41 / 41
41. 雪降る街
しおりを挟む
(雪降る街)
あれから、三日三晩、街に雪が降った。
街は、白一色に染まり、所々に紅葉の赤がちらちら見えた。
季節外れの大雪に、街の人は大慌て……
除雪車の準備も早められ、早速出動していった。
カーショップは、冬タイヤに履き替える客で、ごった返していた。
そんな四日目の朝、まだ暗いうちから……
大野家に一本の電話が鳴った。
鈴子は、お爺さんお婆さん武を起こして、車に急いだ。
「わたし、加代さんのところに知らせてくる……、それで、誠さんと真理子と一緒に行くから……」
雪子は、鈴子たちを見送りながら言った。
「じゃー、お願い……」
「お母ちゃん、まだ大丈夫だから、慌てないで……」
「……、雪子が言うなら、大丈夫ね……」
四人は、車に乗って出て行った。
雪子は、制服に着替えてから真理子の家に急いだ。
もう、そこには誠さんが車で迎えに来ていた。
「……、お雪さんから聞いて、迎えに来た!」
「また、あの子ホテルに行ったの……、そのうち、お化けホテルになるわよー」
「そう、ねー、それよりも風俗ホテルになりそうだけど、もう一人のフロントマンが説明するのに困っていたよ……」
しばらくして、玄関から加代と真理子が出てきた。
「雪子! もう大丈夫なの?」
そう言いながら、雪子の腕を掴んだ。
「わたしは、大丈夫よ……」
「雪子も行くの? あたし将さん知らないけど……?」
「まー、わたしも行くから、一緒に行きましょう……」
四人は、車に乗り込み病院に急いだ。
道は、夜明け前なのに連日の大雪で、混雑していた。
真理子と雪子は車の後部座席で、真理子は雪子の腕を取って離さない。
「……、雪子、もう、行っちゃうの?」
真理子は、呟いた。
「まだ、いるわよー」
「でも、今日なんでしょうー?」
「雪ん子は、雪の降る中、どこにでもいるわ……」
「でも……、雪子は、雪子よ!」
「雪子は、雪ん子、雪の精……、真理子の見ていた雪子は、ただの幻の兎なのよ……」
「……、うさぎ……?」
「そう、ただの子うさぎよ……、雪が形を作るには核がいるのよ、兎は人間になりたいといったの……」
「……、核……?」
「普通は、空に舞うちりとか、花粉に着くんだけどねー」
真理子は、はぐらかされていると思った。
「……、難しいことは、分からないけど、兎が人間になれるのなら、あたし雪子になりたい!」
「えー、わたしになりたいの……?」
「綺麗で、胸も大きくて、みんなに好かれている雪子に……」
「……、もうなっているわよ! わたしを作ったのは将さん、将さんが加代さんを思って私とお雪を作ったのよ。だから、雪子は真理子、同じなのよ……」
「でも、あたし胸小さいもの……」
「胸の大きさに拘るわねー! 私は兎、人間よりも早く大人になるの……、だから大丈夫よ、そのうち私みたいに、加代さんみたいに、大きくなるから……」
真理子は、また、はぐらかされていると思った。
「わたしが、いなくなったら、今度はちゃんと人間の琴美や志穂と仲良くするのよ! 志穂はちょっと変わっているけど、時期に大人になるわ……」
「あの子、大人になるかなー? 永遠に変わらない気がするけど……」
「それも、困ったわねー」
二人は顔を見合わせて笑った。
相変わらず空は、まだ暗く、灰色で重い雲が覆っていた。
でも、それほど寒くはなく、風もなく、静かな夜明け前の朝だった。
車が、病院に着くと、牡丹雪がちらちらと舞っていた。
四人は、二階の将の病室に急いだ。
「遅かったなー、誠!」
その声に驚いて、誠は将を見た。
病室には、すでにお爺さんとお婆さんと鈴子、武と、将のベッドを囲むようにいた。
しかし、将は酸素マスクを着けて寝ていて、起きて話せる状態ではなかった。
「加代さんも、久しぶりー、誠をもらってくれて嬉しいよー」
