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お母さん
しおりを挟むきらりちゃんの顔を見て笑っていたその時、ためらうような足音とそれからおばぁのパタパタと歩く足音が聞こえてきた。
わたしは、その足音に振り返った。すると、部屋の前に懐かしい人の姿があった。わたしはその人の顔をじっと眺めた。
「……愛可久しぶりね」
「……お、お母さん、久しぶり……」
そうなのだ。この懐かしい人はお母さんだった。少し歳は重ねているけれど可愛さが残るその顔は昔と差程変わっていなかった。
「元気だったかな? 大きくなったわね。と言うか大人になったね」
「……だって、わたしは二十三歳だもん」
「……そうだったわね。愛可も二十三歳なのね。月日が経つのも早いわね」
お母さんはそう言って少し遠くを見つめるような目をした。昔のわたしとお母さんを思い出しているのだろうか。
「立っているのもあれだから座りましょうね」とおばぁが言った。
わたし達は縁側に座った。夏の風がさらさらと吹いている。あの幼き日と重なりなんだか不思議な気持ちになった。
「ジーマーミ豆腐を食べるかい?」
「は~い、は~い! 食べる。食べま~す!」
きらりちゃんが元気よく手を上げた。
「じゃあ、待っててね」
おばぁは、パタパタと台所に行った。
「あら、この子は誰かしら?」
お母さんがわたしの左隣に座っているきらりちゃんを見て尋ねた。
「あ、この子は、わたしの友達のきらりちゃんだよ」
「えっ!? 友達? 小学生だよね」
お母さんは、わたしの顔を見て目を丸くした。
「うん、小学生だよ。最近友達になったんだよ」
「……そうなのね」
「はい、ご挨拶が遅くなりました。わたしは、愛可の友達の齋川きらりです。いつも愛可が仲良くしてくれています」
きらりちゃんは立ち上がり庭に下りて言った。
「あ、そうなのね。わたしは、愛可の母親です」とお母さんは言った。
素っ気ないけれど、愛可の母親ですと言ったお母さんのその言葉がなんだか嬉しかった。
「さあ、食べましょう。ジーマーミ豆腐よ」
おばぁがお盆にジーマーミ豆腐を載せて縁側に戻ってきた。
「わ~い! 美味しそう~早く食べたいな」
「うふふ、きらりちゃんどうぞ」
おばぁがうふふと笑いながらジーマーミ豆腐を盛りつけたお皿とスプーンをきらりちゃんに渡した。
「わ~い! ありがとうございます」
きらりちゃんは嬉しそうに受け取り早速食べている。
「さあ、愛可ちゃんに里可《さとか》もどうぞ」
おばぁがわたしとお母さんにもジーマーミ豆腐を盛りつけたお皿とスプーンを渡してくれた。
「おばぁ、美味しそうだね」
「……」
お母さんは無言で受け取った。
「さあ、食べましょうね。きらりちゃんはもう食べているわね」
おばぁもそう言いながら縁側に腰を下ろした。
「いただきま~す」
「いただきます」
わたしはスプーンでジーマーミ豆腐をすくい口に運んだ。
「うん、美味しい~」
ジーマーミ豆腐はもちもちしていてとても美味しかった。
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