上 下
95 / 111

出会いは不思議でそして

しおりを挟む
「今日は森浜のおばさんに愛可さんと会いませんかと伝えに来たんですよ」

「えっ?  そうだったのね」

  おばさんは目を丸くしている。

「はい、そうだったんですけど愛可さんと森浜のおばさんはもう会っているのには驚きですよ。意外と世の中は狭いですね」

  なんと美川さんはまたまた微かな笑みを浮かべた。

「そうね。わたしと愛可ちゃんが公園で出会い、そして、わたしの作った料理を美味しいと言って食べてくれた。そこから全て繋がっていたのかしらね」

  おばさんは目を細め遠いあの日の記憶を探っているのだろう。そして、現在《いま》のこの場所を見ている。

「不思議な出会いですね」

  あの日あの時おばさんと出会えた偶然という名の奇跡に感謝する。
   
  そして、お母さんがこの森浜食堂で働いていることもまた不思議な巡り合わせだ。お母さんをちらりと見ると視線が合った。

「愛可、ごめんなさいね。わたしは良い母親じゃなかったね」

  お母さんはわたしの目をじっと見ている。ずっと、ずっと、わたしのことを見てほしいと思っていたその目が今、わたしを見ている。

「……お母さん」

  わたしは、何て答えたら良いのだろうかと思い言葉が出なかった。

「お母さんは、愛可のことを考えずに自分のことばかり考えていた。そのことを後悔していたのよ」

  お母さんのその目には哀しい雨の日のような色が浮かんでいるように見えた。

  過去のことだからもういいよと思うのだけど、あの日の寂しかった思いが溢れてくる。わたしは、お母さんをずっと、ずっと待っていたんだよ。

  お母さん酷いよと言いたくなるけれど、でも、今お母さんが目の前にいることが嬉しくて涙が出そうになった。

「お母さん、もういいよ。だって、今、お母さんはわたしの目の前にいるんだもん」

  わたしは、顔を上げてお母さんを真っ直ぐ見た。

「……愛可ありがとう」

「ううん」

  わたしとお母さんは見つめ合った。お母さんの心がこんなに近くにあるなんて、嬉しくてそれはもう嬉しくて涙が溢れてきた。
しおりを挟む

処理中です...