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(リバ要素なし!)青山君がリバに挑戦しようとして返り討ちにされる話
(8)俺は圭吾君で精通したガチ勢だよ
しぬほどよかった。きもちよかった。
放心状態の頭がそればかり繰り返している。青山君はやけに静かな寝室で一人、ベッドに沈んでいた。いつからこうしていたのだろう。快感の余韻をまだ手放せず、甘い倦怠に浸っている。
まともな思考を放棄していたが、ずっと目は開いていた。澪が甲斐甲斐しく行為の後処理をして、青山君に服を着せてくれたのは知っている。優しく額にくちづけられ、その後は……。
「……澪?」
青山君は丁寧にかけられていた毛布を肩からすべり落とし、上体を起こす。
外の静けさやカーテンの隙間から見える空の暗さからして、夜明けはまだ遠い。もうひと眠りできる時間なのに、澪がいない。
澪、ともう一度呼ぼうとしたときに寝室のドアが開いた。マグカップやペットボトルが乗ったトレイを片手に澪が部屋に入ってくる。青山君はトレイを見ながら訊いた。
「なにそれ?」
「圭吾君ごめんなさいセットです」
澪が神妙な口調で答える。青山君のご機嫌取りのための飲みものを用意してきたらしい。
澪はトレイをベッドサイドのテーブルに置く。湯気が立つマグカップには見慣れない液体が入っていた。部屋の灯りは間接照明だけなので色は不明瞭だが黒っぽい。オレンジの輪切りが浮かんでいて、甘くて良い匂いがする。
「ホットワイン作ったの。でもまずはお水ね」
澪はペットボトルの蓋を開けて手渡してきた。青山君の喉がカラカラなのは、お見通しらしい。水を飲んでからマグカップを手にとり、おそるおそる口をつける。ふわりと唇に触れた蒸気すら芳しかった。
甘いのは蜂蜜だろうか。シナモンなどスパイスも何種類か入っている。きっと昔の青山君ならばこの味は苦手だっただろう。だけど澪と暮らすようになり、焼き菓子作りが趣味になった青山君の舌はスパイスの風味や洋酒の味を好むようになっている。じわりと胃があたたまるのが心地よかった。
しばらくのあいだ、澪と差し向かいでホットワインを飲んでいた。青山君はベッド、澪はベッドサイドの椅子に座っている。ベッドに入ってこない澪の微妙な屈託が愛おしい。
二人とも無言だったけど、穏やかな丸みのある沈黙だった。遠くでバイクが走る音がする。
「うまい」
青山君は素直に言った。澪は嬉しそうに、しかし控えめにほほえむ。
「よかった」
「また作って、これ好き」
澪が頷く。青山君は仏頂面で続けた。
「でも、減点」
「えっ……」
不安に揺れる琥珀色の瞳から目をそらさずに言う。
「こんなご機嫌取りより、お前がずっとそばにいるほうが嬉しい。勝手にどっか行くな」
マグカップをテーブルに置いた澪を、ベッドに引っ張り込む。まだ体勢が整わない澪にくちづけた。ホットワインのせいで二人とも舌が熱い。
唇が離れた途端に澪が訊く。
「圭吾君、怒ってる?」
「なんで?」
「……いじわるしたし、圭吾君に無理させたから」
今夜の澪は、彼らしからぬ察しの悪さだ。まさかこの坊やは、俺に直々に説明させる気か。いじわるされるのも無理させられるのも、ときどきだったら、なにより澪が相手ならば、いやじゃないということを。
「澪……」
「俺、圭吾君になら抱かれてもいいよ、ほんとだよ」
いつも完璧に空気を読む澪が、今は会話すら噛み合わない。こいつの頭の中もぐちゃぐちゃになることがあるんだな、とおかしくなった。ふふ、と笑う青山君を、澪は不思議そうに見つめる。
彼の柔らかなダークブラウンの髪をわしゃわしゃとなでまわしながら、青山君は優しく言った。
「抱かれなくていいよ。澪はずっと俺の上で生意気言ってな」
「俺の彼氏ほんとかっこいい……」
澪は両手で顔を覆いながら俯いた。
好き好き大好きと仔猫みたいに甘えてくる澪の背中を抱きとめ、充足感に浸る。今なら正直に言えそうだった。
「澪が可愛いから抱いてみたかったのは本当だけど、お前に飽きられないか不安だった。あの……夜のほう、澪にぜんぶ任せてるの申し訳なくて、だからたまにはいつもと違うことしたくて」
澪はぽかんと口を開けていた。青山君のことはなんでもお見通しみたいにふるまうくせに、この発言はまったく予想できなかったらしい。