「どうして、それを知っているのー?」
加代は、将に向かって話しかけた。
将は、酸素マスクの中、口は荒い息をしていた。
しかし、確かに将の声が頭の中で聞こえていた。
「何でも、知っているよー、ここから見ていたから……」
「え、どうやって……?」
加代は、疑い深く将を見てから、あたりを見回した。
「……、知らない方が、夢があるだろうー」
誠は、窓の外に、赤い蛇の目傘をさして、こちらを向いて微笑んでいる、牡丹雪のお雪さんに気がついた。
誠は、加代さんにお雪さんがいることを指でさして教えた。
「真理子ちゃん、二人をくっつけてくれてありがとう!」
その声は真理子にも聞こえた……
「いえ、あたしは何もしていないわ! 二人が結ばれるのは最初から決められていた運命だったのよ……」
真理子は、頭の中で聞える声にも落ち着いて答えた。
「俺も、そう思っていたよ、でも、おかげで、こうして生きているうちに、二人仲の良い姿を見られたよ……」
「お役に立てて良かったわ……」
真理子は、将を見つめながら言った。
「誠! 後を頼んだぞ! すべてお前に背負わすのは悪いけど、頼む!」
「分かっているよ……」
誠は、ひとこと言っただけだった。
「鈴子……、もっと一緒に山に登りたかったよ!」
「それなら、早く良くなりなさい……、山に登れるくらいに……、それで、また一緒に、露天風呂、入って、満月の月を、見ましょう……」
鈴子は、懸命に涙の出るのを堪えていた。
「武! お前の好きに生きろ! 生きろ! リンゴ園は考えなくていいから……」
「分かっているよ……」
武は、ひとこと言っただけだった。
「お父さん、余り酒飲むなよー! 俺みたいになるから……」
「バカ! 将とは年期が違うよ!」
お爺さんはいつもの調子で言った。
「でも、長生きしろよ!」
「バカ! おまえにいわれたくないわー」
お爺さんは、無理に笑って見せた。
「お母さんも、いつも綺麗でいろよー」
「わたしゃ、いつも綺麗だよ!」
お婆さんも無理に笑って言った。
「お父さん、お母さん、鈴子、武、ありがとう……、ありがとう……、感謝の気持ちしかないよ!」
「雪ん子、お雪さん、最後にいい夢を見させてもらったよ、心残りは山ほどあるけど、でも、いい人生だったよ……」
将のその声で、真理子は雪子がここにいないことに気がついた。
真理子は、そっと病室を出た。
廊下には誰もいなかった。
真理子はその足で、一階のロビーまで出て、雪子を探した。
その途中、ナースステーションに浴衣を着た小さな女の子が、女の看護士さんと話しているのが見えた。
「これくらいの箱でいいの?」
「ちょうどいいわ! お姉さんありがとうー」
幼女は箱を取ると、走って、真理子の横を抜けて玄関に向かった。
真理子は、浴衣姿の幼女と雪子を重ねて見ていた。
真理子は、胸騒ぎの中、幼女を追った。
玄関の外に出ると、来た時よりも激しく牡丹雪が降っていた。
視界の悪い中、真理子は幼女を探した。
幼女は、玄関の広いエントランスと、その前の駐車場を分ける花壇と大きなモミの木が植えられている木の根元にいた。
でも、今は除雪された雪で高く積み重ねられて花壇は埋もれていた。
幼女は、木の根元の雪を手で掘っていた。
「どうしたの……?」
真理子は雪の中、幼女に話しかけた。
「……、お墓、作っているの!」
「お墓、……?」
「そう、兎さんの……」
幼女は、尚も手で雪を掘っていた。
「その箱の中、見てもいい……?」
まさか、こんな小さな箱の中に雪子がいるとは思えなかったが、開けて確かめずにはいられなかった。
真理子は、おそるおそる、ふたを開けた。
でも、やっぱり箱の中には、白い兎が横たわっていた。
「あたし、この兎もらってもいい?」
「どうするの……?」
