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チャプター09-01
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惑星ダッセルに到着し、目的の病院へとたどり着くと、総合受付にゼシロンという花を届けた。病院側に、簡単に事情を説明すると、すぐに状況を把握してくれた。
また、ブーチはすぐに集中治療室へと入り、一命をとりとめた。
そして、エギーの友達も、花の提供が間に合ったことによって、死を免れることができた。
リップルも簡易治療をするだけで済み、すぐに体力は回復した。
リップルは、頭部から右目にかけて包帯を巻いた状態で病院の廊下を歩き、待合室へと顔を出した。すると、その待合室には、元気になったブーチや、ミアとランスもいた。こちらを待っていた彼女らの笑顔は最高だった。
そして、待合室で動きが無いのは、エギーの機体だった。彼は、この病院へ花が持ち込まれてからスリープ状態となり、人間で例えるなら休んでいる時間を過ごしている、ということである。もちろん、エギーがなぜ休んでいるのかは、ここにいる仲間も察していた。
エギーの友達こそ、エギー本人だからだ。エギーと呼ばれていたある少年が、病院からロボットを遠隔操作して、自分自身の治療費を稼いでいたことがわかったのだ。
リップルは、病院の医師の許可を貰い、エギーを操作していた少年と会うことにしていた。
仲間を連れて、その少年が眠っていると思われる治療室へと向かった。
※※※
スノーは、森の多い惑星へと足を運んでいた。
周囲では、魔女が来た、と騒いでいるが、もう魔女の立場ではなかった。そのため、目の前にする発展途上の村へと簡単に出向くことができるようになっていた。
村の端にある門番に近づくと、門番は深々とお辞儀をした。
「これは、スノー様」門番は言った。「ご無沙汰しております」
「もう、私は、魔女ではない。そこまでのことはしなくて良い」と返した。
「……その、私が見たスノー様は、子どもの頃で」門番は懐かしむように言った。
「そうだ」スノーは微笑んだ。「あの時以来でね。……本日は、両親に会いに来たのだ」
「そうだったのですね!」門番は喜んでいた。「ご両親は、今でもお元気です。ぜひ、入ってください」
スノーは、魔女の立場でなくなったことにより、悲しく離れ離れになっていた両親と再会することができるようになっており、両親が住む自宅へと向かった。
そして、これからは人を悲しませない魔術師として生活をしよう、と決めていた。
※※※
リップル達は、病院の特殊治療室へと来ていた。
特殊治療室手前の大きなガラス窓を前にして、そのガラスの向こうに一台の生命維持装置が設置されていた。人一人が入ることができるカプセル状のもので、そこにエギーを操作している少年が横になっていると思われた。
防護服を着たリップル達は、治療室へと入り、カプセルを前にした。
そして、医師の操作によって、そのカプセルが解放され、入院している少年と対面した。
対面した相手は、両手両足が無く、胴体も半分が機械で、循環器、呼吸器、消化器すべてに管が通され、頭部も特殊な機材で包まれ、先天性の全身不随を持つ少年だった。かろうじて脳だけが動く少年であり、エギーというロボットを遠隔操作することによって、自身の治療費を稼ぎ、そして、様々な場所へと旅行し、疑似体験の情報で娯楽を楽しんでいる環境だった。
そんな彼が危篤状態となった時に希望を抱いたのが、こちらの活動内容だった。時機が良く、花のある場所へと向かう賞金稼ぎを耳にして、エギーを演じて一緒に旅をしたのだ。
「よう」リップルは微笑みながら少年に近寄り、肩に手を置いた。「初めまして。……違うかな。調子はどうかな、エギー」
「リップル殿」生命維持装置に装着された音響機器からエギーの声が聞こえた。「実は、僕は身体の不自由な人間でして。……嘘をついてしまい、……ごめんなさい」
「そんなことないよー」ミアがリップルの肩に乗った。「かっこいいことしてくれたね」
