底辺男が十歳下の溺愛執着系イケメンホストに買われる話(本編完結済み)

猫と模範囚

文字の大きさ
38 / 64

※(38)お前のこと殺したくなるくらいひどくして

しおりを挟む


 普段の交わりは、指や舌だけで何度も絶頂させられ、泣かされ、理性を奪われ、意識が朦朧としているところを貫かれる。
 自分の快楽よりも、青山君がよがり狂う姿を見るのが目的なのではないか。そう疑いたくなるほど澪の責めは苛烈だった。

 それなのに今日は、なにかが違う。

 青山君は寝室で澪と肌を合わせながら戸惑っていた。
 澪は青山君に覆いかぶさって指を動かしながら囁く。

「圭吾君、イきそう?イっていいよ」

 笑みを含んだ優しい声。青山君はそれが、許可という名の命令に聞こえる。

「ぅあっ、あっ、や……ッ」

 一度イかされると立て続けに何度も絶頂させられる。それが怖くて、青山君は無駄とわかりつつも限界まで抗っていた。
 耐えきれずに達してしまったときの恐怖と、絶望と、壊されることを心のどこかで期待する暗い愉楽。最後のひとつは認めたくない。
 結局、青山君は命令通りに澪の手のひらに熱い欲望を吐き出した。青山君のそこは、後ろを責められて果てる以外の絶頂の仕方を忘れつつある。もはや女を抱くためではなく、中を弄ばれて青山君がどれほど淫らに悦んでいるかを澪に教えるための装置でしかなかった。
 あっさりとイかされた青山君は、この後の快楽責めから逃れようとシーツを乱しながらあがく。

「はぁ、ッは……や、澪っ……」
「うん、大丈夫だよ」

 しかし今日の澪は、いつもみたいに追いつめてこない。絶頂の余韻を引き延ばすゆるやかな愛撫を施してくれるだけだった。ひたすら甘いだけの快感に、青山君は抗う理由を失くしてつい身を委ねてしまう。

「あっ、あ……ッふ……んあっ」

 青山君は、今まで聞いたことがないくらい甘ったるく蕩けた鳴き方をする自分に愕然とした。その様子を澪は愛おしげに見守っている。

「可愛い……」

 そうつぶやいた澪に、柔らかく唇をふさがれた。
 激しさはないが、手を抜かれているわけではない。むしろ普段より繊細に反応を確かめられている。
 与える刺激が恐怖や屈辱に傾くことなく、快楽の範疇に収まるように調整されていた。青山君の身体を知り尽くしている澪にしかできない絶妙な加減。

 キスをされながらうっとりと目を閉じている自分に気づき、青山君はうろたえながら顔を背ける。澪はその小さな反抗を咎めることなく困ったようにほほえんだ。
 意思を尊重されながら愛される居心地の悪さをはっきりと自覚しながらも、身体だけは澪の手管を喜んでいる。

 どういうつもりだよ……。
 訝しげに澪を見上げても、彼は素知らぬ顔で行為を続ける。

 その夜、青山君はめずらしく完全に理性を保ったシラフの状態で澪を受け入れた。
 誰に何をされているのか思い知りながら抱かれている。もうすっかり慣れたはずの、仰向けで足を大きく開く体勢すら、今はやけに恥ずかしい。

「圭吾君、身体起こすからつかまってて」

 澪が首に腕をまわすように促してくる。
 言う通りにすると、ひょいと抱きあげられた。ベッドの上に座る澪にまたがる体勢である。いわゆる対面座位だった。青山君はずしりと奥に届く刺激に背を軋ませる。

「あ゛ぁッ、は……うぅ」
「圭吾君、軽いなぁ」

 澪がひとりごとの音量でつぶやく。

「な、なにこれ……や、あぁっ……」
「知ってるくせに」

 ふふっと澪がからかうように笑う。
 青山君の身体が慣れるまで動かずに待ってくれた。澪に髪をなでられていると、徐々に呼吸が整ってくる。そんな自分が許せない。

 青山君は大昔に当時の彼女をこの体勢で抱いたことがあるけど、当然ながら、抱かれる側ははじめてだ。
 しかし、どう動けばいいのかわからないと焦るのは杞憂だった。澪は青山君に一ミリも主導権を渡してくれなかったからである。
 澪はわざと青山君を後ろにのけぞらせ、自力で身体を支えられないように体勢を崩してきた。背中にまわされた澪の腕に身を任せる以外の選択肢がない。
 それは支配というより、青山君が昔、行為に不慣れな恋人を気づかってあえてすべてのイニシアティブを引き受けたときと同じ、優しさだった。

 深く身体を繋げていると言葉にされなくてもわかってしまう。澪は今夜、青山君との関係を変えようとしている。

 激しく腰を振るには向かない体勢なので、奥を舐めまわすようなゆるやかな抽出だった。いつまでも理性を飛ばすことができず、澪の腕の中でじわじわと愛でられるだけ。弓なりにそらした胸の先端を口に含まれる。

「ひあっ、あぅ……んんっ」

 唇で食まれたり、舌で押しつぶされたり、甘噛みされたり。いつもはわけがわからないまま受け入れていた快感の内訳を、すべて把握させられる。
 澪のピンク色の舌やあどけない唇が好きだった。あの可愛い口に、こんないやらしいことをされている。

