21 / 28
21
しおりを挟む
王太子即位の儀から一夜明け、私は晴れてこの国の「王太子妃」……実質的な次期王妃としての第一歩を踏み出しました。
しかし、目覚めてすぐに王宮の廊下を歩いた私の口から出たのは、祝福の言葉ではなく、深いため息でした。
「……アン。三行で今の私の絶望を代弁なさい」
後ろを歩く侍女のアンが、手帳を片手に神妙な面持ちで答えます。
「一つ、王宮のカーテンの裾が、昨夜の風で3ミリほど右にズレていますわ」
「二つ、すれ違う近衛兵たちの髭の剃り跡が、朝日に照らされて青々としすぎていますの」
「三つ、何より……この王宮の予算書。美を維持するための『美容維持費』が、軍事費の百分の一もありませんわ! これは国家的な危機ですわよ!」
「その通りですわ。よく分かっていてよ、アン」
私はそのまま、セシル様が執務を行っている大広間へと乗り込みました。
そこには、新しく王太子となったセシル様を囲み、これからの国政について議論する大臣たちが集まっていました。
「セシル様! 重大な提案がございますの!」
私が扉を勢いよく開けると、セシル様はペンを止め、少しだけ困ったような、けれど愛おしそうな眼差しをこちらに向けました。
「……ノノカ。朝から元気だな。今度はどこの『顔面偏差値』が足りないと言いに来たんだ?」
「あら、個人の問題ではありませんわ。国家の『根幹』に関わる大問題ですのよ」
私は大臣たちが広げている、埃っぽい紙の山を扇で指し示しました。
「皆様。三行で、私の『新国家建設プラン』の概要を説明しますわね」
大臣たちが一斉に姿勢を正します。私の毒舌が、もはやこの国の「標準」になりつつあるのは、少しばかり愉快ですわね。
「一つ、王宮内の全てのカーテンと絨毯を、セシル様の瞳が最も美しく映える色に新調しますわ」
「二つ、役人の採用基準に『清潔感』と『姿勢の良さ』を項目として追加。背中の曲がった政治は、国民の心も曲げますもの」
「三つ、そして! 『美の特別予算』を編成し、全国民に基礎化粧品を配布。国民が美しくなれば、自然と犯罪も減り、国全体が輝き出しますわ!」
静まり返る広間。
一人の年配の大臣が、恐る恐る口を開きました。
「……王太子妃殿下。お言葉ですが、そのようなことに予算を投じれば、国防やインフラ整備が疎かになるのでは……」
「あら、大臣。三行で反論させていただきますわ」
私は優雅に椅子に座り、足を組み替えました。
「一つ、美しく整えられた街並みは、それだけで外敵に対する『威圧感』になりますわ。乱れた国は、付け込まれる隙を与えるだけですの」
「二つ、インフラ整備こそ美学ですわ。機能的で美しい道路、左右対称な橋。それこそが文明の証ではありませんこと?」
「三つ、何より。……美男子であるセシル様が治める国が、中身も外見もボロボロなんて、そんなの、私のプライドが許しませんわ!」
セシル様はふっと息を吐き、椅子にもたれかかりました。
「……大臣たち。彼女の言うことは一見突飛だが、本質を突いている。……人は美しいものに集まり、美しいものを守ろうとする。この国を『世界一美しい国』にする。それは、武力で国を大きくするよりも、ずっと強固な基盤になるかもしれん」
「セシル様……っ! さすが私の選んだ至宝ですわ!」
「ただし、予算の配分は私が管理する。ノノカ、貴様に任せると、国庫の金が全て最高級の美容液に消えてしまいそうだからな」
「あら、バレてしまいました? でも、セシル様の肌のためなら、それくらいの投資は安いものですわよ」
私がいたずらっぽく笑うと、セシル様も観念したように笑みを返しました。
「……さて。大臣たち。まずは、このカビ臭い報告書の書式を変えるところから始めようか。ノノカが読みやすいように、要点を『三行』にまとめる習慣をつけるんだ」
「は、ははっ! 承知いたしました!」
大臣たちが慌てて書き直しを始める姿を見て、私は満足げに頷きました。
セシル様との新時代。
それは、毒舌と美学、そして溢れんばかりの「美男子愛」に満ちた、最高に輝かしいものになりそうですわ。
……もっとも、まずはあの近衛兵たちの『髭剃り指導』から始めなくてはなりませんけれど。