「圭吾君、そんなこと考えてたの?」
「普通考えるだろ」
「不安にさせちゃった?」
子供みたいに甘えていた澪が、男の顔になって青山君を腕の中に閉じ込めた。青山君は首を横に振る。
「澪はなんにも悪くないよ、大事にしてくれてるのわかってる。俺が勝手に不安になっただけ」
自分はこんなに平凡なのに、魅力的すぎる恋人がいたら。よほど肝の太い人間じゃないかぎり、いくら愛されていてもたまには不安になる。それに澪はまだ二十一歳で、青山君より十歳も年下なのだ。
じ、と青山君を見つめ、澪は思い詰めた表情で言った。
「まだガキの俺が、いつか本当に進みたい道、共に人生を歩みたい人を見つけたら潔く身を引こう……なんて思ってたら許さないから」
その言葉を聞いて、青山君は息が止まりそうになる。
「年下には年下の不安があるの」
澪は青山君を胸に抱き、顔を見られないようにしながら続けた。
「圭吾君、大人だから。俺が何をやらかしてもずっと優しいじゃん。優しいけど、俺のことまだガキだと思ってるでしょ……俺は何があっても一生圭吾君のことだけが大好きだってこと、どうしたら信じてもらえるんだろう」
ごめん、と言う代わりに、青山君は澪の背中に腕をまわし強く抱きしめた。
「正直、圭吾君に抱きたいって言われたとき、ちょっと嬉しかった。圭吾君、俺で勃つんだなぁって。いつも俺ばっかりがっついてるみたいだったから」
自信に満ち溢れた美青年の澪の顔だけを見ていると、見失いそうになる。ひとりぼっちで誰にも優しくしてもらえなかった小さなミィちゃんのことを。
この子には溺れるほどの愛情が必要で、青山君は不安になっている場合ではなかったのだ。
「好きだよ、澪のこと。誰にも渡したくない。年末の旅行で大浴場行ったとき後悔したもん。お前の身体、誰にも見せたくなかった」
澪がやっと顔を見せてくれた。くすぐったそうに笑っている。
「もっと言って」
「澪に俺よりふさわしい相手がいたとしても、俺はずっと澪の隣にいたい」
青山君はニヤニヤしている澪を挑発した。
「バリタチ君、俺だけに言わせっぱなしかよ」
「俺は圭吾君で精通したガチ勢だよ。飽きるとか飽きないとかそういう次元じゃないから」
「ちなみに精通したの何歳?」
「は?……えぇ、十五」
「俺は十三だから」
ほぅ、と澪は真剣に頷く。そして次の瞬間、素っ頓狂な声をあげた。
「圭吾君、なんで俺いまマウントとられたの?」
二人でくすくす笑いながら毛布に包まる。澪は青山君を腕の中に収めながら、ぼそぼそと白状した。
「……抱かれてもいいって言ったけど、本当は怖いかも」
その言葉を聞いて青山君は背筋が寒くなる。かつて澪が大人からそれを求められ、傷つきながら逃げまわった過去を知っているからだ。何度も肌を重ね、想いを通じ合わせた自分ならば、大丈夫だと思ってしまった。
「澪、本当にごめん」
「あっ、ちがう!そういう意味じゃない!」
澪は慌てて否定する。
「圭吾君だけは特別だから、そういう意味で怖いわけじゃない。圭吾君にだったら何されてもいい。なんていうか……仮に圭吾君が俺を抱いたとして、やっぱり女とするほうがいいって思われたら怖いなって思ったの」
「思うわけないじゃん。お前、本当に自覚ないよな」
自分がどれほど魅力的なのか。そしてどれほど青山君から愛されているのか。
澪は嬉しそうに笑いつつも言い返してきた。
「圭吾君に言われたくない」
「お前が世界で一番可愛いよ」
いわゆるピロートークのための大げさな甘言ではなく、常々思っている本音だった。
「……俺だってずっと若くて可愛いままでいられるわけじゃないし」
澪が本気で不安そうな顔をするので、青山君は笑ってしまった。
「お前の可愛さって顔じゃないから。そのヤバくて重い性格にハマってるんだよ、俺は。だからお前は一生可愛いよ」
あー……と澪は片手で目元を隠し、天井を見上げる。
「信じてもらえないかもしれないけどぉ、俺ほんとはかなり節度のある人間なんだけどぉ、圭吾君がすっげー煽ってくるから、もう一回したい……」
「しねえよ馬鹿」
澪が言い終わる前に青山君は断言した。そして彼の可愛らしい唇に自らのそれを押し当てる。澪を寝かしつけるための、単純でまっすぐな愛情を込めたキスだった。
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