26 / 64
距離③
しおりを挟む
「栗原さん、そろそろ行けますか?」
「あ、はい…!」
お昼休み明け、西野さんに声を掛けられ席を立つ。あたしと西野さんを見て芽衣ちゃんが意味深に微笑んでいたけれど、それは見なかったフリをして西野さんの後についてオフィスを出た。
「すみません、急に栗原さんに同行をお願いすることになって」
「いえ、大丈夫です。西野さんの案件、成約が決まりそうだって伺ってましたから。そろそろかなって、契約書も準備してました」
「ありがとうございます。助かります」
そう言いながら、西野さんが柔らかく笑う。いつも助けてもらってばかりだから、西野さんの力になれるのは嬉しい。
悠真のことを睨んでしまったと言っていたことも、あたしのことを思っての行動だったのだと思う。西野さんには格好悪い所ばかり見せてしまっているから。
今までもこれからも、西野さんとは本当に何もないと断言できる。あたし相手に恋愛的な何かが起きる訳ないというのもあるけど、単純に人として、尊敬できる人だと思う。
◇
「成約できて良かったですね」
お客様を訪問した帰り道、西野さんにそう話し掛ける。今日のお客様は西野さんに心を開いていて、商談は始終和やかだった。
「最初は今ご使用されているマシンの苦情を、だいぶキツく言われたんですけどね」
そう言いながら西野さんが苦笑する。
「え、今日のお客様、そんな雰囲気は全然なかったですけど…」
「ですね。頑張った甲斐がありました」
その笑顔は何だか達成感に満ちている。優しくて誠実な西野さんがお客様に認められていたことが、あたしも何だか誇らしい。
「今から戻ったら、もう定時ですね。栗原さん、直帰しますか?」
「あ、いえ。ちょっと仕事が残っているので、あたしは一度オフィスに戻ろうかと…」
横断歩道で信号を待ちながら、西野さんの問い掛けに答える。
「西野さんはもう上がりですか?」
「……」
あたしの問い掛けに西野さんからの回答はなかった。代わりに、険しい顔で交差点の向こうを見ている。
「西野さん…?」
どうしたのだろうと視線の先を見た瞬間、あたしは言葉を失った。
横断歩道の向こう側。雑居ビルの間のラブホの前でイチャつくカップル。明るい茶色の猫っ毛に、あの背格好。あたしが見間違える訳がない。それは悠真だった。
「なん…で…?」
「─…っ、赤です、栗原さん…!」
駆け出そうとしたあたしの腕を、西野さんが掴む。左右に行き交う車の向こうで、二人がラブホに入っていく。
「うそ…」
立ち尽くしたあたしは、それ以上言葉が出なかった。
「あ、はい…!」
お昼休み明け、西野さんに声を掛けられ席を立つ。あたしと西野さんを見て芽衣ちゃんが意味深に微笑んでいたけれど、それは見なかったフリをして西野さんの後についてオフィスを出た。
「すみません、急に栗原さんに同行をお願いすることになって」
「いえ、大丈夫です。西野さんの案件、成約が決まりそうだって伺ってましたから。そろそろかなって、契約書も準備してました」
「ありがとうございます。助かります」
そう言いながら、西野さんが柔らかく笑う。いつも助けてもらってばかりだから、西野さんの力になれるのは嬉しい。
悠真のことを睨んでしまったと言っていたことも、あたしのことを思っての行動だったのだと思う。西野さんには格好悪い所ばかり見せてしまっているから。
今までもこれからも、西野さんとは本当に何もないと断言できる。あたし相手に恋愛的な何かが起きる訳ないというのもあるけど、単純に人として、尊敬できる人だと思う。
◇
「成約できて良かったですね」
お客様を訪問した帰り道、西野さんにそう話し掛ける。今日のお客様は西野さんに心を開いていて、商談は始終和やかだった。
「最初は今ご使用されているマシンの苦情を、だいぶキツく言われたんですけどね」
そう言いながら西野さんが苦笑する。
「え、今日のお客様、そんな雰囲気は全然なかったですけど…」
「ですね。頑張った甲斐がありました」
その笑顔は何だか達成感に満ちている。優しくて誠実な西野さんがお客様に認められていたことが、あたしも何だか誇らしい。
「今から戻ったら、もう定時ですね。栗原さん、直帰しますか?」
「あ、いえ。ちょっと仕事が残っているので、あたしは一度オフィスに戻ろうかと…」
横断歩道で信号を待ちながら、西野さんの問い掛けに答える。
「西野さんはもう上がりですか?」
「……」
あたしの問い掛けに西野さんからの回答はなかった。代わりに、険しい顔で交差点の向こうを見ている。
「西野さん…?」
どうしたのだろうと視線の先を見た瞬間、あたしは言葉を失った。
横断歩道の向こう側。雑居ビルの間のラブホの前でイチャつくカップル。明るい茶色の猫っ毛に、あの背格好。あたしが見間違える訳がない。それは悠真だった。
「なん…で…?」
「─…っ、赤です、栗原さん…!」
駆け出そうとしたあたしの腕を、西野さんが掴む。左右に行き交う車の向こうで、二人がラブホに入っていく。
「うそ…」
立ち尽くしたあたしは、それ以上言葉が出なかった。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
冷たい彼と熱い私のルーティーン
希花 紀歩
恋愛
✨2021 集英社文庫 ナツイチ小説大賞 恋愛短編部門 最終候補選出作品✨
冷たくて苦手なあの人と、毎日手を繋ぐことに・・・!?
ツンデレなオフィスラブ💕
🌸春野 颯晴(はるの そうせい)
27歳
管理部IT課
冷たい男
❄️柊 羽雪 (ひいらぎ はゆき)
26歳
営業企画部広報課
熱い女
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
○と□~丸い課長と四角い私~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。
会社員。
職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。
水と油。
まあ、そんな感じ。
けれどそんな私たちには秘密があるのです……。
******
6話完結。
毎日21時更新。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる