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それから④
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夕方、病院帰りの西野さんと待ち合わせて向かった先は、会社から2駅離れた駅から5分ほど歩いた所にあるレストランだった。入口に架かったトリコロールの旗に、白を基調にした外観。西野さんの言う通りカジュアルな雰囲気で、デートにも友人との食事にも使えそうだ。
「こんなお店あるの、知らなかったです」
「ふふ。穴場感ありますよね」
お店の中に入り、案内された席に座りながら西野さんがそう笑う。いつも通りの西野さんだ。いや、うん…。当たり前だけど。
「何、飲みますか?」
そう言いながら、西野さんがメニューに手を伸ばす。
「アルコール大丈夫ですよね?」
「あ…、はい! そんなに強くはないですけど、なんでも…」
「じゃあ、乾杯はこのスパークリングワインにしましょうか」
そう言いなから、西野さんがウェイターを呼んでオーダーしてくれる。包帯が取れた右手には、痛々しい怪我の傷跡がまだ残っていた。
「やっぱり…、痛かったですよね、それ…」
オーダーが終わった西野さんに、改めて申し訳なく思いながら聞く。
「あ、すみません。治ってきたとはいえ、見て気分がいい物じゃないですよね」
「いえ、それは全然…! でも、痛かったろうなと、改めて思って…」
「自分も必死だったせいか、怪我した瞬間はあんまり。アドレナリン出てたのかもしれないですね」
「す、すみません、ホントに…!」
「いいんです。名誉の負傷ですから」
そう言って、西野さんが何でもないように笑う。負わなくてもよかった傷を、"名誉の負傷" だなんて、本当に申し訳ない。
「栗原さんは、もう大丈夫ですか」
「え…?」
「その…、別れた彼のことを、引きずったりしていないかなと、思いまして」
少し躊躇するように、西野さんが聞く。心に全く傷がないと言えば嘘になるけど、今は穏やかで、どこかすっきりした気分だ。
「大丈夫です。思ったよりも、ずっと」
そう答えたあたしに、西野さんが安堵したように優しく微笑む。
「それなら、良かった…」
呟くように西野さんがそう言う。西野さんとあたしの恋は似ていた。だから、同じような失恋をしたあたしを、西野さんは気に掛けてくれていたのだと思う。
「たくさん、助けていただいて、ありがとうございました」
「いえ、僕は大したことは。栗原さんにきつい事を言ったりもしましたし、反省しています」
「反省だなんて、そんな…!」
あたしのことを考えての言動だったのだとわかっている。ただの同僚で、たまたま隣人だっただけなのに、西野さんはいつもあたしのことを考えていてくれた。
「あの時も言いましたけど、栗原さんなら、次はもっといい人と、いい恋ができると思います」
「…ありがとうございます」
西野さんの言葉を、今は素直に受け入れられる。寡黙で考えが読めない人だと思っていたのに、今は素敵な人だと思う。西野さんの心も、早く美月さんの傷が癒えて、優しい未来があるといい。
淡い琥珀色のスパークリングワインが、グラスに注がれていく。
「じゃあ、今日は僕の怪我と、栗原さんの失恋の快気祝いってことで」
そう言って、西野さんがグラスを差し出して優しく笑う。その笑顔に笑い返して、あたしたちは小さく乾杯をした。
「こんなお店あるの、知らなかったです」
「ふふ。穴場感ありますよね」
お店の中に入り、案内された席に座りながら西野さんがそう笑う。いつも通りの西野さんだ。いや、うん…。当たり前だけど。
「何、飲みますか?」
そう言いながら、西野さんがメニューに手を伸ばす。
「アルコール大丈夫ですよね?」
「あ…、はい! そんなに強くはないですけど、なんでも…」
「じゃあ、乾杯はこのスパークリングワインにしましょうか」
そう言いなから、西野さんがウェイターを呼んでオーダーしてくれる。包帯が取れた右手には、痛々しい怪我の傷跡がまだ残っていた。
「やっぱり…、痛かったですよね、それ…」
オーダーが終わった西野さんに、改めて申し訳なく思いながら聞く。
「あ、すみません。治ってきたとはいえ、見て気分がいい物じゃないですよね」
「いえ、それは全然…! でも、痛かったろうなと、改めて思って…」
「自分も必死だったせいか、怪我した瞬間はあんまり。アドレナリン出てたのかもしれないですね」
「す、すみません、ホントに…!」
「いいんです。名誉の負傷ですから」
そう言って、西野さんが何でもないように笑う。負わなくてもよかった傷を、"名誉の負傷" だなんて、本当に申し訳ない。
「栗原さんは、もう大丈夫ですか」
「え…?」
「その…、別れた彼のことを、引きずったりしていないかなと、思いまして」
少し躊躇するように、西野さんが聞く。心に全く傷がないと言えば嘘になるけど、今は穏やかで、どこかすっきりした気分だ。
「大丈夫です。思ったよりも、ずっと」
そう答えたあたしに、西野さんが安堵したように優しく微笑む。
「それなら、良かった…」
呟くように西野さんがそう言う。西野さんとあたしの恋は似ていた。だから、同じような失恋をしたあたしを、西野さんは気に掛けてくれていたのだと思う。
「たくさん、助けていただいて、ありがとうございました」
「いえ、僕は大したことは。栗原さんにきつい事を言ったりもしましたし、反省しています」
「反省だなんて、そんな…!」
あたしのことを考えての言動だったのだとわかっている。ただの同僚で、たまたま隣人だっただけなのに、西野さんはいつもあたしのことを考えていてくれた。
「あの時も言いましたけど、栗原さんなら、次はもっといい人と、いい恋ができると思います」
「…ありがとうございます」
西野さんの言葉を、今は素直に受け入れられる。寡黙で考えが読めない人だと思っていたのに、今は素敵な人だと思う。西野さんの心も、早く美月さんの傷が癒えて、優しい未来があるといい。
淡い琥珀色のスパークリングワインが、グラスに注がれていく。
「じゃあ、今日は僕の怪我と、栗原さんの失恋の快気祝いってことで」
そう言って、西野さんがグラスを差し出して優しく笑う。その笑顔に笑い返して、あたしたちは小さく乾杯をした。
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