底辺男が十歳下の溺愛執着系イケメンホストに買われる話(本編完結済み)

猫と模範囚

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※(30)眠姦されんの気持ちよかった?またときどきやってあげよっか



 柔らかくてあたたかい何かが青山君の舌や口内をぬるりとなでる。
 まだ半分眠っている状態で、これが好きだと思った。ピンク色で可愛い澪の舌。

 眠っているあいだにキスされていたようだ。靄がかかった頭で、青山君はされるがままに受け入れる。
 目を開けると、澪の色素の薄い瞳がすぐそこにあった。白磁のような頬をうっすらと上気させ、青山君と舌を絡めている澪。長い睫毛の奥で琥珀色の瞳がきらきらしている。
 澪の中性的で愛らしい顔が、欲情した男の表情に傾くのを見るのが好きだった。

 足の間、身体の奥にずくりと質量のある快感が居座っていることに気づく。いやというほど教え込まれた澪の形。

 入れられている。

 自覚した途端、あっけなく肉体の愉悦に囚われた。青山君はくちづけられながら小さく呻く。
 いつからこうされていたのだろう。澪のものは、青山君の身体の奥深くに埋められたままじっとしていた。それだけなのにたまらなく気持ちいい。
 互いの舌が唾液の糸を引きながらも、ようやく唇が離れる。しどけなく上体を起こした澪が青山君を見下ろしていた。

「まだ寝てていいよ」

 笑みを含んだ澪の声。優しい声色に再び眠りに落ちそうになる。
 意識を閉ざす直前に、体内にあったそれが、ゆっくりと抜き差しする動きを開始した。
 中の感触を味わうように。舐めるような緩慢な動き。

「……は……あッ……」

 青山君の意思ではない。澪に鳴かされていた。
 浅いところにある性感帯を抉り、狭い中をかき分け、青山君の弱い部分を余すことなく可愛がってから、また奥まできてくれる。たっぷりと時間をかけて、何往復も。

「あっ、あっ……んぁ……ああっ」

 何をされているのか理解するより先に、重く柔らかな官能に脳を支配されていた。
 青山君が甘い痺れに腰を震わせていると、澪がかすかに笑う。

「圭吾君、甘イキしちゃってない?寝てる間にブチ込まれてんのに。喜びすぎでしょ」

 青山君のことが愛おしくて仕方ない、という思いが透けた声色だった。
 何を言われているのか理解できなかったけど、澪の声は心地良い。

 澪が上体を倒して青山君を腕の中に閉じ込める。ふ、と澪の感じ入ったような熱い吐息を首筋に感じた。
 締めつけのきつさや、熱く震える粘膜の反応を、澪にねっとりと堪能される。

 これはもう俺の身体じゃない。澪のもの。

 青山君は征服される快感に恍惚としながら澪を見上げた。

「圭吾君とろとろになっちゃって可愛いんだけど、俺もう少し激しくしないとイけないかも」

 澪が内緒話をするようにいたずらっぽく打ち明けた。そして白い指先で青山君の頬をぺちぺちと叩く。

「圭吾君、めちゃくちゃに犯してくださいって言って」
「はぁっ……あ、あっ……め、めちゃくちゃに、おかして、ください……」

 青山君は澪の命令通りの言葉を口にする。ただ音をなぞっただけで、意味を理解できないまま。
 くすくす笑う澪の声。しなやかな指が青山君の唇に触れる。

「ほんと可愛い。何言わされてるのかわかってないでしょ」

 澪の腕が青山君の華奢な身体をさらに強く抱きしめる。
 あと少しで抜けそうなほど浅いところにあった澪のものを、急に勢いよく奥まで突き入れられた。青山君の背が弓なりに軋む。

「あ゛ッ……やっ、あああ゛っ」

 長く激しいストロークで奥を叩かれる。
 強制的に絶頂まで押し上げられ、今まで頭の中を占めていた甘美で自堕落な靄が吹き飛んだ。

「圭吾君おはよぉ。眠姦されんの気持ちよかった?またときどきやってあげよっか」

 倒錯的なセックスの主導権を握っている澪が、呑気な声で青山君を揶揄する。
 何をされているのかわかってしまった絶望感。それを喜んでいた自分への嫌悪感。そして、待ちわびていた壮絶な快感。

「澪……や゛ッ、も、だめ……頭おかしくなるからぁ、ああ゛ッ」

 抱きすくめられて身動きもとれず、良いところを責められ続けた。
 目がさめたせいで狂おしいほど鮮明になった快感を身体に叩き込まれ、声も出せずに絶頂した。ガクガクと腰を跳ねさせながら、のけぞった喉から、はッ、ヒュ、と引きつった音だけを吐き出す。

「ガチイキ顔かわい……」

 澪はうっとりと目を細める。青山君の涙を舌で舐め取る彼の仕草は、飼い主を慰める猫のようだ。
 もうゆるして、と。もつれる舌で懇願する青山君の唇に、澪は自らのそれを重ねた。

「んぅッ……んっ……ッ……」

 青山君の理性が崩れる瞬間は、存外、静かだった。
 青山君が泣きながら正気にしがみついている間すら、その身体は雄に突かれれば素直に可愛い反応を返す極上の器でしかなかった。青山君の反抗も屈辱も敗北も、すべて澪の手のひらの上で愛でられている。