幼女は、真理子を見上げて訊いた。
「……、だって、雪の中に埋めても、春に雪が解けちゃうと出てきちゃうもの……、あたしが、あたしの家の庭の土の中にしっかり埋めて、お墓作ってあげるわ……」
「ほんと、そうしてあげて……」
幼女は箱を取って立ち上がり、真理子に箱を手渡した。
「……、お姉さん、ありがとうー」
幼女は、それだけ言うと、雪の積もった道路に駆け出して行った。
真理子も幼女の後を追うように歩き出した。
幼女の駆けて行った道路には、赤い蛇の目傘を差した、着物姿の女の人が歩いていた。
「……、お雪さん!」
真理子は、叫びながら、早歩きで、幼女とお雪さんに近づこうとした。
赤い蛇の目傘を差した女の人は振り返り、真理子ににっこりと微笑み、駆けてきた幼女と手を繋いだ。
そして、もう一度真理子に微笑むと振り返り街の方に歩いて行った。
真理子は、赤い蛇の目傘の女の人が、真理子に背を向けたところで追うのをやめた。
追うのをやめると、時期に降りしきる牡丹雪に覆われて見えなくなってしまった。
「雪子、さよなら……、しまったな、もう一度、雪子の裸、抱きしめたかったよ……」
真理子は、牡丹雪の降る中、小さな箱を抱きしめ、一人呟いた。
「……、真理子ちゃん」
武が来て、雪まみれの真理子に傘を差しかけた。
「……、もう帰るよ……、雪子は……?」
「……、行ってしまったわ……」
「……、そう……」
武は、結果が分かっていたように、ひとこと言っただけだった。
「あたし、分かったわ……、人生って、生きた長さではないのね。短くたって、充実した満足のゆく人生なら、幸せなのよ……」
「僕も、そう思うよ……」
武は頷いてから、傘の中の真理子の肩から、頭から、積もった雪を手で払いのけた。
気がつくと、牡丹雪はやんでいて、明るい朝の日の光が、あたりを赤く染めていた。
(おわり)
あれから、三日三晩、街に雪が降った。
街は、白一色に染まり、所々に紅葉の赤がちらちら見えた。
季節外れの大雪に、街の人は大慌て……
除雪車の準備も早められ、早速出動していった。
カーショップは、冬タイヤに履き替える客で、ごった返していた。
そんな四日目の朝、まだ暗いうちから……
大野家に一本の電話が鳴った。
鈴子は、お爺さんお婆さん武を起こして、車に急いだ。
「わたし、加代さんのところに知らせてくる……、それで、誠さんと真理子と一緒に行くから……」
雪子は、鈴子たちを見送りながら言った。
「じゃー、お願い……」
「お母ちゃん、まだ大丈夫だから、慌てないで……」
「……、雪子が言うなら、大丈夫ね……」
四人は、車に乗って出て行った。
雪子は、制服に着替えてから真理子の家に急いだ。
もう、そこには誠さんが車で迎えに来ていた。
「……、お雪さんから聞いて、迎えに来た!」
「また、あの子ホテルに行ったの……、そのうち、お化けホテルになるわよー」
「そう、ねー、それよりも風俗ホテルになりそうだけど、もう一人のフロントマンが説明するのに困っていたよ……」
しばらくして、玄関から加代と真理子が出てきた。
「雪子! もう大丈夫なの?」
そう言いながら、雪子の腕を掴んだ。
「わたしは、大丈夫よ……」
「雪子も行くの? あたし将さん知らないけど……?」
「まー、わたしも行くから、一緒に行きましょう……」
四人は、車に乗り込み病院に急いだ。
道は、夜明け前なのに連日の大雪で、混雑していた。
真理子と雪子は車の後部座席で、真理子は雪子の腕を取って離さない。
「……、雪子、もう、行っちゃうの?」
真理子は、呟いた。
「まだ、いるわよー」
「でも、今日なんでしょうー?」
「雪ん子は、雪の降る中、どこにでもいるわ……」
「でも……、雪子は、雪子よ!」
「雪子は、雪ん子、雪の精……、真理子の見ていた雪子は、ただの幻の兎なのよ……」