「ッふ、うぅ……ぅあっ、そこもうやだ、澪っ」

 顔だけでなく首筋まで真っ赤にしながら、青山君が首を横に振る。澪に整えられた黒髪がはらはらと揺れた。

「あーごめんね、こっちばっかり」

 澪はすっとぼけた態度で謝罪する。そしてもう片方の粒に、先ほどと寸分たがわぬ情熱でむしゃぶりついてきた。
 身体を引こうとしても背中にまわした腕に柔らかく阻まれる。青山君は澪の頭を両腕で抱え、喘ぐことしかできなかった。
 澪のゆるやかにウェーブがかかった絹糸のような髪。これを思いきりつかんで自分の身体から引き剥がすのは容易い。なのに、青山君はいつもと違うやり方で捧げられる快感から抜け出せなかった。

 ちゅくちゅくと可愛らしく舌を鳴らして突起を弄ばれるたびに、青山君は中を締めつけ、奥まで届いている澪の存在を確かめてしまう。時折それに応えるように、澪は気まぐれに腰を揺すった。
 ひときわ激しく鳴かされた直後、ビクッと大きく身体が跳ねた。全身から力が抜ける。繋がっている箇所が痺れるように震えていた。
 
「圭吾君可愛い、ほとんど乳首だけでイっちゃってる」

 澪が嬉しそうに言った。
 自らの淫乱ぶりを伝えてくる言葉に絶望しなければいけないのに、収縮する中の刺激で澪がかすかに表情を歪めるのを見て、腹の奥が疼く。
 もっと欲しい。そう思いながら澪を見つめる。澪は声も出さずに笑った。たんたんたん、と澪が下から突き上げられる。
 誰に、何をされているのか。すべて理解している明瞭な意識を保ちながら鳴かされた。
 澪はいつもみたいに青山君の正気を剥ぎ取り屈服させようとしない。欲しい快感を欲しいだけ与えられる。心地良いだけの絶頂。
 それが恐ろしかった。こんな満たされて気持ちいいだけのセックス、知らない。

「……いつもみたいにしろよ」

 とうとう青山君は降参した。
 澪が動きを止めて訊き返す。

「いつもの?」
「いつもみたいに犯せよ。お前のこと殺したくなるくらいひどくして」

 そうじゃないとだめだ。だってこんなの、まるで恋人みたいだ。俺はこいつを憎み続けなければいけないのに。
 青山君の言葉を聞いて、澪の瞳孔がわずかに開く。そして一拍の沈黙の後、愛らしくほほえみ、残酷なことを言う。

「だーめ。今日は優しくする。俺とのセックス、好きになって」
「あっ、や、やだ……」

 消え入りそうな声で告げた拒絶の言葉を、澪は聞き流さなかった。

「やめる?いいよ。圭吾君、今日は疲れてるもんね」

 青山君が泣き叫んでもやめなかったくせに。今さらどうして。

「いいよ、圭吾君。えっちしなくても、そばにいてくれるだけでいい」

 澪は青山君の体の奥深くに自分のものを埋めながら、真摯なまなざしで優しく告げる。澪のそれは何もしていなくても青山君にもどかしい快感を与えていた。
 やめても続けても、澪から揺るぎなく愛される。逃げ場なんてない。沈むような浮遊感に囚われた。
 青山君は唇を震わせながら澪を睨みつける。

「……やめたら殺す。お前なんて大っ嫌いだ」
「ふふっ」

 澪が笑みの混じった吐息をこぼす。恋人のわがままに翻弄されるのを楽しむ男の顔だった。
 澪は青山君の腰をつかみながら、自らの上半身を後ろに倒した。仰向けに寝そべった澪に青山君が跨る体勢だ。
 中のものが今までと異なる角度で抉ってくる。青山君は小さく悲鳴をあげた。ビク、ビク、と深いところが緩慢に痙攣する。

「圭吾君、騎乗位にされただけで甘イキしちゃったの?」
「……ッうるさい」

 揶揄する澪の声には純粋な嬉しさがにじんでいた。恋人が自分だけに見せる淫らな弱さを愛おしむような。
 言い返した青山君の声色も、表情も、まったく毒が足りていない。すべてが甘すぎて、恋人同士の戯れの枠を出ることができなかった。

「圭吾君、自分で動いてみる?今日の俺のやり方、気に入らないんでしょ。圭吾君の好きなようにしていいよ」

 澪は青山君を見上げながら言った。
 彼の美しい顔を見下ろす。はじめて見る景色だ。澪とのセックスで、はじめて主導権を渡された。
 これまで一度も味わったことがない湿度の高い興奮に背筋が震えた。ふ、ふ、と青山君は今にも乱れそうな、色めいた危うさを孕んだ呼吸を繰り返す。

 ……欲しい。何が欲しいのか気づきたくない。この衝動の正体を知りたくない。

 青山君は破滅的な陶酔に墜ちかけていた。それが可愛くてたまらない、と言いたげに、澪がニヤリと犬歯を見せる。

「今までの復讐すればいいじゃん。圭吾君、俺のことめちゃくちゃに犯して」










しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」 *** 日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。 疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。 彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界! リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。 しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?! さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……? 執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人 ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー ※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇‍♀️ ※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです ※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます 朝or夜(時間未定)1話更新予定です。 1話が長くなってしまった場合、分割して2話更新する場合もあります。 ♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております! 感想も頂けると泣いて喜びます! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...