しかったな」
美川さんはふふっと悲しげに笑った。
そして、
「俺の家は母がいなくて父子家庭だったんですよ。だから、中学のお弁当は自分で作っていたんだけど適当に好きな食材をご飯と海苔に挟んで作ったのがポークたまごおにぎりだったなと思い出したんですよ。だけど、母がいたらどんなお弁当を食べることができたのかなとふと思ったんですよ」
美川さんは二個目のポークたまごおにぎりにかぶりついた。
きっと、美川さんは母の味を知らなくて寂しかったのだろう。わたしは、お母さんはいたけれど、ご飯を作ってもらった記憶が殆んどなかった。
わたしと美川さんはどこか似たところがあるのだろう。だから一緒に仕事をしているのかもしれない。
美川さんのポークたまごおにぎりを食べるその姿は嬉しそうでありながらどこか寂しげにも見えた。
わたしも美川さんもそれからきらりちゃんもご飯を食べる時に寂しいなと感じる気持ちがあったのだろう。
だからこそわたし達は出会ったのかもしれないな。そんなことを考えながらわたしも二個目のポークたまごおにぎりにかぶりついた。
青い海にさらさらと真っ白な砂浜が眩しく見えた。
「ねえ、美川さんにきらりちゃん。これからも一緒にご飯を食べましょうね」
コンビニエンスストアで買ったポークたまごおにぎりを一人暮らしの部屋で一人で食べている時より美味しく感じられた。
「はい、是非ご一緒ご飯を食べましょうね」
美川さんも微かに笑顔を浮かべいるように見えた。
「うん、わたしも賛成!」
きらりちゃんはにっこりと微笑みを浮かべた。
今日は三人で海にやって来て良かったな。青い海を眺めながらわたしは幸せな気持ちになった。
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