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円環※
しおりを挟む遠くから朝を知らせるアラームが聞こえる。
まだ薄暗いリビングのソファで、ハルは海斗に抱かれていた。ソファに座る彼に背を向け、膝に乗るような体勢で。
海斗に身を預け深く貫かれながら、胸や前を弄ばれる。
「は……ぅあっ、あ、あっ」
長い年月をかけて愛され尽くしたハル身体は、激しく最奥を叩かれても快感だけを受け取った。ひっきりなしに甘い声をあげるハルの様子に、海斗が喉の奥で低く笑う。
ほどなくして、涼がスーツのネクタイをしめながらリビングに来る。
正面に立つ涼からは、ハルの痴態のすべてが見えているだろう。のけぞった胸で主張する二つの粒も、気まぐれに弄ばれる中心も、海斗と繋がっている箇所も。涼の愛情と呆れの混じった視線に舐められ、全身が熱くなった。
「おはよう」
涼がゆっくりと足を進め、交わっている二人の目の前に来る。
「涼、今日飯は?」
ハルを揺さぶりながら、のんきな声で海斗が言った。
「うちで食べる。海斗は仕事遅番?」
「うん、だから三人で晩飯食えるよ」
あられもなく乱れるハルを視界に入れつつ、二人だけの会話をする。
仕立ての良いスーツを着こなす涼は、十代の頃の儚さを理知的な柔らかさに変え、美しく成長していた。
一度も染めたことがない黒髪が朝日に照らされ冷たい艶を帯びている。仕事中の彼はときどき、自らの美貌を疎んで伊達眼鏡をかけているそうだ。
背後からハルの身体を翻弄する海斗の腕には、蛇のタトゥーが刻まれている。
ここ数年で海斗の身体には刺青が増えたけど、腕にあるそれが一番最初に入れたものだった。自らの尾を噛み円環を描くウロボロス。
あれから何度、春という季節がこの腕をすり抜けていっただろう。別れの季節のはずだった。それなのにハルは今も彼らに喰われている。
ハルの大学卒業から数年が過ぎていた。双子の兄弟もすでに大学を卒業している。涼は大手企業に就職し、海斗は気まぐれにモデルの仕事を続けながら、バーテン稼業に就いている。
結局ハルは二人から抜け出せなかった。
大学卒業後、ハルは逃げるように引っ越しをして、二年前ほどは欲望の疼きに身を焼かれながらも、普通の男に戻ろうとした。二年のあいだ、何度も彼らに抱かれる夢を見ながら。あの甘い地獄のような暗闇に戻りたい衝動に耐え、慣れない社会人生活に心身を擦り減らした。
あれは何月だったろうか。ハルは季節もわからないほど疲れきっていた。
会社のつまらない飲み会から解放され、歓楽街の路地裏で胃の中身をぶちまけていると、雑居ビルの非常口の扉が開く。バーテンの制服を着た海斗がゴミ袋を片手にぶら下げ、呆然とハルを見つめていた。懐かしい銀髪。
海斗はすぐにけだるそうな笑みを浮かべる。そして確信を込めた口調で言った。
「おかえり、ハル君」
お前は絶対に俺たちのところに戻ってくる。
その後はあっけなかった。海斗に肩を抱かれて双子の住むマンションに連れ帰られ、玄関先で涼に抱きつかれた。涼はめずらしく子供の頃みたいな無邪気さで、海斗とまったく同じことを言う。
「おかえり、ハル君」
その夜、ハルは崩れ落ちるように二人に喰われた。
二年のあいだ何をやっても満たされなかった渇きが消える。ハルが手放したあの退屈な理性を、人は正気と呼ぶのかもしれない。二年ぶりのセックスは、愛と呼ぶには凄惨すぎたし、罰と呼ぶには甘美すぎた。
抱かれた翌日に一日だけ仕事を休むつもりが、昼も夜もなく彼らに抱かれ、ハルはその後二度と出勤しなかった。
無職になったハルを、双子たちは当然のように自分たちの部屋に住まわせた。学生時代のマンションとは違う。最初から三人で住むのが決まっていたかのような広い部屋だった。
それからずっと、昼間は刺青の増えた身体の海斗に、夜はスーツを脱いだ涼に抱かれる日々が続いている。
三人とも、三人でする休日が一番好きだった。ハル君飼うの楽しいね、と双子たちが笑い合うのを、ベッドの中で何度も見上げたことがある。
「ハル君、涼にいってきますのご挨拶して」
回想に沈んでいた意識を、海斗の手で強引に引き戻される。深く繋がった箇所を涼に見せつけるように脚を開かされた。
「や゛、ああっ……あうぅッ」
「ハル君、今何されてるの?」
涼が手を伸ばし、ハルの下腹を、ツ……と指でなぞる。たったそれだけの刺激でハルは胸をそらして悶えた。
海斗のものがハルの弱いところを絶えず蹂躙している。涼の指先はハルの薄い腹越しにその動きを楽しんでいた。
自分のいやらしい肉体の反応を堪能されているとわかっても、ハルの精神はもはや羞恥を感じる機能が麻痺しつつある。
「はぅ、んっ……海斗と……」
「違うでしょ」
すぐに優しく遮られた。ハルは観念していつも通りの言葉を口にする。
「二人に飼われて、ずっといやらしいことしてもらえて、幸せです……」
ふふっ、と双子が同時に笑みをこぼした。
「ハル君、良い子」
海斗が背後からハルの耳にくちづける。
「夜は俺と遊んでくださいね、ハル君。いってきます」
涼が黒いスーツをまとった長身を屈め、ハルにキスをした。唇と唇を合わせるだけの淡く清廉なくちづけ。
永遠を誓う花嫁に与えられるようなキスを涼と交わしながら、海斗に全身の性感帯をいじくりまわされている。ハルは声も出せずに深く達した。
涼ははしたなく身体を震わせるハルを愛おしげに見下ろす。そして唇の端に微笑みを残したまま背を向けた。
彼が玄関の扉を開けると、薄暗い部屋に一筋の光が入り込む。白くまばゆい朝の日差し。
ゆっくりとドアが閉まっていく。光の筋が次第に細くなり、最後は跡形もなく消えるのを、ハルは誰にも気づかれないように笑いながら見送った。
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