セルリアン

吉谷新次

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チャプター01-04

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 ランスは、簡単に倉庫内に入ることができ、リップルの雷刀を見つけ、それを両手に持った。

 そして、倉庫から外へと出てみると、先程まで強かった風は弱くなっており、異様なまでの静けさが広がっていた。しかし、そんな倉庫前の広い通路では、不審な人物が四人、目の前を立ちはだかっていた。灰色の外套を身にまとい、頭巾を深く被って顔を隠し、まるで、こちらを待っていたかのように、けれど警戒するように、長い杖の先を地面に充てている。

 さらに、彼らの奥のほうでは、見たことのない輸送艦が浮遊していた。

 ランスにとって、目の前にする四人から、ここの村人よりも強い魔気を感じ取っていた。スティーアン人ほどではないが、村人の防衛を突破できそうな魔力を秘めているのはわかった。

「魔術師ランスだな」と一人の灰色魔術師。「我々は、カッツィ団。魔術師ランスの強大な魔力を評価している。我が団体の企画に、協力していただきたい。惑星スティーアン公認の共同企画だ」

「……」ランスは、急な出来事に言葉を失っていた。

「君から感じる強い魔気を辿ってここまで来た。ジャン様やスノー様が高く評価している」

「……私は、誰の力にもなれません」ランスは言った。「ここで生活します」

「なら、無理にでも来てもらおう」灰色魔術師の四人は同時に、こちらに向かって歩き出した。

 ランスは恐怖をおぼえ、反射的に身体を反転させ、倉庫へ逃げようとした。しかし、不安定な地面に足を取られ、すぐに転んでしまった。

 両手で受け身を取ってしまったため、リップルの大事な雷刀が目の前に飛んでしまい、砂だらけになってしまった。リップルの雷刀だけでも拾わなくては、と思った時だった。

 その雷刀が浮き上がったのだ。雷刀は、徐々に加速して浮上すると、倉庫の上まで移動していた。そして、いつのまにか倉庫の上にいた、小さな男の手に、その雷刀は到達した。その男こそ、リップルだった。


※※※


 リップルは、ランスが落とした雷刀を念力で引き寄せ、手でしっかりと握った。そして、雷刀を起動させて、青緑色のレーザーを突出させた。続けて、倉庫の屋根から飛び降りで、ランスと不審者四人のあいだに立ち、口を開いた。

「この子に近づくな」リップルは声を張って言った。今の緊張感は、サリーを殺した人物がこのなかにいるのかもしれない、という怒りだった。

「邪魔者は始末することになっている。そこをどけ。最後の警告だ」と灰色魔術師。

「じゃあ……」リップルは雷刀の先端を魔術師に向けた。「頭首に会わせろ。話をつける」

 灰色魔術師四人は、自身と同じ長さの杖に緑色の稲妻を巻いた。魔杖、という稲妻棒術ができる魔術師特有の武器に変えたのだ。それを、槍のように構える者がいれば、長剣のように構える者もいる。そして、杖に巻かれた稲妻が発射された。

 リップルは、すべての稲妻を雷刀で弾き、相手の攻撃から、自身の身体とランスを守った。幾度となく発射される稲妻に対して、雷刀を巧みに振りまわして相手の稲妻を打ち消し、徐々に距離を詰めたところで、近くなった魔術師の一人に手をかざして吹き飛ばした。

 続けて、高く跳躍して三人の頭上を越えて、後ろへとまわると、二人目の身体を雷刀で切った。そこで、稲妻の発射だけでは通用しない、と相手は思ったのか、魔杖を棒術のように振りまわしてきた。

 棒術や剣術となれば、こちらの得意技だった。何度も小さな跳躍をしながら、身体も激しく回転させ、雷刀を曲芸に扱いながら相手の魔杖を弾き、三人目の身体を切り刻んだ。

 リップルは、自身の軽量な身体でうまく立ちまわり、牽制攻撃を多用して相手の緊張を煽り、徐々に接近しては、隙のできた瞬間に大きな一打を与えていた。やがて、四人目の身体も切り込んで、地面に着地した。これらは、そこまで時間のかからないものだった。

 けれど、さらに遠くから緑色の光が輝き、そんな光の中心から緑色の太い稲妻が飛び出してきた。その稲妻は、リップルに向けられていた。

 リップルは、その強力な稲妻を利き手で受け止めると、風圧を受けたかのように後退を余儀なくされた。念力で相手の魔力に抵抗したが、手だけでは対抗できず、背後の倉庫に背中を打ちつけてしまった。そこで緑色の稲妻はなくなり、リップルは地面に倒れてしまった。