「……、うさぎ……?」
「そう、ただの子うさぎよ……、雪が形を作るには核がいるのよ、兎は人間になりたいといったの……」
「……、核……?」
「普通は、空に舞うちりとか、花粉に着くんだけどねー」
真理子は、はぐらかされていると思った。
「……、難しいことは、分からないけど、兎が人間になれるのなら、あたし雪子になりたい!」
「えー、わたしになりたいの……?」
「綺麗で、胸も大きくて、みんなに好かれている雪子に……」
「……、もうなっているわよ! わたしを作ったのは将さん、将さんが加代さんを思って私とお雪を作ったのよ。だから、雪子は真理子、同じなのよ……」
「でも、あたし胸小さいもの……」
「胸の大きさに拘るわねー! 私は兎、人間よりも早く大人になるの……、だから大丈夫よ、そのうち私みたいに、加代さんみたいに、大きくなるから……」
真理子は、また、はぐらかされていると思った。
「わたしが、いなくなったら、今度はちゃんと人間の琴美や志穂と仲良くするのよ! 志穂はちょっと変わっているけど、時期に大人になるわ……」
「あの子、大人になるかなー? 永遠に変わらない気がするけど……」
「それも、困ったわねー」
二人は顔を見合わせて笑った。
相変わらず空は、まだ暗く、灰色で重い雲が覆っていた。
でも、それほど寒くはなく、風もなく、静かな夜明け前の朝だった。
車が、病院に着くと、牡丹雪がちらちらと舞っていた。
四人は、二階の将の病室に急いだ。
「遅かったなー、誠!」
その声に驚いて、誠は将を見た。
病室には、すでにお爺さんとお婆さんと鈴子、武と、将のベッドを囲むようにいた。
しかし、将は酸素マスクを着けて寝ていて、起きて話せる状態ではなかった。
「加代さんも、久しぶりー、誠をもらってくれて嬉しいよー」
「どうして、それを知っているのー?」
加代は、将に向かって話しかけた。
将は、酸素マスクの中、口は荒い息をしていた。
しかし、確かに将の声が頭の中で聞こえていた。
「何でも、知っているよー、ここから見ていたから……」
「え、どうやって……?」
加代は、疑い深く将を見てから、あたりを見回した。
「……、知らない方が、夢があるだろうー」
誠は、窓の外に、赤い蛇の目傘をさして、こちらを向いて微笑んでいる、牡丹雪のお雪さんに気がついた。
誠は、加代さんにお雪さんがいることを指でさして教えた。
「真理子ちゃん、二人をくっつけてくれてありがとう!」
その声は真理子にも聞こえた……
「いえ、あたしは何もしていないわ! 二人が結ばれるのは最初から決められていた運命だったのよ……」
真理子は、頭の中で聞える声にも落ち着いて答えた。
「俺も、そう思っていたよ、でも、おかげで、こうして生きているうちに、二人仲の良い姿を見られたよ……」
「お役に立てて良かったわ……」
真理子は、将を見つめながら言った。
「誠! 後を頼んだぞ! すべてお前に背負わすのは悪いけど、頼む!」
「分かっているよ……」
誠は、ひとこと言っただけだった。
「鈴子……、もっと一緒に山に登りたかったよ!」
「それなら、早く良くなりなさい……、山に登れるくらいに……、それで、また一緒に、露天風呂、入って、満月の月を、見ましょう……」
鈴子は、懸命に涙の出るのを堪えていた。
「武! お前の好きに生きろ! 生きろ! リンゴ園は考えなくていいから……」
「分かっているよ……」
武は、ひとこと言っただけだった。
「お父さん、余り酒飲むなよー! 俺みたいになるから……」
「バカ! 将とは年期が違うよ!」
お爺さんはいつもの調子で言った。
「でも、長生きしろよ!」
「バカ! おまえにいわれたくないわー」
お爺さんは、無理に笑って見せた。
「お母さんも、いつも綺麗でいろよー」
