底辺男が十歳下の溺愛執着系イケメンホストに買われる話(本編完結済み)

猫と模範囚

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バレンタイン短編・青山君は澪にガチ本命手作りチョコを渡せるのかスペシャル(全6話)

※(3)圭吾君、なんか萎えること言って




 澪は人目のある時間帯に青山君から手を繋がれたことが、よほど嬉しかったらしい。その夜の彼はいつにも増して熱烈だった。
 あいかわらず夜の行為の頻度は多いほうだと思う。今の澪は調教や支配を目的に青山君を抱いたりしない。だけど、ただ純粋に甘えてくるだけの彼に何度でも思い知らされてしまう。もう青山君は、澪じゃないと満たされない。

「む、無理……もう出ないからぁっ……」

 灯りを絞った寝室で、青山君は声が枯れるほど喘がされ息も絶え絶えになっていた。

「ふふっ、こっち勃たなくなっちゃったのにイくの止まんないね」

 絶頂の合間に耳元で囁かれる。

「圭吾君、可愛い。女の子みたい」

 アレをしごかれながら女の子扱いされる情けない倒錯感に、目眩がするほど興奮する。澪にしがみついて泣きわめいているうちに快感の波に飲まれて気が遠くなった。
 そして青山君は、いつのまにか澪の腕の中で事後のけだるい充足感に浸っている。幸せそうに微睡んでいる澪を起こさぬようにそっと寝返りを打った。天井を見つめながら青山君は真顔になる。

 ……女役なのか、俺は。

 セックスにおける二人の役割が偏っている件は、互いに納得済みである。澪はベッドの中で何もできずに喘ぐだけの青山君を心底愛しているし、青山君も完膚なきまでに主導権を奪われる快感を忘れられない。
 その関係性が日常にまで侵食してきてはいないだろうか。男同士なのに、青山君はバレンタインデーで迷うことなく贈る側の立場を選んでいた。いわゆる、女性側。
 ……いや、しかし、焼き菓子作りが得意な青山君は二月十四日にも己の腕を奮いたかっただけで、べつに乙女の立場に甘んじようと思ったわけではない。

 そもそも青山君のことを女の子みたいだなどと抜かすのは、世界広しといえど澪一人だけである。
 顔立ちはごく平均的な男のそれで、女に間違えられたことなど一度もない。とりわけ母子家庭だった青山君は、中学校に上がると同時に母の身長を追い越し、家の中で力仕事を引き受けていた。同世代と比べてかなり早い段階から男扱いされてきたと思う。
 三十すぎの今は痩せっぽちの貧相な身体つきだが、あくまでもそれは男の軟弱さだ。儚さも柔らかさもない。

 青山君は、すやすやと寝息を立てる澪の可憐な顔をチラと横目で見た。どちらかといえば女の子みたいなのは澪のほうだ。だって青山君は、幼い澪を少女だと勘違いしていたくらいなのだから。
 睫毛が長くて中性的な美しい顔。長身だけど細部のパーツが繊細で、真っ白な足の指とか、妙に色気のあるうなじとか、澪に恋する前の女しか愛せないと信じていた頃の青山君でさえ、ドキッとする瞬間があった。
 寝室のクローゼットの服は七対三の割合で澪のもののほうが多いし、洗面所の棚には澪のヘアオイルや化粧水がひしめいているし、澪は水族館で買ったダイオウイカのぬいぐるみに王様と名付けてたまに話しかけているし……澪の女の子みたいな一面を思い返していくうちに、青山君は頭を抱えた。可愛すぎる。
 そもそも性別に“らしさ”などない。澪がやることならなんでも可愛い。ホストクラブを辞めたとき、公衆の面前で店長をぶん殴り七階の窓から逃走した澪の狂犬ぶりすら可愛くてしょうがなかった。

 翌日、遅番のシフトの青山君より早くバイトにでかける澪を玄関まで見送る。
 澪は青山君といっしょのときは大人びた格好をする。青山君との年齢差を埋めたいのだと思う。背伸びする澪はにくたらしいほどかっこいい。だけど一人でバイトや大学にでかけるときの澪の、青山君とデートするときより少しやる気がなくて年相応にラフな装いは、二十一歳の彼本来の魅力が出ていて好ましかった。

 いつも通り、澪からいってきますのチューをされる。触れるだけの軽いキスの最中に、青山君はついうっかり激しかった昨夜を思い出してしまった。それを察した澪が調子に乗って舌を入れてくる。
 でかける澪を見送るつもりが、勢い余って玄関で立ったまま身体を繋げてしまったことが過去に何度かあった。だが、今日は絶対に遅刻させずに送り出す。絡ませた舌から青山君の無言の圧を感じ取った澪が目を細めて笑った。

「かわい……」
「ッお前、しつこい……」
「無理、勃ちそう。電車乗り遅れちゃう。圭吾君、なんか萎えること言って」

 突然の無茶振りに青山君は頭の片隅にあった適当な単語を言い連ねる。

「は?えっ……確定申告、敵討ち、いたちごっこ」
「いたちごっこはエロい。却下」
「なんつー性癖してるんだよお前は……」

 あきれながらも、青山君はカバンを肩にかけているせいで少しよれた澪の襟元を直してやる。澪が琥珀色の瞳を輝かせ、くすぐったそうに微笑んだ。

「なんか新婚さんみたい」

 澪の言葉を受け、青山君はぼそりと呟く。

「新婚さんのいたちごっこ」
「ほらね!エロいじゃん!」
「早く学校行け」

 ぎゃはは、と二人で笑い合って手を振った。玄関のドアが閉まり、一人残された青山君は唇を笑みの形に歪めたまま澪の言葉を反芻する。新婚さんみたい。
 どちらが新妻役なのだろうか。青山君はエプロンをつけた自らの身体を見下ろし、再び真顔になる。






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