「リップル!」ランスが駆け寄ってくると、こちらの身体を支えてくれた。

「逃げろ」リップルは、全身を煙だらけにしながら言った。「ランスを誘拐するつもりだ」

 しかし、そのすぐだった。今度は、赤色の球体結界が展開され、ランスはその結界に包まれてしまった。身動きが取れなくなってしまったどころか、彼女自身がまるで停止してしまったかのように、固まってしまった。

「ランス!」リップルは立ち上がり、雷刀をもう一度起動して、雷刀を球体結界にぶつけた。

 けれど、雷刀で結界を破ることはできなかった。続けて、新手の敵対魔術師が登場し、緑色の稲妻を食らってしまった。またしても、地面に倒れてしまい、固まったランスを開放することはできなかった。

 リップルは、地面に倒れたまま顔を上げた。そこには、カッツィ団の中型輸送艦が、近くに着陸している光景があった。また、開放されている出入口のハッチには、男女一人ずつが立っており、若い女性のほうは、杖に赤色の稲妻を巻いていた。彼女が、ランスを囲う球体結界を展開する人物だった。特別な階級の魔術師なのか、彼女の球体結界が雷刀で簡単に破れなかったのは、彼女の魔力が強大であるからだ。

 若い女性の隣に立つ中年男性も、そこらの魔術師と違い、彼からも強い魔気を感じ取れた。彼は、あらゆるところに目を配り、地上にいる魔術師達に指示をしていた。その中年男性は、カッツィ団の頭首のようである。そして、彼の手にも杖があり、緑色の稲妻を巻いている。彼こそが、最初に緑色の太い稲妻を放ってきた人物である。彼の稲妻を受け止めた時の全身の痛みは異常だった。

 二人の強大な魔術師を前にして、リップルはなにもできていなかった。

 ランスは球体結界に包まれながら、あの男女のいる中型輸送艦のなかへと引き寄せられ始めていた。

 リップルは、念力で彼女の身体を引き寄せようとするも、移動速度を遅らせるだけであり、女性の魔力に勝る念力を展開することができなかった。念力をやめて立ち上がり、もう一度雷刀を構えた。そして、魔力を展開する人物を切る作戦へ変更した。

「ここに部外者がいるとはな」輸送艦のハッチにいるカッツィ団の頭首らしき中年男性が、一歩前へと出て地面に足をつけた。彼から放たれる小さな言葉は、魔気と混ざって聞こえてきた。「連邦軍の人間にしてはチビだな。……軍人でも殺した賞金稼ぎか?」

 リップルは、カッツィ団の頭首よりも、赤い稲妻を扱う若い女性のほうが気になっていた。黒色を主とした外套。そして、頭巾の隙間から見える目立った赤髪。

「どうしてスティーアン人が、カッツィ団と組んでる?」リップルは聞いた。

 若い女性をよく見ると、首に赤線が刻まれており、その赤線がわずかに光って首輪のように見えていた。その首輪の形をした輝きは、惑星スティーアンの魔術師の位を意味するものであり、彼女は紛れもなく魔界の上級階級の、魔女、という立ち位置の存在である。

 こちらの質問に対し、無言の二人は、船の奥からさらに部下である魔術師を放出させていた。そんな下っ端の魔術師がぞろぞろと地面に降り立っては、緑色に輝く魔杖を構えてこちらに向かってきた。

 そのあいだ、ランスの入った球体結界は移動を続け、船のなかへと押し込まれてしまった。

 ランスを追いかけようと、雷刀を持って輸送艦に向かって走ろうとすれば、行く手を妨害する魔術師達が稲妻を発射し、近い距離にいる魔術師は、こちらを魔杖で殴ろうとしてきた。

 リップルは、稲妻を避けたり、手のひらで受け止めたりなどで対抗をして、また、相手の棒術には、雷刀で対抗して身体を切り刻んで倒していった。

 そして、あの二人の部下である魔術師全員を倒したあと、船への接近を試みた。その瞬間に、今度は、あの魔女から赤色の太い稲妻が発射され、リップルは雷刀でその稲妻を受け止めようとした。しかし、その威力は凄まじく、こちらの雷刀で相手の稲妻を受け止めることはできたものの、後退を余儀なくされてしまった。

「ランスを返せ!」リップルは声を張り上げた。

 笑顔で食事を提供してくれた彼女を救うべきだ。

 雷刀を両手から右手だけに持ち変えると同時に、左手で雷刀の底部から超小型追跡装置を取り出し、その左手をかざして強力な念力を展開し、正面にする二人を吹き飛ばそうとした。こちらの念力もそれなりに強いと過去に評価されていたこともあり、相手二人にこの念力効果が届いた。

 カッツィ団の頭首こそは、念力で吹き飛ばすことができた。彼は船の奥のほうへと吹き飛び、無力となった。ただ、魔女には効かなかった。魔女は杖を光らせて縦に構え、防御していた。

 リップルは、さらに詰め寄ろうとした。しかし、思いがけない新手が存在していた。

 それは、周囲から水色の稲妻を発射する魔術師だった。その稲妻は牽引効果のものらしく、こちらの両腕や両足に巻きつき、身動きが取れなくなってしまった。こちらの行動を妨害する者は、意外にも地元の魔術師だった。あたかも、目上の人間には逆らうな、というような様子であり、それが、カッツィ団のあと押しとなった。

 そこで、追い打ちをかけるように、改めて魔女から赤い稲妻が発射され、こちらの胸部に命中してしまった。リップルは、背後の倉庫まで吹き飛ぶと、壁に衝突してめり込んでしまった。

 壁にめり込んだ瞬間こそは、意識が飛びそうになったものの、すぐに正気を取り戻して、めり込んだ壁から抜け出した。だが、目の前にしたのは、離陸を始めているカッツィ団の船だった。もはや、ランスを救出するのは不可能だった。そのうえ、こちらの行動を阻止し続ける地元魔術師は、魔杖の先端をこちらに向けていた。

「ランス!」リップルは上空を見上げた。

「大人しくしなさい」そこで、長老が目の前で立ちふさがった。「ここは、仕方がないのです」

 まるで、上官を前にして沈黙する部下のように、カッツィ団の輸送艦がここに着陸してからというもの、ここの村人は黙っており、ランスの母と思われる人物も、涙ながらに見ているだけだった。

 やがて、相手の輸送艦の原動機音も聞こえなくなり、彼らを宇宙へと逃してしまった。

 ただ、周囲の静けさと、ここにいる魔術師の沈黙を破ったのは、リップルだった。

「……お前ら、ランスが拉致されても、黙ってるだけなのか!」

「君にはわからない。魔界一次惑星に所属している魔術師の強さと権威を」と村人の一人。

「あいつらは違う」リップルは、胸の痛みに耐えながら、歯を食いしばる思いで言った。「あいつらは、魔界一次惑星の魔術師じゃねえよ。カッツィ団、と言われてる魔界から独立をした空賊だよ。なんで、魔女もいるのかはわからねぇけど」

「彼らを知っているのか?」長老が聞いてきた。

「俺の仲間を殺した」リップルは、周囲の魔術師の死体を目で確認した。「ここにいる奴らも空賊。反銀河連邦団と同じように、資源回収とか開拓とかのためには、連邦や魔界の憲章を無視した行動に出る」

「……やけに詳しいな」長老の側近が聞いてきた。「銀河連邦の元軍人か?」

「元軍人だったらなんだよ。軍人じゃなくても、まわりに目を配れば、この情報は入ってくるよ」リップルは、先程までの緊張を解いて答えた。

「……一人で彼らの相手を?」村人の一人が、一二人の魔術師の死体を見て言った。

「……俺を、この惑星から出してくれないか?」リップルは、野次馬の言葉を無視して言った。

「待て。君の裁きは、まだ終わっていない」と長老の側近。

「静かに」長老が声を張って皆に言ったあと、こちらに声をかけた。「君の話を、しっかりと聞かせてくれ」

 そこでリップルは、自分の名前と、賞金稼ぎであることを説明した。また、仕事で発電石を見つけて、収集屋に行く道中にカッツィ団に襲撃され、移動船ごと破壊されて仲間を殺されたことも説明した。加えて、唯一の便利道具が雷刀で、雷刀には情報発信機能もあり、知人への救難信号の送信ができることも伝えた。


※※※


 カッツィ団の襲撃から数時間が経過した。

 リップルは、長老や警備隊員に連れられ、長老室にいた。

「賞金稼ぎのリップル」長老は重い口を開いた。「この惑星での部外者による秩序紊乱は、重い罪ではある。一方で、空賊と思われる集団からランスを救出しようとした行動を評価し、君に罰を与えないことにする。そして、君の友人がここに到着すると同時に、開放をすることに決定する。以後、私の許可無しに、この惑星に接近と接触をしてはならないことにする」