「わたしゃ、いつも綺麗だよ!」
お婆さんも無理に笑って言った。
「お父さん、お母さん、鈴子、武、ありがとう……、ありがとう……、感謝の気持ちしかないよ!」
「雪ん子、お雪さん、最後にいい夢を見させてもらったよ、心残りは山ほどあるけど、でも、いい人生だったよ……」
将のその声で、真理子は雪子がここにいないことに気がついた。
真理子は、そっと病室を出た。
廊下には誰もいなかった。
真理子はその足で、一階のロビーまで出て、雪子を探した。
その途中、ナースステーションに浴衣を着た小さな女の子が、女の看護士さんと話しているのが見えた。
「これくらいの箱でいいの?」
「ちょうどいいわ! お姉さんありがとうー」
幼女は箱を取ると、走って、真理子の横を抜けて玄関に向かった。
真理子は、浴衣姿の幼女と雪子を重ねて見ていた。
真理子は、胸騒ぎの中、幼女を追った。
玄関の外に出ると、来た時よりも激しく牡丹雪が降っていた。
視界の悪い中、真理子は幼女を探した。
幼女は、玄関の広いエントランスと、その前の駐車場を分ける花壇と大きなモミの木が植えられている木の根元にいた。
でも、今は除雪された雪で高く積み重ねられて花壇は埋もれていた。
幼女は、木の根元の雪を手で掘っていた。
「どうしたの……?」
真理子は雪の中、幼女に話しかけた。
「……、お墓、作っているの!」
「お墓、……?」
「そう、兎さんの……」
幼女は、尚も手で雪を掘っていた。
「その箱の中、見てもいい……?」
まさか、こんな小さな箱の中に雪子がいるとは思えなかったが、開けて確かめずにはいられなかった。
真理子は、おそるおそる、ふたを開けた。
でも、やっぱり箱の中には、白い兎が横たわっていた。
「あたし、この兎もらってもいい?」
「どうするの……?」
幼女は、真理子を見上げて訊いた。
「……、だって、雪の中に埋めても、春に雪が解けちゃうと出てきちゃうもの……、あたしが、あたしの家の庭の土の中にしっかり埋めて、お墓作ってあげるわ……」
「ほんと、そうしてあげて……」
幼女は箱を取って立ち上がり、真理子に箱を手渡した。
「……、お姉さん、ありがとうー」
幼女は、それだけ言うと、雪の積もった道路に駆け出して行った。
真理子も幼女の後を追うように歩き出した。
幼女の駆けて行った道路には、赤い蛇の目傘を差した、着物姿の女の人が歩いていた。
「……、お雪さん!」
真理子は、叫びながら、早歩きで、幼女とお雪さんに近づこうとした。
赤い蛇の目傘を差した女の人は振り返り、真理子ににっこりと微笑み、駆けてきた幼女と手を繋いだ。
そして、もう一度真理子に微笑むと振り返り街の方に歩いて行った。
真理子は、赤い蛇の目傘の女の人が、真理子に背を向けたところで追うのをやめた。
追うのをやめると、時期に降りしきる牡丹雪に覆われて見えなくなってしまった。
「雪子、さよなら……、しまったな、もう一度、雪子の裸、抱きしめたかったよ……」
真理子は、牡丹雪の降る中、小さな箱を抱きしめ、一人呟いた。
「……、真理子ちゃん」
武が来て、雪まみれの真理子に傘を差しかけた。
「……、もう帰るよ……、雪子は……?」
「……、行ってしまったわ……」
「……、そう……」
武は、結果が分かっていたように、ひとこと言っただけだった。
「あたし、分かったわ……、人生って、生きた長さではないのね。短くたって、充実した満足のゆく人生なら、幸せなのよ……」
「僕も、そう思うよ……」
武は頷いてから、傘の中の真理子の肩から、頭から、積もった雪を手で払いのけた。
気がつくと、牡丹雪はやんでいて、明るい朝の日の光が、あたりを赤く染めていた。
(おわり)
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる