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※(38)お前のこと殺したくなるくらいひどくして
しおりを挟む普段の交わりは、指や舌だけで何度も絶頂させられ、泣かされ、理性を奪われ、意識が朦朧としているところを貫かれる。
自分の快楽よりも、青山君がよがり狂う姿を見るのが目的なのではないか。そう疑いたくなるほど澪の責めは苛烈だった。
それなのに今日は、なにかが違う。
青山君は寝室で澪と肌を合わせながら戸惑っていた。
澪は青山君に覆いかぶさって指を動かしながら囁く。
「圭吾君、イきそう?イっていいよ」
笑みを含んだ優しい声。青山君はそれが、許可という名の命令に聞こえる。
「ぅあっ、あっ、や……ッ」
一度イかされると立て続けに何度も絶頂させられる。それが怖くて、青山君は無駄とわかりつつも限界まで抗っていた。
耐えきれずに達してしまったときの恐怖と、絶望と、壊されることを心のどこかで期待する暗い愉楽。最後のひとつは認めたくない。
結局、青山君は命令通りに澪の手のひらに熱い欲望を吐き出した。青山君のそこは、後ろを責められて果てる以外の絶頂の仕方を忘れつつある。もはや女を抱くためではなく、中を弄ばれて青山君がどれほど淫らに悦んでいるかを澪に教えるための装置でしかなかった。
あっさりとイかされた青山君は、この後の快楽責めから逃れようとシーツを乱しながらあがく。
「はぁ、ッは……や、澪っ……」
「うん、大丈夫だよ」
しかし今日の澪は、いつもみたいに追いつめてこない。絶頂の余韻を引き延ばすゆるやかな愛撫を施してくれるだけだった。ひたすら甘いだけの快感に、青山君は抗う理由を失くしてつい身を委ねてしまう。
「あっ、あ……ッふ……んあっ」
青山君は、今まで聞いたことがないくらい甘ったるく蕩けた鳴き方をする自分に愕然とした。その様子を澪は愛おしげに見守っている。
「可愛い……」
そうつぶやいた澪に、柔らかく唇をふさがれた。
激しさはないが、手を抜かれているわけではない。むしろ普段より繊細に反応を確かめられている。
与える刺激が恐怖や屈辱に傾くことなく、快楽の範疇に収まるように調整されていた。青山君の身体を知り尽くしている澪にしかできない絶妙な加減。
キスをされながらうっとりと目を閉じている自分に気づき、青山君はうろたえながら顔を背ける。澪はその小さな反抗を咎めることなく困ったようにほほえんだ。
意思を尊重されながら愛される居心地の悪さをはっきりと自覚しながらも、身体だけは澪の手管を喜んでいる。
どういうつもりだよ……。
訝しげに澪を見上げても、彼は素知らぬ顔で行為を続ける。
その夜、青山君はめずらしく完全に理性を保ったシラフの状態で澪を受け入れた。
誰に何をされているのか思い知りながら抱かれている。もうすっかり慣れたはずの、仰向けで足を大きく開く体勢すら、今はやけに恥ずかしい。
「圭吾君、身体起こすからつかまってて」
澪が首に腕をまわすように促してくる。
言う通りにすると、ひょいと抱きあげられた。ベッドの上に座る澪にまたがる体勢である。いわゆる対面座位だった。青山君はずしりと奥に届く刺激に背を軋ませる。
「あ゛ぁッ、は……うぅ」
「圭吾君、軽いなぁ」
澪がひとりごとの音量でつぶやく。
「な、なにこれ……や、あぁっ……」
「知ってるくせに」
ふふっと澪がからかうように笑う。
青山君の身体が慣れるまで動かずに待ってくれた。澪に髪をなでられていると、徐々に呼吸が整ってくる。そんな自分が許せない。
青山君は大昔に当時の彼女をこの体勢で抱いたことがあるけど、当然ながら、抱かれる側ははじめてだ。
しかし、どう動けばいいのかわからないと焦るのは杞憂だった。澪は青山君に一ミリも主導権を渡してくれなかったからである。
澪はわざと青山君を後ろにのけぞらせ、自力で身体を支えられないように体勢を崩してきた。背中にまわされた澪の腕に身を任せる以外の選択肢がない。
それは支配というより、青山君が昔、行為に不慣れな恋人を気づかってあえてすべてのイニシアティブを引き受けたときと同じ、優しさだった。
深く身体を繋げていると言葉にされなくてもわかってしまう。澪は今夜、青山君との関係を変えようとしている。
激しく腰を振るには向かない体勢なので、奥を舐めまわすようなゆるやかな抽出だった。いつまでも理性を飛ばすことができず、澪の腕の中でじわじわと愛でられるだけ。弓なりにそらした胸の先端を口に含まれる。
「ひあっ、あぅ……んんっ」
唇で食まれたり、舌で押しつぶされたり、甘噛みされたり。いつもはわけがわからないまま受け入れていた快感の内訳を、すべて把握させられる。