「約束する。俺は約束を守る男だから、心配するなよ」そこで、雷刀から呼び鈴が響いた。「……今から来る準中型輸送船エリアスライダーに、着陸許可をして。ラグ・ブーチっていう長靴が似合う女が送迎屋としてここに来る」

「わかった。では、着陸場まで案内する」長老は立ち上がった。

「その前に」リップルは、頼みごとをした。「……俺が捨てられてたゴミ山に、案内を頼めるかな?」

「……なぜ?」長老の側近が聞いてきた。

「俺の友人の死体を見たい」と率直に答えた。


※※※


 リップルは、ゴミ山に来ていた。しかし、そこに死体はほとんどなく、金属が多い粗大ゴミだらけだった。死体があったとしても、魔界の外套を着ている魔術師の死体しか見当たらなかった。廃棄物の海、と比喩しても良いこの場所では、サリーだけでなく、ほかの賞金稼ぎの遺体も見つけられなかった。

「ここで、特定のご遺体を見つけるのは、不可能に近い」こちらの背後にいる長老が静かに言った。「場合によっては、性別の判断がしにくい状態の魔術師の死体が見つかることもある。探すことは、苦痛を増やすだけかもしれないぞ」

「友達の大事なものもある」リップルは、雷刀のグリップにある一つの機能を起動させた。それは、サリーの発信機と近くなると、振動が起きるようになるものだった。

 しばらくのあいだ、リップルはゴミ山を歩き続け、発信機の波長が合う瞬間を待った。サリーは、逃げ足もはやいとされているが、大事なものを置いて逃げる様なことはしないのだ。大事なものが見つかるのであれば、遺体を見つける必要はない。

 やがて、雷刀のグリップが振動し、サリーの死を覚悟した。

 リップルは、雷刀が振動した場所に立ち、足元に手をかざして目を閉じた。続けて、念力を使って、発信機の電波を感じ取り、それをゴミ山のなかから引き寄せた。

 ゴミ山のなかから浮いて出てきたのは、拳銃だった。サリーは、いつも拳銃を携帯しており、どんな時でも、拳銃を手放さなかったのだ。それを、リップルは優しく手に持った。その時に、こちらの手にサリーの血がついたのはわかりきっていた。

「サリー、ごめん」リップルは言い、この拳銃を形見として、外套の収納に納めた。


※※※


 リップルは、長老と警備隊員と共に歩き、砂漠地帯へとやってきていた。

 そこで、長距離移動を得意とする煤汚れが酷い準中型輸送船が空からやって来た。六人分の生活ができ、一隻の超小型輸送船を格納できる、中途半端な大きさではあるが、そんな輸送船の船長のブーチには、だいぶ世話になっていた。わざわざ、ここまで来てくれることには、非常に感謝している。

 ブーチの船が着陸し、ハッチが開くと展開式の階段が地面と繋がり、その出入口で一人の女性が現れた。金髪のショットヘアで、橙色の目をし、目立たない地味な操縦士の服装をしている。彼女こそブーチで、賞金稼ぎにとっての便利な送迎屋だった。そんなブーチは、村長と挨拶をしようともせず、ハッチが解放されている出入口で腕を組んで待っていた。彼女は送迎屋の規則どおりで、仕事以外の人物とは交流を持たないことにしている。憲章を守ることと、独自のルールに対するその意識は、今でも変わらなかった。

「それじゃ、行くね」リップルは、長老に挨拶をした。

「待ってください!」そこで、警備隊員を押しのけて、ランスの母らしき人物が呼び止めてきた。「リップルさん、ですよね。ランスの母です。……あの時は、本当にありがとうございました。私の娘のために、命を張ってまで行動をしていただき、大きな勇気をいただきました」続いて、ランスの母は、小さな小包を渡してきた。「……大したものではないかもしれませんが、この惑星で取れた資源です。今後の旅先で、お使いください」

「お、ありがとう。あとで見てみるよ」リップルは微笑んで返事をし、小包をポケットにしまった。「そうだ、皆に聞きたいことが。……もし、この俺がランスちゃんを救出して、ここに連れてきたら、驚くかな?」と言って微笑んだ。

 こちらのその言葉に、皆があっけにとられていた。やはり、ランスの救出ができれば、嬉しいようだ。

「ランスちゃんを連れてここに来るよ。約束だ」リップルはそう言って微笑み、ブーチの輸送船へ走った。
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