【完結】ろくでもない初恋を捨てて ※番外編更新中

緑野 蜜柑

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新しい隣人③

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『かんぱ~い!!』

4月の恒例行事といえば歓迎会だ。数人の異動者を迎えた我が部署も例外ではなく、乾杯の掛け声とともにあたしもビールが注がれたグラスを片手で上げた。

西野さんとはあの朝に偶然会ったっきり、何も話していなかった。接点を持たないように心掛けて、今日の歓迎会も対角の席に座り、物理的に距離を取った。

…のだが。歓迎会が終わると帰る方向が当然同じで、一緒の方向に帰る同僚が一人減り、二人減り、三人減り…、気付けば西野さんと二人きりになっていた。

「た、楽しかったですね、歓迎会…!」

居心地悪く思いながら、無難な話題で話し出す。

「そうですね。新しい人が増えて、仕事ちょっとは楽になるといいですね」

少し酔っているのだろうか。無口な印象の西野さんが、いつもよりも柔らかい表情で言葉を返してくれて、少し安堵する。

だけど、電車を降りて、駅からの道を歩き、当然同じマンションに帰ってきてしまう訳で。エントランスに着いたところで、あぁ、やっぱり本当に隣に住んでいるのねと、心で泣いた。

「まさか引っ越した先の隣人が、栗原さんだとは思いませんでした」
「で、ですよね、ホントに…」

本当に。神様がいるなら、こんな偶然を仕掛けてくるなんて悪趣味すぎる。

「オラオラ系が好きなんですか?」
「え…っ、な、なんのこと…ですか…」
「演技ベタな新人女優のAV聞いてるみたいでした」
「な…っ、な…っ!」

突然の爆弾発言に、全身の血が逆流する。やっぱり、あの夜、あの声をしっかり聞かれていた。しかも、最悪なことに演技だということまでバレている。

「わ、忘れてください…っ!つ、次からはもう、出さないようにするので…っ!」
「気にしないでいいですよ、別に」
「気にするに決まってます…!」

被せるような勢いでそう言ったあたしを見て、西野さんは噴き出すように、表情を崩して笑った。

「まぁ、こういうのって、お互い様かもしれないんで」
「え…、西野さんも、彼女とか…」
「いませんね。フラれたばっかです」
「あ…、それは…、すみません…」
「ふふ、嘘です。面倒なんで、いないだけです」

う、嘘って…。西野さんってこういう冗談言う人なのか。彼女がいるのは "面倒" だと言い放ってしまえるのは、この人らしいけど。

「西野さんに彼女がいないなら、それは全然 "お互い様" にならないじゃないですか…」
「ふふ。ですね。栗原さんって素直ですね」

急にそう言う西野さんに戸惑う。なんだか今の返しは噛み合っていないような…?

「あたし、別に素直では…」
「…でしたね。あの喘ぎ声で彼氏騙してるんでしたね」

そう言いながら西野さんがもう一度可笑しそうに笑う。失礼だなと思いながら、その表情に驚く。この人でも、こんな風に笑うことがあるのか。

こういう表情をもっと職場でも見せてくれれば話しやすいのにと一瞬思ったが、そしたら女性陣からの人気がものすごくなる気もして、それはきっと彼にとって "面倒" なのだろうなと、言葉にするのはやめた。
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