愛妻弁当

月詠嗣苑

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晴れた日

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『なんか、眩しい···』

 パチッ···

「······。」

『ここは、どこ? 真っ白い天井にアイボリーのカーテン···。もしかして、病院? なんで?』

 起き上がろうとすると、右手に点滴の管が刺さっているのに気付いた。身体もアチコチ痛く、包帯だらけ···

「あの···すいませーん」と声を掛けども、返事もなく、ベッド頭にあるナースコールみたいなベルを押し、暫く様子を見ると、何やら廊下が騒がしくなった。

 バタバタバッ···

「先生! 早くっ!」

 いきなりドアが開いて、白衣を着た看護師や医師が大勢現れて、思わず布団を被った。

「あの···ここってどこですか? あと凄く喉が乾いてるんですが。何か飲み物を···」と図々しく飲み物を頼むと、室内にあった冷蔵庫?から看護師が、冷たくなってるアクトポリスの蓋を開けて渡してくれた。

「ありがとうございます。で、ここは···」

「先生! なにボォーッとしてるんですか!」と目の前にいた医師と思しき男性が、喉を一度鳴らし、

「ここは、都立セレント総合病院だよ? そうだよね?」

 周りの空気が変わって、

「もう先生邪魔! ここは、この役立たず医師が言ったように、都立セレント総合病院の脳外科。あなたは、三年前に大きな交通事故にあって···」

「え?」

『事故? 三年前? 桃子は?』

 頭の中には、?マークだらけだが、記憶はなんとかある。

「あの···うちの子知りません? 桃子って言って···」

 そう言うと、また周りの空気がおかしくなり、みな顔を見合わせている。

「子供?」

「だって、美羽ちゃん。まだ···」

「···羽ーーーーーっ!」

 廊下がまた慌ただしくなって、

「ここは病院ですっ! 静かに!!」看護師の大きな叫び声が聞こえてくる。

「はぁっ、井上さんったら!」

 バンッ!! と派手にドアが開き、ボッサボサの頭のにスーツを着た男性が現れた。

「どいて! 美羽っ!」

 看護師の間を通り、いきなり現れた男性は、私を抱き締めた。

 そう抱き締め···

「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」病棟が震えるような大声を出し、その男性を突き飛ばす。

「あ」

『点滴、外れそう』

「美羽? パパだよ?」

 ???

「そうよ。美羽ちゃん。あなたの名前は望月美羽ちゃん。覚えてない?」

 ???

「あの、私···土屋美月ですけど···」

 ???

 私の頭の中が?マークで埋るのなら、きっと周りの人の頭の中もそれ以上に埋ってるのだろう。

「バカッ! 土屋美月ってのはな、お前のお婆ちゃんの名前だ! お前、ほんとにわからないのか?」

 ???

「はぁ···」

(私が、お婆ちゃん? じゃ、桃子は? お母さん?)

「桃子···」

「母さんの······あっ! 忘れてた!」

 すると、後ろの方から···

「ちょっと、輝! 待って!」と小さな子供の声とそれを追いかけてる母親の声が聞こえて、

「あなたー、先に行かないでよ」

「お父さん、つーかまえた!」

「あ! 新藤先生、ご連絡ありがとうございますっ! 美羽!!」とまた先程の男性みたく抱きしめられたが、同じ女性というだけあって、悲鳴を叫ぶ事はなかった。

「あの···本当にわからないんですけど」

「お姉ちゃん、僕の事も忘れちゃったの?」

 幾つ位だろう? 桃子より、少し大きく見える···

「ごめんね。お名前教えてくれるかな?」

「いいよ。僕の名前はね···輝だよ。望月輝! いつもお姉ちゃんに、字を教えて貰ってたから、漢字で書けるようになったんだ! ほんとに、僕のこと覚えてないー?」

「うん。ごめんね」

 それからがまた大変だった。

 いろいろと検査をされ、点滴は取れたから動けるものの、大きな事故で三年間眠り続けた私は、本当に記憶がなく、あるのは自分の記憶だけ。土屋美月としての記憶。

 退院の日、空は真っ青で雲が一つもない青空。

「気持ちいいーっ!」

 全てから開放され、大きく伸びをした。

 家に帰ると言われ、連れてこられたのは、私が昔住んでいた家ではなかった。

「あの···私の部屋は?」そう言い、母である桃子が、案内してくれた。

「あなたが、いつ目を覚ましてもいいように、毎年毎年模様替えをしてるの。」

 部屋の周りを見ても、わからない。だが···

「あ!」

 棚に飾ってあった写真を見て、私は口に手を当て驚いた。

「この写真に写ってるのは、ママのママ。お婆ちゃんよ。」

(私、お婆ちゃん?)

「手前にいるのが、お父さん。って言っても、お父さんだった、が正しいかな?で、真ん中にいるのが私···」

(なんで、私が生きてるの? 桃子が、中学の入学式の写真に)

「で、こっちが、あなたのお父さん。ほら、目鼻立ちが似てるでしょ?」と鏡を見せられ、写真と比べるもわからない。

「で、これが輝。ふふっ、可愛いでしょ? あなた、私がミルクあげるの! って泣きわめいて···」

 桃子は、その時の事を思い出したのが、目に指を当てた。

『ん? この写真からすると···』

「私、もしかして15歳?」

(まさか、そんな筈は···)

 病院にいる時もあまり鏡を見ないようにしてたし、やけに周りが高いなとは思ったけど···

「わからない···」


「少し横になる?」首を振り、桃子に抱き着くと、桃子は私の肩を抱き、ベッドに腰を掛けた。

「夢の話をしてあげる。今朝、とても不思議な夢を見たの···」

 ママの···いや、桃子の話によると、

 亡くなった私が、

(私、もう死んじゃったのね)

 枕元に立って、会いに来てくれたそうで。

 そして、今日あなたの待ち人が目を覚ますって···

(それは、この身体の持ち主よね?)

「あの···啓ちゃ···おじいちゃんは?」

「あの人は···なんて言ったらいいのかな?」

 桃子は、私の髪を撫でて、こう言った。

「私のお婆ちゃんを殺して、其の罪をママに、つまり、あなたのお婆ちゃんになすりつけてたの。薬を使って···」

「え?」

(どういうこと? じゃ、私は義母を殺してない?)

「わからないよ···。何がなんだか···」

「そうね。いろいろと言い過ぎちゃったかな? それがわかったのは、私が中学生の時···。その話は、やめるわ。でも、良かった! あなたが目を覚ましてくれて···」

「はぁ···」

(なんだか、身体が重い···眠くないのに···凄く···)


「ママ···会いたかった。大人になった桃子、見てくれた? ママ···」

 私は、膝の上でスヤスヤと眠る母·美月(が入った)美羽の頭を優しく撫でていった···
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