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22. 健全な良一
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(健全な良一)
その週の水曜日の放課後……
約束どおりに良一と妙子は病院に向かった。
今日の診察も終わりに近づき、いつもは人の列でにぎわう病院も閑散としていた。
紗恵子のはからいなのか、採血、MRIと順番を待つこともなくスムーズに終わった。
まもなく白衣を着た紗恵子が現れた。
「私が一通り見たけど、悪いところはないみたいね。詳しくは後から、担当の先生が見てくれるけど……。今日は、これで終わりー!」
妙子は一安心したのか嬉しそうに良一を見たが、良一はそんなに嬉しそうではなかった。
紗恵子はそれが少し気になったのか……
「何か、心配でもあるの? おかしいところがあれば、今の内に言っておきなさいよっ!」と、訊いた。
「何もないですよ……」
良一は、最初から身体的疾患があるとは思っていなかった。
あの晩の金縛りは、誰か男の幽霊に乗り移られたからだと思っていた。
しかし、それをここで言えば、今度は間違いなく精神科に送られる。
その翌日の夕方、良一は夕食の準備をしていた。
この家に下宿して以来、良一の料理は評判がよく、家事奉仕の刑とはいえ、いつの間にか良一が作るようになっていた。
なっていたと言うよりも、紗恵子はもちろん研修医として病院で働いているので、当然帰りは夕方になる。
父親は帰宅の時間など決まっていない。
そうなると、この家で一番手の空いている人間は、良一だけだった。
自然と良一が作くるしかなかった。
そう言えば妙子もいるのだが、紗恵子が放任的にピアノを弾かしているところを見ると、この年頃の娘にありがちな事情が思い浮かんだ。
それは妙子に台所を任せたばっかりに、後片付けの方が大変だとか、そのうえ斬新な料理でその日の仕事の疲れが倍になったのではないかと、紗恵子に改まって聞かなかったけれども想像できた。
「ただいまー!」
そこに紗恵子が帰ってきて昨日の検査結果を報告した。
「まったくの健康体よ。標本にしたいくらいだそうよ。血液にも異常は出てないし、栄養状態も申し分なし!」
そこに妙子がピアノから離れてやってきた。
「じゃ、あの夜這いは何なのよ!」
「ちょっとその言い方はないと思うんですが……」
良一は、思い出したくない話題が出たことで、逃げるようにして食事の仕度に戻って行った。
「それも、やっぱり健康な証拠で、あまりにも美しい私の体を見て、我慢できなくなったんじゃないの。美しすぎるということは男を狂わす罪なことなのよー!」
紗恵子は自分の体を撫でて見せた。
「よく言うわね。それじゃ、いつ変身するかわからない狼男じゃない!危険すぎる……」
「じゃ、欲求不満にならないように、いつも私の側に置いておくというのはどう。これなら妙子も安心できるでしょう」
「何考えているのよー!」
良一は二人の話が、とんでもない話になってきたのを聞いて再びやってきて……
「あの、僕もう大丈夫ですから…。あれ以来、おじゃましてないし……」
「そうね。美人は三日見れば飽きるって言うから」
妙子が良一を睨みながら言った。
「それなら、妙子は大丈夫ね。ブスは三日見れば慣れるっていうから、一生飽きられなくって……」と、紗恵子が切り返した。
「どういう意味よー!」
「良一君、たまには夜這いに来てもいいのよ……」
紗恵子が色っぽい流し目で良一の横顔をなでた。
「は、はーあ、本当に僕、正常ですから……」
良一は睨みつける妙子の顔と、涼しいまなざしを寄せる紗恵子の顔を見合わせながら、ただただ恐縮するだけだった。
その週の水曜日の放課後……
約束どおりに良一と妙子は病院に向かった。
今日の診察も終わりに近づき、いつもは人の列でにぎわう病院も閑散としていた。
紗恵子のはからいなのか、採血、MRIと順番を待つこともなくスムーズに終わった。
まもなく白衣を着た紗恵子が現れた。
「私が一通り見たけど、悪いところはないみたいね。詳しくは後から、担当の先生が見てくれるけど……。今日は、これで終わりー!」
妙子は一安心したのか嬉しそうに良一を見たが、良一はそんなに嬉しそうではなかった。
紗恵子はそれが少し気になったのか……
「何か、心配でもあるの? おかしいところがあれば、今の内に言っておきなさいよっ!」と、訊いた。
「何もないですよ……」
良一は、最初から身体的疾患があるとは思っていなかった。
あの晩の金縛りは、誰か男の幽霊に乗り移られたからだと思っていた。
しかし、それをここで言えば、今度は間違いなく精神科に送られる。
その翌日の夕方、良一は夕食の準備をしていた。
この家に下宿して以来、良一の料理は評判がよく、家事奉仕の刑とはいえ、いつの間にか良一が作るようになっていた。
なっていたと言うよりも、紗恵子はもちろん研修医として病院で働いているので、当然帰りは夕方になる。
父親は帰宅の時間など決まっていない。
そうなると、この家で一番手の空いている人間は、良一だけだった。
自然と良一が作くるしかなかった。
そう言えば妙子もいるのだが、紗恵子が放任的にピアノを弾かしているところを見ると、この年頃の娘にありがちな事情が思い浮かんだ。
それは妙子に台所を任せたばっかりに、後片付けの方が大変だとか、そのうえ斬新な料理でその日の仕事の疲れが倍になったのではないかと、紗恵子に改まって聞かなかったけれども想像できた。
「ただいまー!」
そこに紗恵子が帰ってきて昨日の検査結果を報告した。
「まったくの健康体よ。標本にしたいくらいだそうよ。血液にも異常は出てないし、栄養状態も申し分なし!」
そこに妙子がピアノから離れてやってきた。
「じゃ、あの夜這いは何なのよ!」
「ちょっとその言い方はないと思うんですが……」
良一は、思い出したくない話題が出たことで、逃げるようにして食事の仕度に戻って行った。
「それも、やっぱり健康な証拠で、あまりにも美しい私の体を見て、我慢できなくなったんじゃないの。美しすぎるということは男を狂わす罪なことなのよー!」
紗恵子は自分の体を撫でて見せた。
「よく言うわね。それじゃ、いつ変身するかわからない狼男じゃない!危険すぎる……」
「じゃ、欲求不満にならないように、いつも私の側に置いておくというのはどう。これなら妙子も安心できるでしょう」
「何考えているのよー!」
良一は二人の話が、とんでもない話になってきたのを聞いて再びやってきて……
「あの、僕もう大丈夫ですから…。あれ以来、おじゃましてないし……」
「そうね。美人は三日見れば飽きるって言うから」
妙子が良一を睨みながら言った。
「それなら、妙子は大丈夫ね。ブスは三日見れば慣れるっていうから、一生飽きられなくって……」と、紗恵子が切り返した。
「どういう意味よー!」
「良一君、たまには夜這いに来てもいいのよ……」
紗恵子が色っぽい流し目で良一の横顔をなでた。
「は、はーあ、本当に僕、正常ですから……」
良一は睨みつける妙子の顔と、涼しいまなざしを寄せる紗恵子の顔を見合わせながら、ただただ恐縮するだけだった。
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