セルリアン

吉谷新次

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チャプター04-01

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 スノーは、惑星クラウに到着していた。銀河連邦の建築技術と、魔界植物の園芸技術が交わった、機械と自然が綺麗に合わさる街並みを歩いていた。高層建造物はほとんどなく、唯一高い建物とされるものは、魔界の大臣がこの惑星で居住する時に使用される宮廷だけだった。その宮廷は、六人魔女の誰かが訪問して滞在する時にも使用され、現在は、バリスという一人の魔女がいる。

 女王と、その右腕に位置する、頭魔、という立場の魔術師がおり、その下に六人魔女と四人賢者が位置している。さらにその下に、各惑星に就く大臣魔術師がおり、これらで縦社会が構築されている。

 スノーは、バリスには鉢合わせをしないように、と願っていた。六人魔女のなかでも、バリスとは意見が食い違うことがあり、特に女王や頭魔に忠実であるバリスは、こちらとは噛み合わないことが多いからだ。会うたびに意識確認のようなことをされ、うんざりしていた。

 さまざまな考えを頭のなかで整理しながら、整備店へとやってきた。整備店は白くて綺麗な店構えで、観光客が訪問しても不快にならない景観だった。

「これはどうも、いらっしゃいました。スノー様」身だしなみの良い店主サスタルという男が現れると、丁寧に出迎えてきた。彼は、魔術師ではあるものの、連邦の人間に合わせた服装をしている。「本日は、どういったものをお求めですか?」

「ご苦労、サスタル。カッツィ企画の機材が欲しい。発電石の制御装置と、以前に注文した人造人間製造機の予備部材だ」と答える。「組立はせずに、ドックエリア四〇まで運んでくれ」

 サスタルは、人間関係の様々な繋がりを持っているため、惑星外とのやり取りも手早く進められる、魔界にとって優秀な人材でもあるのだ。こちらの依頼に対しても、快く受け入れてくれた。

「かしこまりました。準備に一日のお時間をいただきますので、その点の了解をいただけたら幸いです」と腰を低くし、店の奥へと姿を消した。

 スノーは、やるべきことを済ませると、この惑星の宮廷で滞在するか、近くの宇宙基地で滞在するかを悩んでいた。こちらにとって、ここにいることは良い気分でないからだ。まずは自分の船へと戻ると決め、店を出ることにした。

 魔界が銀河連邦への自己主張を強めるため、女王の判断で、魔力と念力を同時に兼ね揃えた人造人間の計画が始まった。しかし、天然資源や銀河連邦の科学技術を得ることは非常に困難だった。そこで、当時に開拓大臣をしていたジャンが際立っていた。彼は、膨大な熱量を持つ宝石や化学物質の位置を察知する能力があった。彼は、その能力を思う存分に使うことで、自分の国もつくることができる、と考えたのか、大臣を辞職し、カッツィ団を立ち上げ、浮浪者や賞金稼ぎを震え上がらせた。

 彼の暴走するような勢いは、銀河連邦に警戒を始める女王や頭魔からしたら、積極的な行動に銀河連邦がどう反応するのか確認できる実験になるのだ。

 ジャンは優秀ではあるが、自分の才能に過信をしている魔術師の一人である。

 スノーは、整備店を出てしばらく歩いていると、背後からじわじわとくる魔気を感じ取った。それは、こちらよりも強大な魔気で、こちらが足を止めてしまうほどだった。そして、その魔気を飛ばす人物は、こちらの背後の上から降り立ってくるような感じだった。

「久しぶりだな」バリスの声だった。

 バリスは、女王と頭魔を含めた三人にしかできない、自身を浮遊させる魔術を習得しており、いつからか、こちらを見張っていたようだ。そして今この時に、背後に降り立ったのだ。

「久しぶりだ」スノーは仕方なく振り向いた。

 目の前には、白と緑色の外套を纏い、緑色の長い髪をなびかせたバリスがいた。情のない顔つきに加えて、緑色の目と唇は、誰が見ても近寄りがたい畏怖を感じさせるものだった。

「カッツィ団の人造人間計画はどうなった?」とバリス。

「難航している」と答える。「予定よりも遅れてしまうが、完成は間近である。私の足を止める者がいなければ、そこまで時間はかからない」最後に嫌味を入れて、停船所へと向かうために、彼女に背を向けて歩き出した。

「頭魔様の伝言だ。カッツィ団との共同企画は中止とする」バリスは、こちらのあとをついて来ると、後ろから話しかけてきた。「予定どおりにならないのであれば、この企画は終わりだ。惑星スティーアンへ戻れ」

「今更なにを言う」スノーは、目を合わせることなく歩き続けた。

「惑星スティーアン独自で、人造人間を開発することにした」バリスは、これ以上こちらに距離を詰めるようなことをすることなく、話を続けた。「遅れを取るカッツィ団とは縁を切る」

「あれほどの指示をしておきながら」スノーは、苛立ちを募らせた。

「では、優秀な人材は、見つけたのか?」とバリス。優秀な人材というのは、魔力に長けた幼児のことをさしている。「見つけたのであれば、カッツィ団に支払いを済ませて、その人材を惑星スティーアンに招こう」

 カッツィ団は、人界と関係を持ち始めた以上、さらに機械の導入に積極的になり、人造人間の開発の第一歩となっている。そこに関心を持っていたものの、第一歩からのあとが遅いと判断されたのか、バリスのその言い方では、惑星スティーアンでも機械の調達が間に合い、人造人間の開発を独自で進行させることができたようである。となれば、ジャンの必要性はなくなる。

 そこへ、一人の女児が駆け寄ってきた。その女児は、なにも知らぬままバリスに接近していた。片手に花を積んだ籠があり、一つの花を手に持って、それをバリスに差し出した。

「お花、お一つで一三ペイズです。魔界通貨なら、二六ウィルです。いかがですか?」と女児。

 その声に、スノーは思わず振り向いてしまった。バリスも立ち止まり、女児に身体を向けた。

「申し訳ありません!」そこへ、女児の母らしき女性魔術師が現れた。女児の母は、女児を抱きしめると、地面に膝をついて顔を下げた。「私の教育が不足しておりました。なんと無礼なことを……」

「そなたの行いは……」バリスが厳しい発言をすると思われた。

「許そう」そこで、スノーが割って入り答えた。女児の母が顔を上げてこちらを見たところで、優しく声をかけた。「我々の魔気を恐れずに接近できる女児とは大した者。もし、教育が不足しているのであれば、不足している部分を補え。将来に期待できる魔術師となるであろう」

「……ありがとうございます!」驚きの表情と、安堵の感情が合わさり、女児の母は深々とお辞儀をした。「ぜひ、魔界への貢献を目指し、教育いたします」

「バリス、行くぞ」スノーは、この場の状況を終わらすようにバリスを呼び、この場から離れるように歩いた。

 バリスも、こちらの一般魔術師に対する低姿勢に内心驚いたのか、しばらくは黙って後ろをついてきた。それは、六人魔女の輪を乱すような行為でもあるからなのかもしれなかった。

 通常であれば、一般魔術師は、大臣以上の魔術師に接近してはならない掟があるのだ。それを許す行為というのは、その掟を破ることを意味している。

 それを平然とする姿を見て、バリスに衝撃が走ったのだと思われた。

「そなたは、なにをしているのか、わかっているのか?」バリスは真っ先に質問をしてきた。

「わかっている。……若い世代に、我々の都合を押しつけるつもりはない」と返した。その瞬間、あの小さな賞金稼ぎを思い出した。ランスを通じて、似たような言葉を聞いたおぼえがあったからだ。「知識がなかった者と、知識があるにも関わらず悪事に手を出す者は、違う」

「魔界の掟に従え。そなたも高い魔力を魔女から評価されて、六人魔女に選ばれたのだろう」とこちらを疑っているバリスは、冷静に攻めてきた。「才能ある幼児は昇格し、低能の幼児には厳しく対応せよ。今の行為、女王様や頭魔様に知れたなら、罰が与えられるぞ」

「ならば、その掟を変えるべき」スノーは本心を出した。「……私は、疲れたのだ。子どもの誘拐は、してはならない。進むべき道を選択できる、そんな掟を新しくつくるべきである。可能であれば、私から頭魔様に出向いて、意見を出す」

「ということは、優秀な幼児を見つけることはできなかったのだな?」とバリス。

「……」スノーは、ランスのことも思い出した。ここで彼女の存在を明かしてしまえば、カッツィ団から魔界へ異動させられ、彼女の人生が他人の意思で決まってしまう。ここで初めて、嘘をつくことにしてしまった。「そうだ。優秀な幼児は、まだ見つけられていない。見つけようともしていない」

「今更、幼少期のことを思い出したか」バリスは、こちらの過去を知っていた。「なにを血迷ったのだ。すべては女王様がおつくりになった魔界体制。指示に従えないのであれば、追放の身となるぞ。最悪の場合、私の手でそなたを成敗することになる」

 スノーは、先程の花を売ろうとしていた女児や、悲し気な表情をしていたランスを思い返し、自身の幼少期を思い出してしまった。

 両親の悲しむ顔を見ながら、惑星スティーアンへ行くこととなったのは、その幼少期のこと。現在の頭魔に位置する女性魔術師に連れられ、六人魔女候補として教育を受ける生活を送ることとなった。

 そして、六人魔女として活動している現在、強い魔力のある幼児を誘拐する機会が増えそうだった。人界の科学技術と、その技術では表現できない魔力技術を織り交ぜ、人造人間開発に乗り出したのは、惑星スティーアンと、魔界から独立したカッツィ団。新たな科学の開発やエネルギー問題に、優秀な魔術師が必要になろうとしている。

 こちらが担当した誘拐は、ランスが初めてであった。優秀な魔術師を集めることで、人界の襲撃から守ることができる、という教育を受けてきたのだが、それを真に受けることができなかった。実際に誘拐することとなれば、心が痛んだのは確かだった。正しい行いのようには思えず、そのうえ、幼い頃の自分を見ているようで、惑星スティーアンのやり方に呆れ始めている頃合いだった。

「誰だ、その女児は?」バリスは、質問をこちらの背中に突き刺してきた。

「……誰でもない」最近に誘拐したあの女児を思い出したところで気が緩み、彼女に魔気を読み取られてしまった。脳裏に浮かぶ人の姿を、放出してしまったようだ。

「私は、魔女の管理権を持っている」バリスは真横に立ち、鋭い視線を送って来た。「余計な真似をするなら、本当に追放の判断をする」

「承知」スノーは、バリスに目を向けず、前を見たまま沈黙した。

 すると、バリスはこの場を去っていった。

 スノーは、バリスの魔気が感じ取れなくなるまでじっとしてから、大きな吐息を漏らした。
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