「飛んでる時も楽しかったよ」ランスも一声かけた。
「それで、本名は?」ブーチが質問をした。
「エギーです。皆さん、僕のことは、エギーと呼んでください」すると、エギーの頭部機器の隙間から頬へ涙が流れた。「本当に、皆さんには感謝です。あんなに楽しい旅は、初めてだったので。そして、生まれて初めて、本気、というものを知ることができました」
「もしエギーが良かったらさ」リップルは言った。「元気になったあと、一緒に賞金稼ぎをするのはどうかな? エギーの身体は、ブーチの船に積んでおくからさ」
「……はい。喜んで」エギーはさらに涙を流した。「お気を遣うことなく、僕に命令をしてくださいね。僕が万全な状態になりましたら、船のなかのエギーを起動させますから」
「了解。それじゃ、また」リップルはそう言うとエギーから離れた。「俺達はもう一つ仕事があるから。行ってくるね」
「はい。お気をつけて」エギーという少年は、心から元気になっていく姿を見せてくれた。
※※※
ブーチの船は、周辺の砂をまき散らした。惑星シストンに到着すると、着陸地点周辺では、魔術師達が待機していた。そして、その群衆のなかには、ランスの両親や長老がいた。
船が地上に着地してからハッチが開くと、ランスは一目散に母のもとへと走った。
「ママー!」ランスは、群衆のなかから飛び出してきた母を見つけると、抱き着いた。
「ああ、ランス! 良かった!」母からは涙が流れ、ランスを強く抱きしめた。
「これで、全部の約束を果たせたかな?」リップルは笑顔になった。
「すごいね」ブーチは感心していた。「みーんな、やり遂げちゃうんだから」
「そんなことない。ブーチ、ミア、エギー、ランスがいなかったら、なにもできなかった。それに、最後にはスノーちゃんも手伝ってくれたし。……スノーちゃん、仲間になってくれないかな?」
「え? 魔女を仲間に入れるの?」ブーチは苦笑した。「やばいんじゃない?」
「きっと、追放されている立場だから、あんなことをしてくれたんだと思う」リップルは、スノーに期待していた。いつか、再会することを。
「リップルさん」長老がやって来ると、深々とお辞儀をした。「……なんとお礼を言ったら」
「いやいや、俺がしたいことをしただけだよ」リップルは満面の笑みを浮かべた。「俺も謝らなくちゃいけないことが。……勾留所を壊してごめんなさい」
「面白いことを言いますな。そんなことは気にしなくて良い。ここにいる皆は、忘れているだろう」長老は笑った。
そして、目に涙を浮かべるランスと彼女の母もやって来た。
「本当に感謝しております」ランスの母も、深々とお辞儀をしてくれた。「大変な苦労を」
「そんなことはない」リップルは、ランスの視線を感じた。
「……ねえ、リップル」ランスは口を開いた。「私も、リップルのように強くなって、ここにいる皆を守れるようになる!」
それは、驚きの発言だった。あれほどの消極的な性格であったにもかかわらず、なにかが目覚めたような心境の変化だった。見知らぬこちらに食事を与えたあの時にあったわずかな好奇心が、今回のことで育ったと思われた。戦うことと守ることを同時に知り、自身の技術も自覚することができたためか、そういったことを発言したのだ。
「いいね。今度会える時は、立派な魔術師というわけだ」リップルは微笑んだ。「また、カッツィ団みたいな、悪い団体が来たなら、スノーちゃんみたいにやっつけちゃえ」
「うん!」ランスは、笑顔を向けた。
「お礼の品をお渡ししたのですが」村長が気を使って言ってきた。
「いいや、いらない。今回は、俺の気分だから、無料だよ」と笑顔で言う。「……それじゃあ、俺達は行くよ」そう言って船を見た。
「待って!」ランスが駆け寄ると、こちらに対して、布に包まれた重い物を手渡してきた。「あの惑星マシスで拾ったもの。もしかしたら、価値のあるものかもしれないから、あげる」
「ありがとう。中身はなにかな? 船のなかで楽しみにして開けるとしようかな」リップルは、快く受け取った。「これをお礼の品ということにするよ」
村長の気持ちは、周囲の村人も同じなのか、お礼として綺麗な食材を持って来た。
「報酬は、ランスがくれた小包で良いよ。皆が持ってる食材は、ランスの帰還を祝う料理に使って」リップルは、報酬を貰うつもりはなかった。自分の身勝手な意志で活動をしたものであるからだ。これは、依頼でもなんでもないのだ。
「ということで、皆さんお元気で!」ミアが両手を振った。「また、お会いしましょう!」
リップル達は、ブーチの船に乗り、離陸をした。
惑星シストンの住民が手を振って見送ってくれた。砂漠に囲まれて、大人しい雰囲気の村人達には、たくさんの笑顔があった。
そして、両手を大きく振って見送るのは、心が晴れ晴れとしたランスだった。彼女は元気を取り戻し、強くなってくれた。
※※※
ブーチの船は、宇宙空間の安全宙域に入り、自動操縦に切り替えて、近くの宇宙基地へと向かうことになっていた。
リップルは、ランスから貰った布の塊を食堂の机に置き、いつものように冷蔵庫へと向かい、保存食を手に取った。
「ありがとう」ブーチが改めて言った。「リップルがいなかったら、笑顔を忘れた人生を送っていたかも。サリーのために、本当にありがとう」
「やめろよ」リップルは照れて頭をかいた。「ブーチとかサリーがいたから、今の俺がある。……これで、サリーも少しは喜んでくれたかな」リップルは、ブーチと一緒に食堂の椅子に座った。そして、彼女に聞いた。「ブーチ、もし良かったら、俺と一緒に賞金稼ぎをしない?」
「もちろん」ブーチは微笑んだ。「サリーに負けないように頑張るからね!」
「ありがとう。……それで、ミアはどうする?」リップルはミアにも聞いてみた。
「私もリップルにずーっとついていくよ!」ミアは、リップルの顔に抱き着いた。
「さて、厳しいことを言うようだけど」ブーチが言った。「食事代を稼がないと。保存食生活が始まるよ。仕事はある?」
「もちろん。もう、伝手はある」リップルは、雷刀の情報棒を抜き取り、立体映写機に繋いだ。そこには、緑色と黄色が混じる惑星だった。「獣界族の猫種と交渉したことがあって、どこかの団体が資源を狙ってる。その団体は、反銀河連邦団の第二開拓局、あるいは、楽観主義団か。……それを守る仕事をしに行く。意外と、報酬は高めだぞ」
「またあいつら?」ブーチは苦笑した。「恨みを買うことになりそうね」
「魔界を相手にするよりかはマシでしょ」ミアが言った。「あれを経験したら、怖くなくなっちゃった」
「さて、宇宙基地で休憩をしたら、仕事の準備だ」リップルは、保存食の生地にソースをかけて頬張った。
「このお土産はなに?」ブーチが、ランスから貰った布の塊を手に取ってほどいた。「嘘でしょ!」
ブーチの驚きの声が響き、同時にリップルとミアも驚いた。
「すごーい!」ミアも驚いた。「発電石だ!」
「ランス、取り返したんだな」リップルも、保存食を落としてしまった。「最後に、やってくれたね」
惑星マシスの発電所でなにが起きたのかはわからないが、こちらがかつて回収していた青色に輝く発電石を、ランスがこっそりと持ち込んでおり、それを大事に持って、惑星シストンに到着するまで保管してくれたようだ。
「いきなり大金が入るじゃない!」ブーチは気分を高くしていた。「これで、この船も修理できるし、改良も加えられる! 元気が出てきた! はやく仕事しましょ」
「わ、わかったから、飯を食べて、エギーの腕を修理して、宇宙基地で寝る」リップルは、ブーチを落ち着かせて、皆で食事を取るように促した。
「お……」そこで、食堂の隅で置かれていたエギーの機体が起動した「おっと、失礼」
「エギー?」リップルは、さらに喜んだ。「エギー! 元気になったのか?」
「リップル殿!」エギーは立ち上がると、深々とお辞儀をした。「はい! ゼシロンの成分を投与してなおりました! おかげさまで、今すぐにでも復帰できます!」
「無理はするなよ」リップルは、「食事が終わったら、宇宙基地に行って、この船とエギーの修理をするから」
「了解しました。これからも、よろしくお願い致します」エギーは、何度もお辞儀をしていた。
「さあ、全力でメシを食うぞー!」ミアは、テーブルの上に立って、一本指を立てた。