しかし、目覚めてすぐに王宮の廊下を歩いた私の口から出たのは、祝福の言葉ではなく、深いため息でした。
「……アン。三行で今の私の絶望を代弁なさい」
後ろを歩く侍女のアンが、手帳を片手に神妙な面持ちで答えます。
「一つ、王宮のカーテンの裾が、昨夜の風で3ミリほど右にズレていますわ」
「二つ、すれ違う近衛兵たちの髭の剃り跡が、朝日に照らされて青々としすぎていますの」
「三つ、何より……この王宮の予算書。美を維持するための『美容維持費』が、軍事費の百分の一もありませんわ! これは国家的な危機ですわよ!」
「その通りですわ。よく分かっていてよ、アン」
私はそのまま、セシル様が執務を行っている大広間へと乗り込みました。
そこには、新しく王太子となったセシル様を囲み、これからの国政について議論する大臣たちが集まっていました。
「セシル様! 重大な提案がございますの!」
私が扉を勢いよく開けると、セシル様はペンを止め、少しだけ困ったような、けれど愛おしそうな眼差しをこちらに向けました。
「……ノノカ。朝から元気だな。今度はどこの『顔面偏差値』が足りないと言いに来たんだ?」
「あら、個人の問題ではありませんわ。国家の『根幹』に関わる大問題ですのよ」
私は大臣たちが広げている、埃っぽい紙の山を扇で指し示しました。
「皆様。三行で、私の『新国家建設プラン』の概要を説明しますわね」
大臣たちが一斉に姿勢を正します。私の毒舌が、もはやこの国の「標準」になりつつあるのは、少しばかり愉快ですわね。
「一つ、王宮内の全てのカーテンと絨毯を、セシル様の瞳が最も美しく映える色に新調しますわ」
「二つ、役人の採用基準に『清潔感』と『姿勢の良さ』を項目として追加。背中の曲がった政治は、国民の心も曲げますもの」
「三つ、そして! 『美の特別予算』を編成し、全国民に基礎化粧品を配布。国民が美しくなれば、自然と犯罪も減り、国全体が輝き出しますわ!」
静まり返る広間。
一人の年配の大臣が、恐る恐る口を開きました。
「……王太子妃殿下。お言葉ですが、そのようなことに予算を投じれば、国防やインフラ整備が疎かになるのでは……」
「あら、大臣。三行で反論させていただきますわ」
私は優雅に椅子に座り、足を組み替えました。
「一つ、美しく整えられた街並みは、それだけで外敵に対する『威圧感』になりますわ。乱れた国は、付け込まれる隙を与えるだけですの」
「二つ、インフラ整備こそ美学ですわ。機能的で美しい道路、左右対称な橋。それこそが文明の証ではありませんこと?」
「三つ、何より。……美男子であるセシル様が治める国が、中身も外見もボロボロなんて、そんなの、私のプライドが許しませんわ!」
セシル様はふっと息を吐き、椅子にもたれかかりました。
「……大臣たち。彼女の言うことは一見突飛だが、本質を突いている。……人は美しいものに集まり、美しいものを守ろうとする。この国を『世界一美しい国』にする。それは、武力で国を大きくするよりも、ずっと強固な基盤になるかもしれん」
「セシル様……っ! さすが私の選んだ至宝ですわ!」
「ただし、予算の配分は私が管理する。ノノカ、貴様に任せると、国庫の金が全て最高級の美容液に消えてしまいそうだからな」
「あら、バレてしまいました? でも、セシル様の肌のためなら、それくらいの投資は安いものですわよ」
私がいたずらっぽく笑うと、セシル様も観念したように笑みを返しました。
「……さて。大臣たち。まずは、このカビ臭い報告書の書式を変えるところから始めようか。ノノカが読みやすいように、要点を『三行』にまとめる習慣をつけるんだ」
「は、ははっ! 承知いたしました!」
大臣たちが慌てて書き直しを始める姿を見て、私は満足げに頷きました。
セシル様との新時代。
それは、毒舌と美学、そして溢れんばかりの「美男子愛」に満ちた、最高に輝かしいものになりそうですわ。
……もっとも、まずはあの近衛兵たちの『髭剃り指導』から始めなくてはなりませんけれど。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる