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※(49)大丈夫だよ、圭吾君。ちゃんと死んであげるから
澪の噛みつくようなキスに必死で応える。手酷く抱かれることはわかっていた。だけど青山君は拒まない。たとえ何をされても、最後は絶対に澪を抱きしめてやろうと決めていた。
キスの最中に服を剥ぎ取られながら、青山君も澪のシャツのボタンをはずす。激しいくちづけの後、澪が言った。
「圭吾君、意外とキスうまいよね」
キスの仕方を覚えた過程を咎められている気分になった。青山君にも澪への同様のわだかまりがあるから、吐き捨てるように言い返す。
「お前のほうがよっぽどうまいよ。どこで覚えてきたの?」
「やっとヤキモチ妬いてくれて嬉しい」
澪がニヤリと犬歯を覗かせる。彼の怒りの表情をはじめて見たかもしれない。
正直、とてもじゃないが抱かれたい気分ではなかった。澪を宥めるためだけにこの行為を許している。それなのに青山君は、澪のたった一本の指に数十秒でイかされた。
澪は淡々と青山君の身体の奥に指を滑り込ませ、反対の手のひらで腹をおさえる。青山君の薄い腹越しに同じ場所を狙っていた。男の身体の一番弱いところ。
「あ……え?な、なに……や、ああ゛ッ」
中と外からそこを揺らすように圧迫され、最短距離で絶頂に放り出される。何が起きたのかわからなかった。その不条理な衝撃が壮絶な快感だったことを、脳が理解するのを拒否している。
澪は薄笑いを浮かべ、ヒクヒクと痙攣する青山君の身体を見下ろした。
「秒でイかされんの気持ちよかった?圭吾君、さっきまでぜんぜん気が乗らないって顔してたのにね。簡単にスイッチ入れられちゃって可愛い」
まだろくに触れられてすらいない足の間のものや胸の先端は、ごまかしようがないほどはしたなく兆していた。青山君が足を閉じてそこを隠そうとすると、澪はますます笑みを深くする。
「あんまり早くイかせちゃったら圭吾君プライド傷つくかなって思って、今まで手加減してたんだけど。もういいよね、そういうの」
今は青山君に恋人の地位を与えているが、その気になればいつでも愛玩動物に戻せる。先程の、快感と同時に屈辱を与える澪の行為は、青山君に自らの立場を思い出させるための手段だった。
信じられないほど簡単にねじ伏せられ、青山君の怒りは怯えに変わりつつある。自分の身体が子供の玩具にでもなったような気分だった。いまだ心に残酷な子供を棲まわせ続ける澪の玩具。
青山君が好きなあどけない唇が、少し寂しそうに言葉を紡ぐ。
「圭吾君に面倒見てもらったり叱られたりするの楽しかったから……すごく残念」
もう二度と青山君が澪を叱ることができなくなるみたいな言い草だった。少しずつ青山君に預けていた二人の関係の主導権を、これからすべて剥奪される。
こんなときでも澪は青山君に苦痛を与えることができないようだ。身体を開く澪の手は性急ながらもいつも通り優しい。どうしても青山君を傷つけられない澪の弱さは、むしろ青山君の精神を深く抉った。
澪という名の牢獄は、どんなに不可逆に歪んだとしても、愛情の形を保ち続ける。青山君が彼に屈した最大の理由がそこにあった。
「っや、あ、あぁ゛ッ……」
澪の馬鹿、と。青山君は言葉にならない嬌声だけを喉から引き出されながら、胸の内でつぶやく。こんな目にあわされても、澪が可愛くてしょうがなかった。
「中途半端に自由にしたから余計苦しくなっちゃったんだよね、ごめんね。圭吾君はもう何も考えなくていいよ」
「っあ、は、うぅ……澪、話聞いて。俺ほんとにお前のこと……あぁ゛っ」
もう澪は恋人の顔をしていない。両手首を軋むほど強くおさえつけられ、まるで捕食されているような交わりだった。
澪の行為には支配的なのに阿るような甘さがあった。自分が快感を得ることよりも青山君を狂わせることを目的にしている。これ、が上手にできたら愛してもらえる。この子はそう信じてセックスを覚えたのだろう。
何度抱かれたかわからない。青山君の意識は暗転と浮上を繰り返し、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「そろそろいけるかな」
そうつぶやいた澪はゆっくりと、しかし不穏な重さで青山君の身体の奥を抉る。そこで行き止まりのはずなのに、さらに深く進入しようとするかのような。
はじめての感覚に青山君はシーツをばたばたと蹴って腰を引こうとする。
「も、無理……そこもう入んないからっ……」
澪はかまわずに青山君の腰を両手でつかんで引き戻した。自らのものをぎっちりと最奥まで埋めながらも、その先へ押し入ろうとする。
澪が可愛らしくほほえんだ。
「一番エグいところ開発してあげる」
何をされても耐える、という誓いが恐怖で揺らぐ。青山君はシーツを握りしめて半身をひねり、どうにかしてこの深すぎる交わりから逃れようとあがいた。
「っは、あ゛ッ、やっ……入んない!もう無理っ、澪ッ……」
侵入を拒み続けていた身体の奥を、澪のそれがずるりと通過するのを感じ、青山君は引きつった呼吸とともに背をのけぞらせた。自分の臓器が押し開かれる濡れた音が身体の内側で響く。
最奥のさらに向こう。今まで一度も許していない場所だった。そこに澪のものががっちりと嵌まり込む。
もう澪の名前すら呼べなかった。かすれた喘ぎだけが喉からこぼれる。
「あ゛、あ……ッ」
「……入った」
短く告げられた一言。澪の声には暗い興奮が滲んでいた。
最奥を抉じ開けられる拒絶感と快感、そして理不尽な多幸感。雄に屈服させられる雌の愉悦をさらに露骨にしたような、おおよそ理性のある生きものが知ってはいけない類の、劇薬のような絶頂感だった。暴れていた足がだらりと力を失い、澪の律動に合わせて揺れている。
これ、知らない。こんな気持ちいいの知らない。思考を灼き尽くす快感に真っ白になった頭は、そればかり繰り返す。
「これ、女には絶対無理でしょ。男でもここまで届くやつあんまりいないから。圭吾君のこと気持ちよくしてあげられるのは俺だけだよ」
声にならない吐息だけが漏れる。まともに返事もできないけど、快感に震える全身が澪に媚びていやらしい反応を見せていた。
「頭馬鹿になっちゃってもうお喋りできないね。でも死ぬほど気持ちよくて俺のこと大好きって言いたいの、圭吾君のここでわかるから。ふふっ、俺も圭吾君大好き」
その場所は澪にとってもかなり良いらしい。時折快感に理性を持っていかれそうになりながらも青山君を責める顔が可愛かった。
……本当に馬鹿なやつ。澪はただ、これまで通り大学に行って、青山君の作る所帯じみた飯を喜んで食うだけで、青山君のすべてを手に入れられたのに。こいつはセックスで人を繋ぎ止める生き方しか知らない。
このかわいそうなガキのために、ぜんぶ捨ててもいいと思った。この身体も、この人生も。澪がそうしたいなら、一生彼の愛玩動物でいいと思った。
一方的に所有されるだけの関係を受け入れ、澪が愛と呼ぶ凶暴な執着に精神を潰されてもいい。本気でそう思っていた。
「大丈夫だよ、圭吾君。ちゃんと死んであげるから」
澪のこの言葉を聞くまでは。
「圭吾君が俺の夢に付き合ってくれるのは、俺が若くて綺麗で金を稼げる価値があるあいだだけでいいよ。その後は消えてあげる。圭吾君が一生困らないだけのお金を残して死んであげる」
青山君の両目から涙がこぼれた。
将来を捨てて短期間で金を稼ごうとする澪。青山君を受取人に指定した生命保険。
どうして気づかなかったのだろう。このとびきりイカれた不幸なガキが、悲しいほどに自分の価値を知らない彼が、愛情を知らずに生きてきた二十歳の澪が夢見ることができた、永遠の限界に。
「ちゃんと死ぬから、もう少しだけ俺一人のものでいて。いつか圭吾君に俺の存在ぜんぶあげる。俺に抱かれないとイけない身体にしちゃったから、俺のことずっと忘れないよね。圭吾君、ずっと俺のこと覚えててくれるよね」
澪がこんなに美しいのは、最初から人生の閉じ方を決めているから。
青山君が流した涙を、澪は快感によるものだと誤解したらしい。白くしなやかな指が優しくそれを拭ってくれた。
きっとこの子には罰が当たる。そう遠くない未来、この牢獄は本物の地獄に行き着く。澪は運命を受け入れている。
それが許せない。
澪を誰にも渡したくなかった。たとえ澪自身の運命にも。
お前が今まで俺にどんな仕打ちをしてきたか、忘れたとは言わせない。お前は一生罪の意識に苦しむべきだ。その類稀なる美貌が衰えていく哀れな過程を、何十年もかけて俺に見せるべきだ。それでも可愛いって言ってやる。お前のことを綺麗だと思う人間がこの世界で俺一人だけになるまで、澪は生きるべきだ。俺の隣で、生きて罰を受け続けろ。
肉体の限界をとうに超えた快感を与えられ、泣き叫びながらも、青山君は澪の背中に爪を立てた。指が震えてほとんど力が入らない。
澪は弱々しく縋りついてくる青山君が完全に墜ちたと思って、嬉しそうに抱きしめてくれる。青山君の牙の存在に気づかぬまま。
たとえどんな手を使ってでも、澪を自分だけのものにしたい。澪のすべてが欲しかった。彼が隠し続ける過去も、あきれるほどすれ違っている現在も、捨てようとしている未来も、ぜんぶ。
澪という名の牢獄から、絶対に逃げてやる。澪を一人で置いていったりはしない。このクソガキの首根っこをつかんで、二人でここから抜け出してやる。
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