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お母さんとジーマーミ豆腐
しおりを挟むジーマーミ豆腐は豆腐とついているけれど、落花生(ピーナッツ)の絞り汁と芋くずで練り上げて作られている沖縄県の郷土料理なのだ。
それに甘みそタレをかけて食べる。
ジーマーミ豆腐を食べるともちもちした食感とピーナッツの香りが口の中に広がりそれはもう美味しいのだった。タレも甘みがジーマーミ豆腐とよく合う。
わたしは頬を緩ませた。美川さんじゃないけれど、ほっぺたが一個じゃ足らないよ。
「うふふ、美味しいでしょ」
「うん、おばぁ美味しいよ」
わたしは、答えた。
「美味しい~何個でも食べられそうだね」
きらりちゃんはどうやら食べ終えたらしい。
「きらりちゃんもう一個食べるかい?」
おばぁが聞くと、
「は~い、食べる。食べま~す!」と、きらりちゃんは満面の笑みを浮かべて答えた。
「じゃあ、もう一個持ってくるね。里可も美味しいかい?」
おばぁはにっこり笑いそれからお母さんに視線を向けた。
「うん、美味しいわよ。わたし、ジーマーミ豆腐好きだったからね」
お母さんはそう言って表情を変えずにジーマーミ豆腐を食べた。
「それは良かったよ。じゃあ、みんなのジーマーミ豆腐もう一個ずつ持ってくるね」
おばぁはお盆を片手に持ちパタパタと台所へ行った。
わたしは、ジーマーミ豆腐を食べているお母さんの横顔をそっと眺めた。確か小学生の頃のわたしもこうしてこの縁側でお母さんと並んで座ってジーマーミ豆腐を食べた。
あの時のわたしもジーマーミ豆腐を食べているお母さんの横顔を眺めたような気がする。
懐かしい思いがじわじわと溢れてくる。あの頃のわたしは、お母さんが大好きで自分に目を向けてくれたらいいのになと思いずっと待っていた。
だけど、お母さんはわたしを見てくれなかった。
「ん? 愛可どうかしたの?」
お母さんはわたしの視線に気がつきこちらに振り向きわたしの顔を見た。
「あ、えっとジーマーミ豆腐美味しいかなと思って……それと昔のことを思い出したんだよ」
わたしはお母さんの顔をちらっと見て言った。
「昔のこと?」
お母さんはスプーンでジーマーミ豆腐を食べながらこちらを見た。
「うん、昔もこうしておばぁの家の縁側に座って一緒にジーマーミ豆腐を食べたでしょ」
わたしは、庭に咲き誇るハイビスカスの花を眺めながら言った。
「……そんなこともあったかしらね」
「うん、あったよ」
お母さんは覚えていないのかなと思うとちょっと寂しくなる。
「あ、スイカを食べたことだったら覚えているわよ」
お母さんは慌てて覚えてることを思い出したのだろう。なんだか気を遣われたような感じもするけれど、わたしとの思い出もちゃんとあるのだから良しとしよう。
「そうだね。スイカも食べたね。おばぁってばスイカを大きくカットしてくれたよね」
「そうそう、あの人はなんでも豪快だからね」
お母さんはそう言ってクスクス笑った。久しぶりに見たお母さんの笑顔がなんだか眩しく感じた。
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