 もう何度目かわからないけど、心の中でなにかがぶつりと切れる音がした。

 いよいよ脳内物質を出す器官がバグったのだと思う。
 ずっと青山君の中に居座って快感を与えてくる澪を、青山君は愛しはじめていることに気づく。

「あ゛、あっ……澪、好き、すきっ……」

 認めたくないけど、揺さぶられながらそう言っているときが一番気持ちよかった。好きだと言うと澪は少しだけ優しい目をしてくれる。

「そのまま寝てて、ごはん作るね」

 慈しむように頬をなでられた。青山君は返事もできずに余韻に溺れる。一度も触れらなかった男の象徴や胸の尖りが、いまだ硬いままざわざわと疼いていた。
 良い子にしててね、とささやき、澪が静かに寝室から出ていく。
 
 はじめて澪に抱かれた夜から、十日ほど経っただろうか。もはや日付の感覚も曖昧だった。

 好き、可愛い、愛してる、と甘い声でささやかれながらの快楽責め。これで何度目だろう。
 青山君は三十年ものあいだ、自分は普通の男だと信じて生きてきた。その年月が、青山君が完全に壊れきることをまだ許してくれない。
 
 寂しがり屋で優しくて、歳の離れた友人のように、捨てられた仔猫のように可愛かった澪。
 そういう澪にだったら、すべて差し出してもいいと思っていたのに。澪の本性は仔猫ではなく、得体の知れない化け物だった。

 唯一、青山君にできた反抗は、飯を食わないことだった。青山君ははじめて澪に抱かれた翌日、何も口にしなかった。
 その次の朝、澪は寝室に小さなベッドサイドテーブルを持ち込んだ。
 澪はテーブルの上に、小さなカップ入りのヨーグルトをことりと置く。そして静かに告げた。

「十五分以内に完食しなかったら、これブチ込むから」

 これ、と澪はどぎついピンク色のアダルトグッズをベッドに放り投げた。青山君の二の腕ぐらいの太さがある。
 ヒッと声にならない悲鳴をあげて青山君はベッドの端まで飛び退いた。
 顔面蒼白になった青山君を見おろし、澪は穏やかに宣言する。

「どうにかなっちゃっても一生介護してあげるから、安心して」

 青山君はガバっと起き上がり、テーブルの上のスプーンをひったくるようにつかんだ。
 飲み込めず吐きそうになるのをこらえ、ヨーグルトを胃に流し込む。久々の食事。泣きたくなるほどおいしかった。

 昼になると、ベッドサイドのテーブルに再びヨーグルトが置かれた。今度は澪が皮を剥いたと思われるリンゴが何切れか添えられている。
 夜はスープとパンとサラダだった。……少しずつ量を増やされている。
 どうしても夕食を食べきれなくて、青山君はスプーンを握りしめたまま、ぼろぼろと涙をこぼす。澪が珍しく慌てた様子で青山君を抱きしめた。

「さっきのは嘘、今日は何もしないよ。あのバイブも捨てるから。いじわるしてごめん」

 その夜は本当に何もされなかった。ただ隣で眠るだけ。
 青山君が寝つけずにいると、澪に抱き寄せられた。いつもとは違う、子供をあやす母親のような腕だった。
 わけのわからない優しさに混乱して、青山君は澪の胸にすがって泣きじゃくった。澪は青山君が眠りにつくまで、ずっと背中をさすってくれた。

 その翌日、容赦なく抱かれた。
 あのバイブが使われることはなかったが。あいかわらず愛と支配を履き違えているような、濃厚で執拗なセックスだった。

「圭吾君、俺のこと好きって言って」

 泣いて喘ぎながら好きだと言った。
 こいつ、いつか絶対殺してやる。そう思っているのに、青山君は澪の腰に足を絡めて中に注がれるのを期待していた。もはや自分の心がどこにあるのかわからない。

「はじめて作ったから、まずいかもしれないけど……」

 ある日、卵が入ったおかゆをテーブルに乗せ、澪がおずおずとした声で言った。
 米と卵の白と黄色に、刻みネギの緑が鮮やかだった。だしの良い香りがする。市販の顆粒だしではなく、本物の鰹節や昆布でだしをとったようだ。
 米も水も調味料も、きっちりと分量をはかって作ったことがうかがえる、完璧でどこか初々しい味だった。

 まるで新婚ほやほやの箱入り娘の手料理みたいな。

 自分で思いついたその例えがあまりにも澪に不似合いで、食べながらつい笑ってしまう。

「うまいよ」

 青山君は笑みを隠しきれずにうつむきながら感想を言った。この状況でなぜ笑えるのか、自分でも理解できない。
 澪も、ふふっとくすぐったそうにはにかむ。

 ときどき澪は、友人みたいだった頃の澪に戻る。
 絶対的な支配者であろうとしているのに、ついうっかり本来の性格が出てしまう。……という見立ては、青山君の願望だろうか。けなげで優しくて愛情に飢えた、本来の姿の澪。
 澪が見せた隙なのか罠なのかわからない可愛げのせいで、青山君もつい口をすべらせた。

「お前、学校どうしたの?ずっと行ってないじゃん」

 澪に抱かれて以来、はじめての日常会話だった。

「春休みなの」
「あぁ……」

 二月の下旬。そういえば澪は大学生だった。
 澪が青山君より十歳も年下なのだと思い出し、気が遠くなる。たったの二十歳でいったいどんな生き方をしてきたら、あんなセックスを覚えるのだろう。

「……でも、バイトはそろそろ行かなくちゃ」

 澪の琥珀色の大きな瞳が少し不安そうに揺れている。

「圭吾君、一人で留守番できる?」

 青山君は息を呑んだ。
 はじめて訪れた機会。ここから逃げ出すチャンスだった。




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