リップルが乗るブーチの船は、次の仕事の準備のため、宇宙基地へと去っていった。
終
惑星ダッセルに到着し、目的の病院へとたどり着くと、総合受付にゼシロンという花を届けた。病院側に、簡単に事情を説明すると、すぐに状況を把握してくれた。
また、ブーチはすぐに集中治療室へと入り、一命をとりとめた。
そして、エギーの友達も、花の提供が間に合ったことによって、死を免れることができた。
リップルも簡易治療をするだけで済み、すぐに体力は回復した。
リップルは、頭部から右目にかけて包帯を巻いた状態で病院の廊下を歩き、待合室へと顔を出した。すると、その待合室には、元気になったブーチや、ミアとランスもいた。こちらを待っていた彼女らの笑顔は最高だった。
そして、待合室で動きが無いのは、エギーの機体だった。彼は、この病院へ花が持ち込まれてからスリープ状態となり、人間で例えるなら休んでいる時間を過ごしている、ということである。もちろん、エギーがなぜ休んでいるのかは、ここにいる仲間も察していた。
エギーの友達こそ、エギー本人だからだ。エギーと呼ばれていたある少年が、病院からロボットを遠隔操作して、自分自身の治療費を稼いでいたことがわかったのだ。
リップルは、病院の医師の許可を貰い、エギーを操作していた少年と会うことにしていた。
仲間を連れて、その少年が眠っていると思われる治療室へと向かった。
※※※
スノーは、森の多い惑星へと足を運んでいた。
周囲では、魔女が来た、と騒いでいるが、もう魔女の立場ではなかった。そのため、目の前にする発展途上の村へと簡単に出向くことができるようになっていた。
村の端にある門番に近づくと、門番は深々とお辞儀をした。
「これは、スノー様」門番は言った。「ご無沙汰しております」
「もう、私は、魔女ではない。そこまでのことはしなくて良い」と返した。
「……その、私が見たスノー様は、子どもの頃で」門番は懐かしむように言った。
「そうだ」スノーは微笑んだ。「あの時以来でね。……本日は、両親に会いに来たのだ」
「そうだったのですね!」門番は喜んでいた。「ご両親は、今でもお元気です。ぜひ、入ってください」
スノーは、魔女の立場でなくなったことにより、悲しく離れ離れになっていた両親と再会することができるようになっており、両親が住む自宅へと向かった。
そして、これからは人を悲しませない魔術師として生活をしよう、と決めていた。
※※※
リップル達は、病院の特殊治療室へと来ていた。
特殊治療室手前の大きなガラス窓を前にして、そのガラスの向こうに一台の生命維持装置が設置されていた。人一人が入ることができるカプセル状のもので、そこにエギーを操作している少年が横になっていると思われた。
防護服を着たリップル達は、治療室へと入り、カプセルを前にした。
そして、医師の操作によって、そのカプセルが解放され、入院している少年と対面した。
対面した相手は、両手両足が無く、胴体も半分が機械で、循環器、呼吸器、消化器すべてに管が通され、頭部も特殊な機材で包まれ、先天性の全身不随を持つ少年だった。かろうじて脳だけが動く少年であり、エギーというロボットを遠隔操作することによって、自身の治療費を稼ぎ、そして、様々な場所へと旅行し、疑似体験の情報で娯楽を楽しんでいる環境だった。
そんな彼が危篤状態となった時に希望を抱いたのが、こちらの活動内容だった。時機が良く、花のある場所へと向かう賞金稼ぎを耳にして、エギーを演じて一緒に旅をしたのだ。
「よう」リップルは微笑みながら少年に近寄り、肩に手を置いた。「初めまして。……違うかな。調子はどうかな、エギー」
「リップル殿」生命維持装置に装着された音響機器からエギーの声が聞こえた。「実は、僕は身体の不自由な人間でして。……嘘をついてしまい、……ごめんなさい」
「そんなことないよー」ミアがリップルの肩に乗った。「かっこいいことしてくれたね」
「飛んでる時も楽しかったよ」ランスも一声かけた。
「それで、本名は?」ブーチが質問をした。
「エギーです。皆さん、僕のことは、エギーと呼んでください」すると、エギーの頭部機器の隙間から頬へ涙が流れた。「本当に、皆さんには感謝です。あんなに楽しい旅は、初めてだったので。そして、生まれて初めて、本気、というものを知ることができました」
「もしエギーが良かったらさ」リップルは言った。「元気になったあと、一緒に賞金稼ぎをするのはどうかな? エギーの身体は、ブーチの船に積んでおくからさ」
「……はい。喜んで」エギーはさらに涙を流した。「お気を遣うことなく、僕に命令をしてくださいね。僕が万全な状態になりましたら、船のなかのエギーを起動させますから」
「了解。それじゃ、また」リップルはそう言うとエギーから離れた。「俺達はもう一つ仕事があるから。行ってくるね」
「はい。お気をつけて」エギーという少年は、心から元気になっていく姿を見せてくれた。
※※※
ブーチの船は、周辺の砂をまき散らした。惑星シストンに到着すると、着陸地点周辺では、魔術師達が待機していた。そして、その群衆のなかには、ランスの両親や長老がいた。
船が地上に着地してからハッチが開くと、ランスは一目散に母のもとへと走った。
「ママー!」ランスは、群衆のなかから飛び出してきた母を見つけると、抱き着いた。
「ああ、ランス! 良かった!」母からは涙が流れ、ランスを強く抱きしめた。
「これで、全部の約束を果たせたかな?」リップルは笑顔になった。
「すごいね」ブーチは感心していた。「みーんな、やり遂げちゃうんだから」
「そんなことない。ブーチ、ミア、エギー、ランスがいなかったら、なにもできなかった。それに、最後にはスノーちゃんも手伝ってくれたし。……スノーちゃん、仲間になってくれないかな?」
「え? 魔女を仲間に入れるの?」ブーチは苦笑した。「やばいんじゃない?」
「きっと、追放されている立場だから、あんなことをしてくれたんだと思う」リップルは、スノーに期待していた。いつか、再会することを。
「リップルさん」長老がやって来ると、深々とお辞儀をした。「……なんとお礼を言ったら」
「いやいや、俺がしたいことをしただけだよ」リップルは満面の笑みを浮かべた。「俺も謝らなくちゃいけないことが。……勾留所を壊してごめんなさい」
「面白いことを言いますな。そんなことは気にしなくて良い。ここにいる皆は、忘れているだろう」長老は笑った。
そして、目に涙を浮かべるランスと彼女の母もやって来た。
「本当に感謝しております」ランスの母も、深々とお辞儀をしてくれた。「大変な苦労を」
「そんなことはない」リップルは、ランスの視線を感じた。
「……ねえ、リップル」ランスは口を開いた。「私も、リップルのように強くなって、ここにいる皆を守れるようになる!」
それは、驚きの発言だった。あれほどの消極的な性格であったにもかかわらず、なにかが目覚めたような心境の変化だった。見知らぬこちらに食事を与えたあの時にあったわずかな好奇心が、今回のことで育ったと思われた。戦うことと守ることを同時に知り、自身の技術も自覚することができたためか、そういったことを発言したのだ。
「いいね。今度会える時は、立派な魔術師というわけだ」リップルは微笑んだ。「また、カッツィ団みたいな、悪い団体が来たなら、スノーちゃんみたいにやっつけちゃえ」
「うん!」ランスは、笑顔を向けた。
「お礼の品をお渡ししたのですが」村長が気を使って言ってきた。
「いいや、いらない。今回は、俺の気分だから、無料だよ」と笑顔で言う。「……それじゃあ、俺達は行くよ」そう言って船を見た。
「待って!」ランスが駆け寄ると、こちらに対して、布に包まれた重い物を手渡してきた。「あの惑星マシスで拾ったもの。もしかしたら、価値のあるものかもしれないから、あげる」
「ありがとう。中身はなにかな? 船のなかで楽しみにして開けるとしようかな」リップルは、快く受け取った。「これをお礼の品ということにするよ」
村長の気持ちは、周囲の村人も同じなのか、お礼として綺麗な食材を持って来た。
「報酬は、ランスがくれた小包で良いよ。皆が持ってる食材は、ランスの帰還を祝う料理に使って」リップルは、報酬を貰うつもりはなかった。自分の身勝手な意志で活動をしたものであるからだ。これは、依頼でもなんでもないのだ。
「ということで、皆さんお元気で!」ミアが両手を振った。「また、お会いしましょう!」
リップル達は、ブーチの船に乗り、離陸をした。
惑星シストンの住民が手を振って見送ってくれた。砂漠に囲まれて、大人しい雰囲気の村人達には、たくさんの笑顔があった。
そして、両手を大きく振って見送るのは、心が晴れ晴れとしたランスだった。彼女は元気を取り戻し、強くなってくれた。
※※※
ブーチの船は、宇宙空間の安全宙域に入り、自動操縦に切り替えて、近くの宇宙基地へと向かうことになっていた。
リップルは、ランスから貰った布の塊を食堂の机に置き、いつものように冷蔵庫へと向かい、保存食を手に取った。
「ありがとう」ブーチが改めて言った。「リップルがいなかったら、笑顔を忘れた人生を送っていたかも。サリーのために、本当にありがとう」
「やめろよ」リップルは照れて頭をかいた。「ブーチとかサリーがいたから、今の俺がある。……これで、サリーも少しは喜んでくれたかな」リップルは、ブーチと一緒に食堂の椅子に座った。そして、彼女に聞いた。「ブーチ、もし良かったら、俺と一緒に賞金稼ぎをしない?」
「もちろん」ブーチは微笑んだ。「サリーに負けないように頑張るからね!」
「ありがとう。……それで、ミアはどうする?」リップルはミアにも聞いてみた。
「私もリップルにずーっとついていくよ!」ミアは、リップルの顔に抱き着いた。
「さて、厳しいことを言うようだけど」ブーチが言った。「食事代を稼がないと。保存食生活が始まるよ。仕事はある?」
「もちろん。もう、伝手はある」リップルは、雷刀の情報棒を抜き取り、立体映写機に繋いだ。そこには、緑色と黄色が混じる惑星だった。「獣界族の猫種と交渉したことがあって、どこかの団体が資源を狙ってる。その団体は、反銀河連邦団の第二開拓局、あるいは、楽観主義団か。……それを守る仕事をしに行く。意外と、報酬は高めだぞ」
「またあいつら?」ブーチは苦笑した。「恨みを買うことになりそうね」
「魔界を相手にするよりかはマシでしょ」ミアが言った。「あれを経験したら、怖くなくなっちゃった」
「さて、宇宙基地で休憩をしたら、仕事の準備だ」リップルは、保存食の生地にソースをかけて頬張った。
「このお土産はなに?」ブーチが、ランスから貰った布の塊を手に取ってほどいた。「嘘でしょ!」
ブーチの驚きの声が響き、同時にリップルとミアも驚いた。
「すごーい!」ミアも驚いた。「発電石だ!」
「ランス、取り返したんだな」リップルも、保存食を落としてしまった。「最後に、やってくれたね」
惑星マシスの発電所でなにが起きたのかはわからないが、こちらがかつて回収していた青色に輝く発電石を、ランスがこっそりと持ち込んでおり、それを大事に持って、惑星シストンに到着するまで保管してくれたようだ。
「いきなり大金が入るじゃない!」ブーチは気分を高くしていた。「これで、この船も修理できるし、改良も加えられる! 元気が出てきた! はやく仕事しましょ」
「わ、わかったから、飯を食べて、エギーの腕を修理して、宇宙基地で寝る」リップルは、ブーチを落ち着かせて、皆で食事を取るように促した。
「お……」そこで、食堂の隅で置かれていたエギーの機体が起動した「おっと、失礼」
「エギー?」リップルは、さらに喜んだ。「エギー! 元気になったのか?」
「リップル殿!」エギーは立ち上がると、深々とお辞儀をした。「はい! ゼシロンの成分を投与してなおりました! おかげさまで、今すぐにでも復帰できます!」
「無理はするなよ」リップルは、「食事が終わったら、宇宙基地に行って、この船とエギーの修理をするから」
「了解しました。これからも、よろしくお願い致します」エギーは、何度もお辞儀をしていた。
「さあ、全力でメシを食うぞー!」ミアは、テーブルの上に立って、一本指を立てた。
リップルが乗るブーチの船は、次の仕事の準備のため、宇宙基地へと去っていった。
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