澪のピンク色の舌やあどけない唇が好きだった。あの可愛い口に、こんないやらしいことをされている。
「ッふ、うぅ……ぅあっ、そこもうやだ、澪っ」
顔だけでなく首筋まで真っ赤にしながら、青山君が首を横に振る。澪に整えられた黒髪がはらはらと揺れた。
「あーごめんね、こっちばっかり」
澪はすっとぼけた態度で謝罪する。そしてもう片方の粒に、先ほどと寸分たがわぬ情熱でむしゃぶりついてきた。
身体を引こうとしても背中にまわした腕に柔らかく阻まれる。青山君は澪の頭を両腕で抱え、喘ぐことしかできなかった。
澪のゆるやかにウェーブがかかった絹糸のような髪。これを思いきりつかんで自分の身体から引き剥がすのは容易い。なのに、青山君はいつもと違うやり方で捧げられる快感から抜け出せなかった。
ちゅくちゅくと可愛らしく舌を鳴らして突起を弄ばれるたびに、青山君は中を締めつけ、奥まで届いている澪の存在を確かめてしまう。時折それに応えるように、澪は気まぐれに腰を揺すった。
ひときわ激しく鳴かされた直後、ビクッと大きく身体が跳ねた。全身から力が抜ける。繋がっている箇所が痺れるように震えていた。
「圭吾君可愛い、ほとんど乳首だけでイっちゃってる」
澪が嬉しそうに言った。
自らの淫乱ぶりを伝えてくる言葉に絶望しなければいけないのに、収縮する中の刺激で澪がかすかに表情を歪めるのを見て、腹の奥が疼く。
もっと欲しい。そう思いながら澪を見つめる。澪は声も出さずに笑った。たんたんたん、と澪が下から突き上げられる。
誰に、何をされているのか。すべて理解している明瞭な意識を保ちながら鳴かされた。
澪はいつもみたいに青山君の正気を剥ぎ取り屈服させようとしない。欲しい快感を欲しいだけ与えられる。心地良いだけの絶頂。
それが恐ろしかった。こんな満たされて気持ちいいだけのセックス、知らない。
「……いつもみたいにしろよ」
とうとう青山君は降参した。
澪が動きを止めて訊き返す。
「いつもの?」
「いつもみたいに犯せよ。お前のこと殺したくなるくらいひどくして」
そうじゃないとだめだ。だってこんなの、まるで恋人みたいだ。俺はこいつを憎み続けなければいけないのに。
青山君の言葉を聞いて、澪の瞳孔がわずかに開く。そして一拍の沈黙の後、愛らしくほほえみ、残酷なことを言う。
「だーめ。今日は優しくする。俺とのセックス、好きになって」
「あっ、や、やだ……」
消え入りそうな声で告げた拒絶の言葉を、澪は聞き流さなかった。
「やめる?いいよ。圭吾君、今日は疲れてるもんね」
青山君が泣き叫んでもやめなかったくせに。今さらどうして。
「いいよ、圭吾君。えっちしなくても、そばにいてくれるだけでいい」
澪は青山君の体の奥深くに自分のものを埋めながら、真摯なまなざしで優しく告げる。澪のそれは何もしていなくても青山君にもどかしい快感を与えていた。
やめても続けても、澪から揺るぎなく愛される。逃げ場なんてない。沈むような浮遊感に囚われた。
青山君は唇を震わせながら澪を睨みつける。
「……やめたら殺す。お前なんて大っ嫌いだ」
「ふふっ」
澪が笑みの混じった吐息をこぼす。恋人のわがままに翻弄されるのを楽しむ男の顔だった。
澪は青山君の腰をつかみながら、自らの上半身を後ろに倒した。仰向けに寝そべった澪に青山君が跨る体勢だ。
中のものが今までと異なる角度で抉ってくる。青山君は小さく悲鳴をあげた。ビク、ビク、と深いところが緩慢に痙攣する。
「圭吾君、騎乗位にされただけで甘イキしちゃったの?」
「……ッうるさい」
揶揄する澪の声には純粋な嬉しさがにじんでいた。恋人が自分だけに見せる淫らな弱さを愛おしむような。
言い返した青山君の声色も、表情も、まったく毒が足りていない。すべてが甘すぎて、恋人同士の戯れの枠を出ることができなかった。
「圭吾君、自分で動いてみる?今日の俺のやり方、気に入らないんでしょ。圭吾君の好きなようにしていいよ」
澪は青山君を見上げながら言った。
彼の美しい顔を見下ろす。はじめて見る景色だ。澪とのセックスで、はじめて主導権を渡された。
これまで一度も味わったことがない湿度の高い興奮に背筋が震えた。ふ、ふ、と青山君は今にも乱れそうな、色めいた危うさを孕んだ呼吸を繰り返す。
……欲しい。何が欲しいのか気づきたくない。この衝動の正体を知りたくない。
青山君は破滅的な陶酔に墜ちかけていた。それが可愛くてたまらない、と言いたげに、澪がニヤリと犬歯を見せる。
「今までの復讐すればいいじゃん。圭吾君、俺のことめちゃくちゃに犯して」
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